祝10周年!中村獅童が前人未到の道を進み続けた「超歌舞伎」の“軌跡と未来”を語る (2/2)

「誰にでもチャンスがある」ってことを証明したいだけ

──2023年の歌舞伎座公演で獅童さんから「第1期の終了」が宣言されたので、今回は第2期の始まり。気になる新作についても教えてください。

協議した結果、10年間のこれまでへの思いも込めて、印象的だった場面を全部つなげて、一つのストーリーに仕立てることはできないか?というプランで進めています。無理なお願いでしたが、ものすごく上手にまとめてくださいました。10年分の思いと、未来に向けた期待感で舞台と客席が一つになるようなメッセージをお届けしたい。今回は初めて、口上なしで本編に入るんです。もう説明しなくてもファンの方たちはわかってくださっているし、口上なしでどこまでお客様と一つになれるかの挑戦でもあります。

──初参加の方も多い新鮮な座組みです。

中村時蔵くん、中村歌昇くん、中村種之助くん……今回は萬屋一門、播磨屋一門、小川家の皆に参加してもらいたかったんです。あと尾上左近くんと夏に歌舞伎「刀剣乱舞 東鑑雪魔縁」で共演した際、「理想の女性は初音ミクさん」と聞いて、「じゃあ出てよ!」とお願いしました(笑)。息子2人に関しては、陽喜は女方も立役もやりたいらしく、白塗りの役(碓井貞景丸)に、(中村)夏幹は断然立役が好きなので赤面の役(坂田公平丸)と、当初の予定から役を入れ替えました。役を取り合わず、驚くほどスムーズに決まりましたね(笑)。

歌舞伎座_第一部 超歌舞伎 Powered by NTT「今昔饗宴千本桜」(2023年)より。左から小川夏幹演じる夏櫻丸、中村獅童演じる佐藤四郎兵衛忠信、小川陽喜演じる陽櫻丸。 ©松竹/超歌舞伎Powered by NTT「今昔饗宴千本桜」

歌舞伎座_第一部 超歌舞伎 Powered by NTT「今昔饗宴千本桜」(2023年)より。左から小川夏幹演じる夏櫻丸、中村獅童演じる佐藤四郎兵衛忠信、小川陽喜演じる陽櫻丸。 ©松竹/超歌舞伎Powered by NTT「今昔饗宴千本桜」

──五十代を迎えても挑戦し続ける獅童さんは、若い頃になかなか役が付かなかったご苦労をいろいろなインタビューで語っていらっしゃいますが、それでも歌舞伎を諦めなかったのはなぜだったのでしょう? 辞めたいと思ったこともありますか?

辞めたくなったことなんて、何回もありましたよ。思春期になると「歌舞伎界に父親がいないっていうのは、こういうことなんだ」と現実を突きつけられましたし、19歳のときに松竹の方に「主役は難しいですよ。自分で自分の名前を売ってください」と言われたときからオーディション人生が始まりましたから。

──それでも続けたのは、負けず嫌いからでしょうか?

負けず嫌いもあったかもしれないけど、キレイ事を言うと歌舞伎が好きだからです。もちろん辞めて全然違う人生を歩む選択肢もありましたが、一番の理由は、運命に負けたくないと思ったから。与えられた運命のレールを歩いて、主役になれない自分を受け入れるのは簡単だったと思うんですね。でも“中村獅童の生き方”を自分で作って、無理と言われたことを実現させる人間になりたかった。だから、御曹司の方を恨むとか、誰かを蹴落とすとか、そういった気持ちは一切なくて、常に“対自分”なんですよ。「お父さんがいないなら辞めちゃおう」とか「主役は諦めよう」とか、「そんなの当たり前じゃん、つまんないな」と思ったんです。

──そこまで前向きに努力をしてチャンスを掴み、新しい観客層を歌舞伎座に連れてきていることがすごいです。

ここまでがんばれたのは(十八世中村)勘三郎さんの一言もすごく大きかったんですよ。まだ何者でもないとき、みんなで呑んで明け方に解散する間際に僕を指差して「この人、天下取るよ」と言ってくださったことがあるんです。まだ映画「ピンポン」で名前が世に出る前、20歳そこそこのときですよ。だから映像に出てブレイクしたときも「俺は当たりくじ引いたんだよ、昔からこいつが行くってわかってた!」と自慢げにおっしゃってくださって(笑)。僕は自分の人生を通して、「誰にでもチャンスがある」ってことを証明したいだけなんです。

中村獅童

中村獅童

プロフィール

中村獅童(ナカムラシドウ)

1972年、東京都生まれ。1981年に歌舞伎座「妹背山婦女庭訓」で二代目中村獅童を名乗り初舞台。歌舞伎俳優として活躍する傍ら、2002年に公開された映画「ピンポン」で注目を集め、以降舞台、映像と幅広く活動。来年2月に博多座にて「二月花形歌舞伎 あらしのよるに」に出演、3月27日に映画「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」が公開される。

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