映画「
1960年代の高度経済成長期を舞台に、日本で実際に起きた事件を題材とする同作。国際化に向けて売春の取り締まりが強化される中、性別適合手術を受けた通称ブルーボーイたちを一掃する目的により、手術を行った医師・赤城昌雄が検察に逮捕されたことで物語が動き出す。東京の喫茶店でウェイトレスとして働くサチは、裁判で赤城の弁護をすることになった狩野卓から性別適合手術を受けた証人として出廷してほしいと頼まれる。
サチ役の中川、飯塚はそれぞれトランスジェンダー当事者だ。「多くの当事者が関わった本作は、クィアメディア作品として今後どんな影響を与えていくと思うか」という質問には、飯塚が「この作品はメジャー映画でありながら、当事者たちの手で作ったものです。自分自身、これまで映画を観ながらロールモデルを探してきましたが、どうしても当事者性を感じられなかったり、表現に違和感があるものが多かった。今作が見本、とまで言っていいのかわかりませんが、こういった作り方もあるのだという成功例になればいいと思っています」と答える。また「そのためにはヒットして成功しないといけないので……」と会場を見渡して、和やかな笑いを起こした。
裁判の証言シーンでは、サチがカメラ目線で語りかける場面も。そのときの心境を尋ねられた中川は「お芝居も初めてでしたし、カメラを向けられることがすごく恐怖でした(笑)。ただ、あのシーンには思い入れがありました。台本に書かれたセリフではあるものの、やはり自分と重なる部分がたくさんあったからです。サチの言葉であるとともに、中川未悠自身の言葉として伝えたかった」と言葉を紡ぎ、「誰かにとって何か大きなきっかけになるような作品だと思います。私とサチの気持ちを投げかけているという思いで、あのシーンを撮らせていただきました」と振り返った。飯塚は「あのシーンではサチの奥の傍聴席に人々がいます。サチが映ったスクリーンを起点に、映画を観ているお客さんと劇中の傍聴席がシンメトリーの構図になるようにという意図もありました」とこだわりを明かす。
裁判の焦点となるのは、手術を受けた当事者たちが幸せかどうか。飯塚は“サチの返答が作品の核”だと述べ「あの一言のために映画を作ったと思っています。僕は女性として生を受けて、そのあと必死に自分の生きやすい環境を求めて男性に移行しました。でも移行したら結果として、男性として鎧を着なくてはいけなくなって。さらにトランスジェンダーらしさも求められる瞬間もある。結局、自分はどこに行き着けば幸せなのか?という疑問を今も抱えているんです。でも最終的には、僕自身の幸せは僕自身のものでしかない。いろんな幸せの形があるべきだというメッセージを伝えたかった」と真摯に思いを口にする。
中川も「(裁判で)『幸せですか?』と質問されるシーンで、観ている皆さん1人ひとりが『幸せとはなんだろう』と考えさせられると思います。きっと幸せは人それぞれで個性があって、そこに自分らしさやカラーがあるのだと感じています。私自身が考える幸せを監督に話したとしても、監督からすれば『それって幸せなの?』となることもあるでしょうし。それが人間らしさなんだと思います」と続けた。
飯塚は、劇中での言葉の表現についても説明。「事件当時の週刊誌などの表現を調べたら、トランスとゲイの境がないと言いますか。まず当事者たちが自分たちを表明することがなかったという時代背景があります。まとめてゲイボーイという表現がされていたので、当時を尊重して使いました。また『性的指向の問題と性的自認の問題は分けるべき』という議論が実際の裁判でもあったということで、本作でもそれに準じています」と話した。また当時のクィアコミュニティの人々の描写に関して「(性的少数者のキャラクターたちが)屋上でのびのびと洗濯をしているシーンがありますが、それは当時、彼女たちが安全に生きられる場がああいった屋上やバーのような場所にしかないということなんです。法廷では侮辱的な失笑がありますし、一歩外に出ると危険、という空間的な描写は意識しました。これは現代と当時で、かなり違う部分だと思います」と述懐する。
そして「これからも俳優の仕事をする?」と質問をされた中川は「『ブルーボーイ事件』でお芝居の難しさや楽しさに気付かせていただきました。今後も俳優の仕事をしたいです。性的マイノリティはどうしてもコメディ的な要素として捉えられがちな存在ですが、私が俳優業を続けることで誰かの光になれたら」と答えた。
「ブルーボーイ事件」は11月14日より全国でロードショー。前原滉、山中崇、錦戸亮、渋川清彦、中村中、イズミ・セクシー、真田怜臣、六川裕史、泰平らもキャストに名を連ねた。
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中川 未悠 Miyu Nakagawa @nakayan0911
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