「恋人たち」リバイバル上映、橋口亮輔・篠原篤・成嶋瞳子・池田良が語る10年越しの本音

橋口亮輔が監督を務めた映画「恋人たち」の公開10周年を記念したリバイバル上映が、10月31日に東京・テアトル新宿でスタートした。同日の上映後には、橋口とともにキャストの篠原篤、成嶋瞳子、池田良が登壇。当時の撮影話から現在の思いまで、笑いと感慨の入り混じるトークが繰り広げられた。

「恋人たち」は、心に傷や孤独を抱えながらも、ひたむきに生きる3人の男女を描いた群像劇。通り魔殺人事件で妻を失った男・アツシ、パート先にやって来る取引先の男に心が揺れ動く主婦・瞳子役で成嶋、親友への思いを胸に秘める同性愛者の弁護士・四ノ宮役で池田が出演した。2015年11月に封切られ、第89回キネマ旬報ベスト・テンの日本映画部門1位や、第70回毎日映画コンクールの日本映画大賞を獲得した。

橋口は「10年前、このテアトル新宿で公開を迎えたときは連日満席で立ち見もいて」と振り返り、「ワークショップのオーディションで集めた無名の俳優たちが出演しているし、こんなに暗い映画なのに。自分で作っておきながら、なぜそんなに？って。いまだにわかっていないんですよね」と苦笑する。

続けて橋口が「その後、10年経っても皆さん俳優を続けられている。さっき楽屋で『幸せなことですよね？』と聞いたんですけど、『いや別に』みたいに返されて……なんだこいつと思って（笑）」と不服そうに明かすと、篠原は「そういうことだったんですか!? 唐突に『幸せかい？』って聞かれたから」と弁明。「いやいや、幸せですよ。幸せだよなあ？ ほら、幸せそうな顔してますよ」と慌てて共演者たちを見やるも、橋口は「強要しているみたい（笑）」と肩をすくめて笑いを誘った。

そんな中でも、成嶋は登壇者たちから「どうして今日、そんなにテンションが高いの？」と口々に聞かれるほど終始満面の笑みを振りまいていた。「久しぶりに皆さんに会えるのがうれしくて」と声を弾ませる成嶋は、撮影で着用した私物のワンピースを持参。紙袋からガサゴソ取り出し、「10年間ずっと持っていたんです。懐かしくて持ってきちゃいました」と披露して観客を驚かせた。

撮影当時の話題になると、篠原は「つらかったですね」とこぼし、橋口は「シノ（篠原）には厳しくしようと決めていたんです」と述べる。橋口が「池田さんや成嶋さんにもそうですが、キツい言い方をしてしまったとき、さりげなく肩や背中に触れて、心では『がんばれ』と思っているのが伝わるように心掛けていました。わかってました？」と続けると、篠原は「もちろん」と即答。また篠原は印象的なエピソードとして、「監督が『お前、今つらいだろ。俺もつらい。でも、ここまでやっても映画を通して伝わるかわからない。人に何かを伝えるってことは、それぐらい大変なんだ』と二人きりのときに言って。あの言葉は覚えていますね」と噛み締めるように振り返った。

つらかったのは共演者たちも同様で、池田は「楽しいわけないじゃないですか！（笑） 映画でこんなに大きな役をいただくのも初めてだったし、作品を壊さないように、この役にふさわしい演技をしなきゃと自分を追い込んでいました」と本音を吐露。成嶋も「監督が当て書きしてくださった部分があるので、役の抱える痛みが自分自身にも突き刺さることが多くて。『逃げてる』『現実を受け止めていない』と言われるたびに、役への演出だとわかっているのに『あ、これ私のことだ』って。お芝居するのがキツい瞬間もありました」と打ち明けた。

追い込まれた現場の日々は、篠原が第39回日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞するなど、華々しい結果へと結実。橋口は、当時ほぼ無名だった3人を起用するにあたりプロデューサーに「この映画は賞も獲らないしヒットもしません。その代わり篠原に新人賞を獲らせます」と宣言して本作に臨んだという。

「そんな篠原くんが新人賞を獲った。すごくないですか？」と得意げな橋口に、「狙って獲れるもんなんですか？」と不思議そうな篠原。橋口は「狙ったからすごいんでしょ。（自作『ぐるりのこと。』で）木村多江にも『主演女優賞を獲らせる』と言って、実際獲ったんだから」と胸を張り、篠原に対して「九州訛りも抜けず、不器用で頑固。でも人間的な温かみがある。アツシが嗚咽する姿に観客が『あのシーンよかったね』と言ってくれたらそれでいいと、そういう勝算を持ってあなたにお願いしたわけですよ」と目を細めた。

「恋人たち」はテアトル新宿で上映中。本日11月1日以降も、日替わりゲストを迎えたトークイベントが連日行われる。

「恋人たち」トークイベント

東京都 テアトル新宿

2025年11月1日（土）18:10の回上映後
登壇者：橋口亮輔 / 大津尋葵 / 中山求一郎 / 岩野未知 / 三月達也 / 遠藤隆太 / 田川恵美子

2025年11月2日（日）18:10の回上映後
登壇者：橋口亮輔 / 篠原篤

2025年11月3日（月・祝）18:10の回上映後
登壇者：橋口亮輔 / 木下麦

2025年11月4日（火）18:10の回上映後
登壇者：橋口亮輔 / 光石研

※登壇者は予告なく変更となる場合あり