第26回東京フィルメックスにてインドネシア映画「市街戦」(英題:This City is A Battlefield)が本日11月30日、東京・有楽町朝日ホールで上映され、監督の
1946年のオランダ植民地支配下ジャカルタを舞台とした本作は、抵抗運動の闘士イサが高官暗殺任務に挑む一方、妻ファティマと同志ハジルの密かな不倫が3人の関係を揺るがしていく物語。歴史の渦中で、公的な大義と私的な欲望がせめぎ合うさまが描かれる。スリヤは2017年に長編3作目「マルリナの明日」(「殺人者マルリナ」)で東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞し、2023年には東京国際映画祭で黒澤明賞に選出された。
原作は、モフタル・ルビスによる小説「果てしなき道」。映画化にあたっての解釈について尋ねられたスリヤは「一番大きな変化はイサの妻ファティマ」と述べ、原作では“夫の友人と浮気する主婦で、家から出ない女性”として描かれていた点に言及する。そのうえで、「彼女が外に出て自分の選択で行動する要素を入れました」「いろんな才能があり本来は彼女が英雄になる可能性があった」と、主体性を持つ人物像として再構築した理由を明かした。
観客からは、物語終盤におけるイサの心理についての質問も投げかけられた。スリヤはまず、「イサは当時のインドネシアを比喩的に描く人物とも考えました」と説明し、「これはヒーローの話ではない。アンチヒーローな部分もあります」と位置付けた。イサが「死を覚悟していたかどうか」との問いには、「イサは死ぬ準備はできておらず、生き残りたかったのでは」と回答。一方で当時のインドネシアでは国のために死ぬことが美化されていたことにも触れ、「それでも覚えていてもらえるのはわずかなこと」「作中に『ヒーローになると橋や道に名前が残る』といったセリフもありますが、イサはそういう人物ではありませんでした」と続ける。そして拘束後のイサの精神状態について「強制労働の中でやっと心の平穏を見つけて癒やされ、最後に笑顔で死を迎えることができたのでは」と語り、英雄ではない終着点を意図していたことを示唆した。
アクションと歴史劇の両立については、自身の過去作を参考にしたほか、「このキャラクターだったら、ここでどうするか?」との行動原理を重視したという。一番苦労した撮影は高官暗殺のシーン。夜通しの撮影となったそうで、「エキストラが多く同時にいろんなことが起きて大変でした。きれいに流れるようにせず、そこにドラマ性が生まれるのを狙いました」と複雑なシーンだが工夫をこらしたことを伝えた。
インドネシアの観客からは、ヨーロッパ的な描写に対して「現実的でないと思える部分もある」との指摘も。スリヤは「歴史家たちから助言を得たほか、亡くなった父と叔父の写真や映像を参考にしました」と説明する。「植民地のまっただ中のヨーロッパとインドネシアが混ざり合った文化を再現したかったんです」と述べつつ、最後に「ただ、これは紛れもなくインドネシア映画であることをお伝えしたい」と作品のアイデンティティを強調してQ&Aを締めくくった。
映画「市街戦」予告編 - 第26回東京フィルメックス
「第26回東京フィルメックス」開催概要
開催日時・場所
2025年11月21日(金)~30日(日) 東京都 有楽町朝日ホール、ヒューマントラストシネマ有楽町
オープニング作品
- 太陽は我らの上に(監督:ツァイ・シャンジュン)
クロージング作品
- 大地に生きる(監督:フオ・モン)
コンペティション(全10作品)
- The World of Love ※英題(監督:ユン・ガウン)
- 女の子(監督:スー・チー)
- ラッキー・ルー ※仮題(監督:ロイド・リー・チョイ)
- 枯れ葉(監督:アレクサンドレ・コベリゼ)
- アメーバ(監督:タン・スーヨウ)
- 左利きの少女 ※原題(監督:ツォウ・シーチン)
- アミールの胸の内(監督:アミール・アジジ)
- サボテンの実(監督:ローハン・パラシュラム・カナワデ)
- グラン・シエル(監督:畑明広)
- しびれ(監督:内山拓也)
特別招待作品
- 市街戦(監督:モーリー・スリヤ)
- 家へ(監督:ツァイ・ミンリャン)
- ヒューマン・リソース(監督:ナワポン・タムロンラタナリット)
- Yes(監督:ナダヴ・ラピド)
- 手に魂を込め、歩いてみれば(監督:セピデ・ファルシ)
- 私たちの土地(監督:ルクレシア・マルテル)
- サマ(監督:ルクレシア・マルテル)
- 沼地という名の町(監督:ルクレシア・マルテル)
- 煙突の中の雀(監督:ラモン・チュルヒャー)
- ガール・アンド・スパイダー(監督:ラモン・チュルヒャー)
- ストレンジ・リトル・キャット(監督:ラモン・チュルヒャー)
メイド・イン・ジャパン
- 猫を放つ(監督:志萱大輔)
- 東北短編集:「ハーフタイム」「相談」「祝日」(監督:張曜元)
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はる 🌞🚪🐈 @haru_movie86
福岡アジア映画祭が続いていたら、こうした作品も上映されただろうね。 https://t.co/Jv5Mhr5Qp0