Corneliusと障害のある13人の作家が共作した“音の世界”、HERALBONYによる展覧会がスタート

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Corneliusとクリエイティブカンパニー・HERALBONYの契約作家13名による展覧会「Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-」が、本日7月24日に東京・HERALBONY LABORATORY GINZAでスタートした。

会期に先立って展覧会を訪れたCorneliusと作家たち。

会期に先立って展覧会を訪れたCorneliusと作家たち。

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CorneliusとHERALBONYは、昨日7月23日に“Cornelius HERALBONY”名義の楽曲「Glow Within」を発表。YouTubeでは本楽曲のミュージックビデオが公開されている。「Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-」はこのコラボを記念したもので、会場となるHERALBONY LABORATORY GINZAでは昨日、メディア向けの内覧会が行われた。この記事ではプロジェクト始動の経緯に触れつつ、メディア内覧会に出席したHERALBONY代表・松田崇弥氏のコメントを交えながら場内の模様をレポートする。

“人は変われる”ということを表明したかった

松田崇弥氏(HERALBONY代表)

松田崇弥氏(HERALBONY代表)[拡大]

双子の兄弟である松田崇弥氏と松田文登氏が共同代表を務めるHERALBONYは、国内外の福祉施設に在籍するアーティストとともに新たな文化の創造を目指す岩手発のアートライフスタイルブランド。2018年の創業以来、「異彩を、放て。」をミッションに、主に知的障害のある作家とライセンス契約を結び、その作品をモチーフとした洋服や小物、インテリア雑貨などを販売することで、収益を作家たちに還元している。2022年には障害のある人々の“ルーティン(常同行動)”に伴う音に着目した実験的な音楽レーベル・ROUTINE RECORDSを設立。同年10月には石川・金沢21世紀美術館で同レーベルの展示「lab.5 ROUTINE RECORDS」を開催した。

Cornelius HERALBONY曲「Glow Within」配信ジャケット

Cornelius HERALBONY曲「Glow Within」配信ジャケット[拡大]

ROUTINE RECORDSの企画第2弾となる今回のプロジェクトは、崇弥氏がCorneliusに送った1通の手紙がきっかけとなり実現。Corneliusは知的障害のある作家たちが日々繰り返す行動や発語に含まれる“音”を、1つの“声”として再構築して「Glow Within」を制作した。しかし、Cornelius=小山田圭吾には自身が学生時代に行った障害者へのいじめ行為をきっかけに「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」の作曲担当者を辞任、一時活動を休止していた過去がある。知的障害のある作家たちと深い関わりを持つHERALBONYはなぜ、直筆の手紙を送ってまでCorneliusとの共創を望んだのだろうか。

「4年前の今日はオリンピックの開会式があった日で、7月19日は小山田さんがオリンピックの楽曲提供を辞任することを発表した日になります。なぜ今回、小山田さんとプロジェクトをご一緒させていただくことになったのかというと、HERALBONYのスタンスとして“人は変われる”ということを表明したかったんです。小山田さんに手紙をお出ししてから一緒に福祉施設に行ったりする中で、今回のプロジェクトを実施することになりました」

障害の未来を変える

松田崇弥氏(HERALBONY代表)

松田崇弥氏(HERALBONY代表)[拡大]

崇弥氏と文登氏には、重度の知的障害を伴う自閉症を持つ4歳上の兄がいる。2人がHERALBONYを設立したのも「自閉症の兄へ向けられる冷たい視線を変えたい」という思いがきっかけだった。崇弥氏はHERALBONYのnoteで小山田のオリンピック辞任から「Glow Within」完成までを詳細に記録した記事「拝啓、小山田圭吾様。ヘラルボニーと一緒に曲を作ってくれませんか。」を公開しており、その中で小山田の退任が報じられた当時の心境を「これは、彼ひとりの問題なのだろうか? これは、彼ひとりの問題ではないはずだ。『障害は、欠陥だ』『障害者は、哀れだ』そんなこの国の空気を止めなければ、障害の未来は変わらない」とつづっている。

「Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-」の様子。

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「昨今、数カ月に1回くらいのペースで芸能人の方々が過去の発言などを取り沙汰されていて、業界から追放されたり、数年後には人々の記憶から消えていたりしますよね。小山田さんの場合、知的障害のある人たちをいじめていたという経緯があります。もちろん小山田さん自身に問題があったことは事実ですが、私は『障害者を笑い者にしていい』という空気であったり、当時の社会全体のムードにも問題があったのではないかと捉えています」

崇弥氏は2022年の「lab.5 ROUTINE RECORDS」で得た手応えや経験を踏まえ、HERALBONYの全社員に「コーネリアス・小山田圭吾さんと共に、知的障害のある人々が紡ぎ出す『日常の音』を楽曲にしたい」と自身の考えを伝えた。当然この意見に対して社内では賛否両論が巻き起こったが、崇弥氏は人は誰しもが大小に関わらず過ちを犯してしまうこと、その過去と向き合いながら変わっていく“今現在の小山田圭吾の姿を見たい”という思いから、2024年2月にCorneliusに手紙を送ることになる。

松田崇弥氏がCorneliusに宛てた手紙。

Corneliusと13人の作家たち

「Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-」の様子。

「Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-」の様子。[拡大]

「Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-」の様子。

「Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-」の様子。[拡大]

「Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-」に参加した知的障害のある作家は、工藤みどり、fuco:、輪島楓、鵜飼裕之、輪島貫太、木村全彦、藤田望人、大家美咲、佐々木早苗、吉田陸人、福井将宏、早川拓馬、井口直人の13名。ギャラリーではそのバラバラの個性が色濃く反映された独創的な作品の数々を鑑賞することができる。また場内には作家ごと数字が振られた机を設置。作家たちのプロフィールやアート作品の紹介が記されたこの机にはマーカーや筆、折り紙、ハサミ、のり、アイドルが表紙を飾る雑誌、「プリキュア」のキャラクターたちが描かれた本、空き缶、袋麺などさまざまな“制作道具”が置かれており、一見ランダムに配置されたように感じる椅子も作家たちが普段使用しているものをセレクトしていたりと、作家1人ひとりの創作風景や息づかいが感じられる空間となっている。

Corneliusと作家たち。小山田は崇弥氏の手紙をきっかけに、岩手県花巻市にある福祉施設・るんびにい美術館を訪れた。(撮影:淺田創)

Corneliusと作家たち。小山田は崇弥氏の手紙をきっかけに、岩手県花巻市にある福祉施設・るんびにい美術館を訪れた。(撮影:淺田創)[拡大]

そして14の番号が振られたCorneliusの机には、「FANTASMA」や「POINT」「夢中夢 -Dream In Dream-」といった彼の作品や、「Glow Within」のMVを繰り返し再生するモニターとスピーカーが置かれている。13人の作家たちが創作に没頭する様子を映した「Glow Within」のMVは、マーカーで画用紙に絵を描く際の音や折り紙を折る音、作家たちの話し声など、その場で発せられるさまざまな音が、Corneliusのシグネチャーとも言えるミニマムなサウンドとシンクロするという内容だ。崇弥氏からの手紙を受け取ったCorneliusは、HERALBONYが主催する展覧会で知的障害を持つアーティストの作品に触れた経験や、岩手県花巻市にある福祉施設・るんびにい美術館を訪れた際の作家たちとの交流などを経て、自身の過去と向き合いながら約1年半の歳月をかけてHERALBONYとともに「Glow Within」を完成させた。

「Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-」の様子。

「Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-」の様子。[拡大]

「小山田さんにはこのプロジェクトをよく引き受けてくださったなと感じていて。覚悟を持って引き受けてくださった事実、『前を向いて変わっていこう』という事実そのものが重要だと考えています。作家の皆さん、ご家族の皆さんには、経緯をご説明したうえで覚悟を持ってプロジェクトに臨んでいただきました。その結果『Glow Within』は非常に素晴らしいクオリティの楽曲になったと思います。作家さんの息づかいや筆のタッチなどのほかに、『うー』という声だったりが入っていて、それは一歩外に出ると怖いと感じられてしまう音だったりもするのですが、音楽として昇華されたことで、すごく身近で面白くて耳心地のいいものになりました。このことに私はすごく大きな可能性を感じています。『Glow Within』という楽曲の魅力が広く伝わって、このプロジェクトをきっかけに障害について考える機会を増やしていけたらと考えています」

「Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-」の様子。

「Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-」の様子。[拡大]

東京での「Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-」の開催は8月11日まで。30日からは岩手・盛岡にあるHERALBONY ISAI PARKで巡回展が行われる。Corneliusと13人の作家たちのクリエイションに触れる時間は、崇弥氏の言うように何かを考えるきっかけになるはず。この記事で興味を持った読者はぜひ会場に足を運んでみてはいかがだろうか。

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Cornelius HERALBONY「Glow Within」MV

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Glow Within -Corneliusと13人の作家の声-

2025年7月24日(木)~8月11日(月)東京都 HERALBONY LABORATORY GINZA
OPEN 11:00 / CLOSE 19:00
定休日:火曜(祝日の場合は水曜)

2025年8月30日(土)~9月26日(金)岩手県 HERALBONY ISAI PARK(パルクアベニュー・カワトク 1階)
OPEN 11:00 / CLOSE 19:00
休館日:カワトクの休館日に準ずる
※会期中、作品の入替えあり

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tAk @mifu75

【イベントレポート】Corneliusと障害のある13人の作家が共作した“音の世界”、HERALBONYによる展覧会がスタート(写真16枚) https://t.co/f5GmXeRI5g

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