“ゆるりと歌舞伎座で会いましょう”をキャッチコピーに、コロナ禍でも工夫を凝らし、毎月多彩な演目を上演している歌舞伎座。1月の「壽 初春大歌舞伎」には、松本幸四郎、市川猿之助、中村獅童と人気と実力を兼ね備えた俳優たちが顔をそろえる。共に1970年代生まれの3人。若手時代から切磋琢磨してきた“同志”は、これからの歌舞伎の在り方に共に思いを巡らせる。久々の再会となったこの日の座談会は、多忙な合間を縫ってのオンライン開催となった。お互いの発言に対し、時に深くうなずき、時に大笑いしながら、3人は「壽 初春大歌舞伎」、そして未来への思いを語った。
取材・文 / 川添史子写真提供 / 松竹株式会社
出演する部は違うけれど…歌舞伎座に集う3人
──本日は「壽 初春大歌舞伎」の第一部から第三部、それぞれにご出演の皆様にお集まりいただきました。今ではお三方とも座頭を勤める責任あるお立場ですが、若手時代は「花形歌舞伎」や「新春浅草歌舞伎」など、同じ舞台で研鑽を積まれた同世代のお仲間です。
中村獅童 僕ね、今日はいっぱい話したいことがあるんですよ! 今歌舞伎座は感染対策のため、表だけでなく裏も各部完全入替えの完璧な三部制。だから共演じゃないのは淋しいけれど仕方ないし……でもこの皆さんとお正月興行に集えるのは本当にうれしい。昨晩も子供の頃からの記憶を思い返していて……不思議なんだけど、四代目(猿之助)とは舞台裏でいっぱい遊んだ思い出があるけれど、幸四郎さんとは「盛綱陣屋」の子役を2人でやったりしたのに、お互い人見知りということもあってか、大人になるまで一言もしゃべったことなかったよね?
松本幸四郎 (静かに2人をじっと見つめる)
市川猿之助 今日もしゃべらないんじゃないの?
一同 (笑)。
幸四郎 僕は(中村)芝翫のお兄さんや(片岡)孝太郎さんといった少し上の代の座組みに最若手として入れていただくことが多かったので、ある年齢になるまで近い年齢の方々とご一緒することがあまりなかったんですね。それがだんだんと同座するようになって。同世代と切磋琢磨し合う関係は先輩方とはまた違う刺激があって、こうやって皆さんとお正月を迎えられるのはとってもうれしいことです。
猿之助 僕らが“若手”として走り出したころは、ちょうど(十八世中村)勘三郎さんや(十世坂東)三津五郎さんがバリバリ歌舞伎座で活躍されていたころ。でもふと気が付くと、まだ先だと思っていたその年齢、その位置に自分たちが来ていて、もうやらざるを得ないというか……しかも下を見たらどんどん後輩が育ってきていますから。今のこの状況は正直言って、しっかりやらなくちゃいけない年代に「なってしまった」という感覚なんですよね。
──第一部「祝春元禄花見踊」では、獅童さんのご長男、陽喜くん(3歳)が初お目見得です。
獅童 藤間のご宗家(振付の藤間勘十郎)とご相談し、「お正月なので華やかな踊りにしましょう」とこの踊りに決まりました。陽喜は見得と、隈取と、立廻りが大好きなのですが、ご宗家が彼の好きな要素をたくさん入れてくださったんです。でも子供とはいえ、僕にとってはライバル。僕はやきもち焼きなんでね、あんまりみんなが「陽喜くん、陽喜くん」とおっしゃるから……僕のことももっと褒めてほしいですよ!
一同 (笑)。
──では獅童さんのお役についても伺えれば(笑)。「一條大蔵譚」では源義朝の忠臣・吉岡鬼次郎を演じられます。世を欺くため“つくり阿呆”として生きる一條大蔵卿(中村勘九郎)、そのもとにいる源義経の母・常盤御前(中村扇雀)に源氏再興の意志を確かめる重要な役どころです。
獅童 浅草歌舞伎やコクーン歌舞伎などで大きな山を一緒に乗り越えてきた勘九郎くんと、「一條大蔵譚」をさせていただくのは、まだ彼が勘太郎時代の「浅草歌舞伎」(2001年)以来です。そして鬼次郎は僕にとって、初めての大役でした。こうして久々に演じさせていただくのは、本当に感慨深いものがあります。僕らに任された最初の「浅草歌舞伎」でお客様がなかなか入らなくてね。
猿之助 そうそう。ガラガラでね。
獅童 あのときの千穐楽は雪が降ったんですよ。朝劇場に入って、みんなで「果たしてお客様が来てくれるだろうか」と話したこと、公演に出てくださっていた(猿之助の父・市川)段四郎さんも一緒になって心配してくださった当時のことは、いまだによく覚えています。思い入れのある演目です。
──第二部「艪清の夢(ろせいのゆめ)」は、職人が見た夢を描くユーモラスな物語。2014年に幸四郎さんが明治座で演じられたのが、本興行としては1905(明治38)年以来となる復活上演でした。
幸四郎 毎年夏に珍しい狂言の復活を手がけていらした(九世澤村)宗十郎のおじ様が(1993年の)「宗十郎の会」で取り上げていらしたのを観て、「こういう芝居ができたら良いな」と思い続けていた演目です。内容としては、くだらない……と言ったら語弊がありますが(笑)、歌舞伎でしか成立しないような世界観。2022年のスタート早々、一番の冒険の月だと思っています。お客様には、このお芝居をお正月の歌舞伎座でやる勇気を買っていただきたいと思います!
獅童 ……え、そんなにくだらないの? どんどん楽しみが増すんだけど(笑)。
猿之助 面白そうだねぇ。
幸四郎 夢の物語なので、終始ファンタジーの世界。その中で主人公が懸命に生きている姿を見ていただければ。
──栄華を極める夢から覚め、人生のはかなさを悟る中国の故事をベースにしつつ、「仮名手本忠臣蔵」や「吉田屋」といったさまざまな名作のパロディがあったり、肩の凝らない洒落た狂言ですよね。時事ネタやアドリブにも期待してしまいます。第三部は狐の親子の情愛を描く「義経千本桜 川連法眼館の場(通称・四の切)」。猿之助さんが久々に、当たり役である四の切の狐忠信を演じます。
猿之助 ……まあ、宙乗りするっていう……くだらない話ですけどね(笑)。
一同 (笑)。
獅童 そんなこと言い始めたらさ、芝居も人生も、世の中もすべて、所詮はくだらないんだから!!
一同 (笑)。
猿之助 まあ真面目な話をすると、この約2年間、感染症対策で客席への宙乗りは断念せざるを得なかったんです。でも専門家の先生からようやくお許しが出た。この公演で今後も宙乗りができるかどうか、方向性が決まるんじゃないですか。僕にとっても四の切は4年半ぶりですし。
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これからの歌舞伎俳優に必要なこと