大舞台を経て、さらに大きくなっていく
──昨年はお二人で「三社祭」(参照:市川猿之助の代役・坂東巳之助へ客席から拍手、「八月花形歌舞伎」開幕)も踊られましたね。
染五郎 2人だけでもたくさん稽古し、思い出深い舞踊になりました。「三社祭」は「弥生の花浅草祭(やよいのはなあさくさまつり)」の悪玉と善玉の踊りのパートですが、いつか2人で(フルバージョンである)四段返しに挑みたいと思っています。
團子 ぜひ! 「三社祭」は、これまで感じたことのないようなプレッシャーを体感した経験でした。いかにこれまで、お兄さんたちが作ってくださった空気に包まれてやっていたか……。まざまざと今の自分の力を知った舞踊ですし、また成長して挑戦したいです。
──今年お二人はそれぞれに、大舞台をご経験。團子さんは3月「新・三国志」(参照:松本幸四郎が石川五右衛門勤める「三月大歌舞伎」開幕、市川猿之助演じる関羽は宙乗り)で関羽の息子の関平(初演で市川猿之助が勤めた役)を、染五郎さんは6月「信康」でタイトルロールを勤められました。お互いの舞台はご覧になりました?
團子 観ました! もう、もう、もう(染五郎に向けて両手をサムズアップ)。
一同 (笑)。
團子 信康が鉄砲を構えて出てきた瞬間から鳥肌が立ちましたし、感動しました。
──染五郎さんにとって「信康」は、どんな経験になりましたか? 21歳の若さで切腹する信康の悲劇、客席からすすり泣く声も聞こえました。
染五郎 演じることは意識的に役に自分を同化させていくことですが、無意識的にも自分の中にどんどん染み付いていくので、演じれば演じるほど、信康の心に重なりツラくなり、精神的にハードな月でした。悔しい涙、悲しい涙、怒りの涙、うれしい涙……各幕ごとに違う感情、そしてゼロから大きくたかぶらせていく役で、(3幕それぞれ)3回上げていくのが大変で。学びの多い、大きな経験でしたね。あの……僕は「新・三国志」が観に行けなくて。とても拝見したかったのですが。
──では私が團子さんの勇姿について語っても良いですか? 関平、とても凛々しくて感動いたしました。真っ直ぐ高く刀を持って、力強く引っ込んでいく若々しい姿が目に焼き付いています。
團子 ありがとうございます。やってもやっても理想に近づけず、日々精進です。もっと歌舞伎の雰囲気を身につけたいです。スーパー歌舞伎をやると、特に強く感じます。
──お二人とも今の年齢の全部を舞台に乗せていて、夢と向上心にあふれ、まぶしいです! 最後に、将来お二人が“やじきた”をされるとしたら、どんな作品にしたいですか?
(顔を見合わせる二人)
──念のための確認ですが、どちらがどの役をされますか?
(二人ほぼ同時に)
染五郎 弥次さんで。
團子 喜多さんで。
──即答でしたね(笑)。
染五郎 内容はまったく想像もつきませんが、これだけシリーズとして続くこと自体が珍しいですよね。もし将来、やらせていただけるような時代が来たら、やはりシリーズとして皆様に愛される作品が作れたらと思います。
プロフィール
市川染五郎(イチカワソメゴロウ)
2005年、東京都生まれ。十代目松本幸四郎の長男。祖父は二代目松本白鸚。2007年に歌舞伎座「俠客春雨傘」にて初お目見得。2009年「門出祝寿連獅子」にて四代目松本金太郎を名乗り初舞台。2018年に高麗屋三代襲名披露公演「壽 初春大歌舞伎」にて八代目市川染五郎を襲名。2013年国立劇場「春興鏡獅子」胡蝶の精にて市川團子と初共演。9月は歌舞伎座「九月大歌舞伎」に出演。
市川染五郎 (@somegoro_official) | Instagram
市川團子(イチカワダンコ)
2004年、東京都生まれ。九代目市川中車の長男。祖父は二代目市川猿翁。2012年に「ヤマトタケル」で五代目市川團子を名乗り初舞台。2013年国立劇場「春興鏡獅子」胡蝶の精にて市川染五郎(当時 松本金太郎)と初共演。9月は「市川猿之助 春秋座 特別舞踊公演」に出演。
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