奇跡の五右衛門対談!松本幸四郎と古田新太が語る、3月は「石川五右衛門」で会いましょう

“ゆるりと歌舞伎座で会いましょう”をキャッチコピーに、コロナ禍でも工夫を凝らし、毎月多彩な演目を上演している歌舞伎座。3月の「三月大歌舞伎」第三部には、天下の大盗賊の活躍を描く「石川五右衛門」が登場する。盗賊でありながら多くの人に愛され、舞台はもちろん、今なおさまざまなメディアで多様に語られ続ける五右衛門。今回は、「三月大歌舞伎」での五右衛門役を演じる松本幸四郎と、劇団☆新感線「五右衛門ロック」シリーズ(編集注:2008年の第1弾「五右衛門ロック」が人気を博し、2010年「薔薇とサムライ~GoemonRock OverDrive」、2012年「ZIPANG PUNK~五右衛門ロックⅢ」、2015年「五右衛門vs轟天」が上演された)で過去4作にわたり五右衛門役を演じた古田新太の、奇跡の“五右衛門対談”が実現。五右衛門に関するエピソードから共演の思い出、コロナ禍で舞台に立つ思いなど、2人の話は大爆笑の中、多岐にわたって繰り広げられた。

取材・文 / 川添史子

自由なイマジネーションが投影された五右衛門の世界

──本日は“豪華五右衛門対談”が実現。ご共演経験もある知己のお二人に大いに自由にお話しいただこうと思っていますが……顔を合わせるのは昨年5月のオンライントーク「歌舞伎家話」(参照:いのうえひでのり&古田新太、幸四郎&松也がホスト務める「歌舞伎家話」にゲスト出演)以来でしょうか?

松本幸四郎 そうですね。あのときに古田さんが、宅飲み網焼き器“アミ焼大将”をオススメされたじゃないですか。トーク後すぐに入手して、そのすごさを実体験しました。たこ焼きプレートまで付いているのも、すごく良くて。

古田新太 あれは素晴らしいよね。このコロナ時代でよかったことは、“アミ焼大将”に出会えたこと。あとは“成城石井 千年屋 トリュフのドレッシング&ソース”もオススメだね。何に付けてもうまい。今うちでは、白身魚にかけて食べるのがはやってる。

幸四郎 (真剣に手元の手帳にメモしながら)ドレッシング……最近の僕のオススメは、黒トリュフフレーバーポテトチップスです。

古田 それ、うまそう。

──大いに自由にお話くださいと言いながら恐縮ですが、五右衛門のお話を……。

幸四郎 僕は確か、大阪で「ZIPANG PUNK~五右衛門ロックⅢ」(2012年)を観ています。始まる前に楽屋にあいさつに行ったら、「古田さん、寝てるよ」って言われて、「え、このタイミングで寝るんだ」と驚いた記憶があります。

古田 あははは!

幸四郎 新感線の五右衛門は、とにかくすべてが洗練されているんですよ。ボケ、ツッコミ、殺陣、ボケたあとのコケ方に至るまで、すべてにおいてムダがない。

古田 うちの五右衛門はデタラメだし、泥棒しないんだよ。(中島)かずきさんのホンだから、基本、スーパーマンだし。

幸四郎 確かに、スーパーヒーローですね。

劇団☆新感線「ZIPANG PUNK~五右衛門ロックⅢ」(2012年)より。

劇団☆新感線「ZIPANG PUNK~五右衛門ロックⅢ」(2012年)より。

古田 釜茹での刑から逃げるところから始まって、そのあと世界の海を渡って海賊みたいになって……ほぼ「ONE PIECE」の世界です。悪い奴を懲らしめたりもするけど、基本、仲間たちとふざけてる(笑)。

──古田さん演じる五右衛門は歌舞伎の拵えを踏襲しつつ、さらに奇抜でド派手にアレンジされています。歌あり、踊りあり、殺陣もハードなので、五右衛門を演じるたびに痩せるとか。

古田 かつらは歌舞伎より大きいし、あの衣裳、ほぼ布団だから。高下駄で出てくるだけでもしんどいのに、全体的にノリが軽いから大変そうに見えないのは弱点だね。考えてみれば、出オチみたいな格好だし。

劇団☆新感線「薔薇とサムライ~GoemonRock OverDrive」(2010年)より。

劇団☆新感線「薔薇とサムライ~GoemonRock OverDrive」(2010年)より。

幸四郎 苦労が報われない(笑)。今回僕がやる「増補双級巴 石川五右衛門」は五右衛門を題材にした、数々の狂言をもとに再構成された作品なんです。盗みに入った家で豊臣秀吉(劇中の名前は此下久吉)とバッタリ出会い、同じ盗賊仲間だった若い頃を仲良く懐かしむユニークな場面があったりと、面白い場面や有名なセリフをつなぎ合わせた作品で。

古田 五右衛門と秀吉って幼なじみなんだ……。

幸四郎 もちろんフィクションですけど(笑)、天下の大盗賊と天下を盗んだ人物が昔に戻ったようにくつろいで、寝そべって頬杖をつきながらこれまでの身の上を語り合う場面があるんです。立派な拵えとアンバランスな面白さですよね。

2011年9月新橋演舞場「石川五右衛門」より。松本幸四郎(当時:市川染五郎)演じる石川五右衛門。©松竹

2011年9月新橋演舞場「石川五右衛門」より。松本幸四郎(当時:市川染五郎)演じる石川五右衛門。©松竹

古田 うちがやったときの秀吉は麿(赤兒)さんだから。とても五右衛門と幼なじみには見えないだろうね。

一同 (笑)。

──いろいろな伝説を流用したり、想像を膨らませたのが歌舞伎の五右衛門。いかに日本人がこのキャラクターにさまざまなロマンを投影させ、豊かなイマジネーションを広げたかが伝わってきます。

幸四郎 物語だけではなく演出にも工夫が凝らされていて、“つづら抜け”の宙乗りは最初つづらだけがふわふわと宙吊りとなって、突然2つに割れて中から五右衛門が出てくる仕掛け。バンッ!と中から出ると箱が背中側でガチャっとくっつく仕掛けになっているので、勢いよく出ていかないといけないんです。これは聞いた話ですが、ある役者さんがやったとき、後ろで跳ね返ってまた前でバシッと閉じてしまったらしい。勢いが強すぎてもダメなんです。お客様もびっくりしたでしょうね、五右衛門が出てきたと思ったらまた箱の中に戻って(笑)。

古田 あははは!! それ、わざとネタとして見せたらいいんじゃない?(笑)

幸四郎 狙ってやるのはなかなか難しいですよ(笑)。

古田 インディ(高橋)(※)に仕掛け作ってもらったら? その“つづら抜け”の宙乗り、いろいろ遊べそう。

2011年9月新橋演舞場「石川五右衛門」より。松本幸四郎(当時:市川染五郎)演じる石川五右衛門。©松竹

2011年9月新橋演舞場「石川五右衛門」より。松本幸四郎(当時:市川染五郎)演じる石川五右衛門。©松竹

※役者として活躍しつつ、小道具も手がける劇団員。刀や槍、武器はもちろんのこと、着ぐるみや甲冑、お笑い系かつら、仕掛けものまでマルチに手がける。

圧倒的な劇団☆新感線体験

──幸四郎さんの初新感線出演&古田さんとの初共演は、「阿修羅城の瞳~BLOOD GETS IN YOUR EYES」(2000年、2003年)。その後立て続けに、「アテルイ」(2002年)、「髑髏城の七人~アオドクロ」(2004年)、「朧の森に棲む鬼」(2007年)といのうえひでのり作品に参加されました。

幸四郎 僕が初めて観客として新感線を観たのが、古田さん主演の「髑髏城の七人」(1997年)でした。もう度肝を抜かれましたね。ロビーを入った瞬間から違うんですよ。舞台はもちろん、お客さまの熱気、パンフレットへのこだわり。もう全部に圧倒されました。

古田 “いのうえ歌舞伎”なんて銘打って上演してたから、当時は「本当の歌舞伎俳優が観に来た」って全員ビビりましたよ(笑)。そうしたら染ちゃん(幸四郎)が「すごく面白かった」と言ってくれたもんだから調子こいて、いのうえさんとかずきさんが「阿修羅城の瞳」で出演オファーをしたんだよね。東京は新橋演舞場だった?

幸四郎 そうでした。「朧の森に棲む鬼」の時は真木よう子さんが出演されていて、何かの罰ゲームで、古田さんが「月刊真木よう子」をロビーで売るなんてこともありましたね(笑)。

古田 売った、売った。(阿部)サダヲも出てたし、「朧」はもう全部が楽しくて、ずっと浮かれてたね。最後が本水の滝の場面で、染ちゃんは真冬にバッシャンバッシャンハードな殺陣の場面があって。それを見ながら「こりゃ絶対きついな」ってゲラゲラ笑った記憶がある(笑)。

幸四郎 1月ですから、しんどかったですよー。真冬に本水。