「ホットスポット」バカリズム×角田晃広が明かす互いの信頼、脚本の魅力をコラムで解説

バカリズムが脚本を手がける日本テレビ系ドラマ「ホットスポット」のBlu-ray / DVDが、本日9月10日に発売された。「ブラッシュアップライフ」の制作チームが集結した本作は、富士山を臨む山梨のビジネスホテルに勤めるシングルマザーが、宇宙人に出会ったことから始まる“地元系エイリアン・ヒューマン・コメディ”だ。主人公の遠藤清美を市川実日子、清美が働くホテルの同僚・高橋孝介を角田晃広(東京03)が演じたほか、鈴木杏、平岩紙、木南晴夏、池松壮亮、菊地凛子、夏帆、坂井真紀、田中直樹(ココリコ)、小日向文世も出演。音楽をfox capture planが担っている。

本作は7月に第51回放送文化基金賞の優秀賞を受賞し、バカリズムは脚本賞、角田は演技賞にも選ばれた。映画ナタリーではソフト発売を記念し、授賞式直前のバカリズムと角田にインタビューを実施。放送後の周囲の反響や、何度でも観返してほしいポイント、互いに抱く信頼感を明かしてもらった。あわせてライター・西森路代がバカリズム脚本の魅力を紐解くコラムも掲載している。

取材・文 / 大畑渡瑠コラム / 西森路代撮影 / 間庭裕基

「ホットスポット」Blu-ray / DVD PR映像公開中

バカリズム×角田晃広 インタビュー

清美を助ける場面、放送だと“シャッ”と高速で終わっているけど…(角田)

──最終回の放送から4カ月が経ち(※取材は7月に実施)、このたび放送文化基金賞を受賞するなど大変話題になった本作ですが、周囲からの反響はいかがでしょうか?

バカリズム いろいろな現場でスタッフさんやタレントさんに「観てます」と言っていただきましたが、特に多かったのが「家族で」「夫婦で」など誰かと観ているという言葉でした。「普段は一緒にドラマを観ることがないけど、このドラマは考察しながら楽しんでいます」という感想が多くて、それがいいなと。今は「テレビを観る人が減っている」と言われる中、こういう番組を作れたのがうれしいですね。

バカリズム

バカリズム

角田晃広 一般の方から役名で呼ばれることが本当に多いですね。「高橋さーん!」と(笑)。山梨県に行く途中にある談合坂のサービスエリアでは特に言われました。ひょっとしたら聖地巡礼している人もいるかもしれませんね。

──東京03のメンバーの反応は?

角田 飯塚(悟志)さんや豊本(明長)さんも「面白い」と言ってましたよ。2人とも僕の前では多くを語らないのですが……。でも必ず毎週最後まで観てくれてましたね。

角田晃広

角田晃広

──Blu-ray / DVDで何度でも楽しんでほしいシーンはありますか?

バカリズム 1話のファミレスでのシーンですね。のちの話に出てくる人がけっこう映り込んでいたりとか、高橋さんが清美たちの話を聞いている間に雑音として入ってくる声も、実は後半の展開に関係しているんです。まさにBlu-rayやDVD用にそういった小ネタをちりばめていました。市長(梅本雅子 / 演:菊地凛子)も最初は名前や選挙カーだけちょこちょこ映っています。

角田 あと自転車に乗った清美を助ける場面。放送だと“シャッ”と高速で終わっていると思うんですが、ちゃんと丁寧に助けているんですよ。

ドラマ「ホットスポット」より、市川実日子演じる遠藤清美

ドラマ「ホットスポット」より、市川実日子演じる遠藤清美

──じゃあコマ送りとかで観ると……。

角田 しっかり自転車を持って上がっていっているのがわかります(笑)。

バカリズム あれ、初見だと(清美が)ひかれて吹っ飛んでいるように見えますよね。実は避けているという。

角田 そうです、完璧に助けているんです。あと走って道路でザザッと止まるシーンも、撮影ではプラスチックの板に乗ってサーフィンのように滑っていたり。そういう細かいディテールにこだわっているので、ぜひ一時停止して確認してほしいですね。

ドラマ「ホットスポット」より、角田晃広演じる高橋孝介

ドラマ「ホットスポット」より、角田晃広演じる高橋孝介

角田さんが「ちょっとおでこが広くなったかな」って感じを維持しているのはプロ根性(バカリズム)

──本作は高橋さんが“宇宙人”であることから物語が動いていきますが、本作でご一緒されて、お互いに「宇宙人っぽい」と思う部分はありましたか?

バカリズム 高橋さんは頭脳系の能力を使用すると、副作用で髪が薄くなるという設定です。角田さんはもともと薄くて、もう10年以上前からコントでネタにしたりしていました。でも、ずーっとこの状態をキープしていて、これ以上は絶対にハゲないんですよ。増えるわけでも減るわけでもなく、“あの頃”のまま維持できているのが逆にすごいなと。

角田 増やそうと努力はしてるんですよ(笑)。

バカリズム あ、そうなんだ!

角田 でも増えることなく、現状をキープした状態が続いているんです(笑)。

バカリズム いや、それもすごいですよ。「ちょっとおでこが広くなったかな」って感じをずっと維持しているのはプロ根性ですよね。でも増やそうとしているのは知らなかった……。

バカリズム

バカリズム

──角田さんはいかがですか?

角田 改めてですが、毎週(バカリズムから)面白い脚本が届くのが本当にすごいですよ。しかも脚本家としての仕事だけでなく、彼は年に2回も単独ライブをやって、バラエティ番組にもたくさん出てる。もう「すごい」という言葉じゃ言い表せないし、地球人離れしているとしか思えないです。しかもちょっと早めに届くときもありますからね。

左から角田晃広、バカリズム

左から角田晃広、バカリズム

バカリズム 「締め切りだけは守ろう」と思っていて……。台本が遅れていたりすると、脚本家って現場でけっこうボロカスに言われるんですよ。士気が一気に下がっていくのをこれまでのキャリアで何度も見てきているから「こんなことは絶対に言われたくない。俺は絶対に守ろう」と。その意識は演者としてやってきたからこそ身に付いたのかもしれません。

──高橋さんは劇中で走ったり、ジャンプしたりとアグレッシブに動き回る人物でした。脚本を読んでバカリズムさんに「物申したい」と思った点はございますか?

角田 いや、ちゃんと面白いから僕からは特にないですよ! あ、でも……。10話に、高橋さんが頭脳系の超能力を使ったけど「今回は大丈夫だった(ハゲなかった)」と言うシーンがあるんです。でも実は頭頂部のほうに影響が出ていて、鈴木杏さんと夏帆さんが何も言わず「あっ」って表情だけで伝えるんですよ。僕は撮影中にそれを見られていないから、オンエアで確認して「なんならもう言ってほしかったよ!」というくらいの恥ずかしさを感じました。

角田晃広

角田晃広

バカリズム 実際の毛量は変わっていないけれど、演出で減ってることにしなきゃいけなかったから「頭頂部の薄い部分がちょっと目立つようにセットしてください」とメイクさんにお願いしたり(笑)。

角田 そうなんです。本作の撮影が始まった当初は、もともと髪の薄い部分が撮りたい画において邪魔になるからと、何か粉みたいなものを振りかけたりもしてたんですよ。「ノイズになる」って。

バカリズム ノイズ(笑)。

角田 だからこそ10話ではむき出しで、自然体で演技できましたけどね。

今度は僕も演者として一緒にコントをやりたいです(バカリズム)

──バカリズムさんと角田さんは付き合いが長いと思いますが、お互いの信頼できる部分はどこでしょうか?

バカリズム 角田さんはコント芸人として本当に面白い人ですね。本作もいつも通りの角田さんをそのまま脚本に落とし込んでいて、“脚本家”というよりは芸人として、ただコント台本を書いただけ。「普段の角田さんのままでやってくれれば絶対に面白くなるから」と、その信頼関係は昔からありますよ。

角田 一緒にコントの仕事をしたこともありますし、彼は僕のことを全部わかってくれています(笑)。今回も“宇宙人”という設定の壮大なコントのノリでやらせてもらいました。

バカリズム そうなんです。もう言っちゃいますけど、本作はコントなんです。芸人同士が本気でコントを作ったらドラマとして賞をもらえたという(笑)。

角田 いやあ、すごいことですよ。

左から角田晃広、バカリズム

左から角田晃広、バカリズム

──今後、また2人でタッグを組んで作品制作をしたいですか?

バカリズム もちろんです。今回のようにドラマとか、お芝居の現場でぜひご一緒したいですね。

角田 バカリズムが(脚本を)書いて、出演もするというのは?

バカリズム いいですね。今度は僕も演者として一緒にコントをやりたいですよ。

角田 じゃあそのときはまた体を張らせていただきます。彼は僕のことを全部わかってくれているので(笑)。

左からバカリズム、角田晃広

左からバカリズム、角田晃広

プロフィール

バカリズム

1975年11月28日生まれ、福岡県出身。2005年にピン芸人としての活動をスタートさせ、2006年・2007年・2009年・2010年に「R-1ぐらんぷり」決勝に進出。ドラマ・映画の脚本も多数執筆し、脚本・主演を担った「架空OL日記」は第36回向田邦子賞を受賞した。同じく脚本を担当した2023年放送の「ブラッシュアップライフ」は第39回ATP賞テレビグランプリ総務大臣賞、東京ドラマアウォード2023作品賞グランプリなど、数々の賞を受賞。そのほかの脚本作品にドラマ「素敵な選TAXI」「殺意の道程」「ノンレムの窓」「ケンシロウによろしく」、映画「地獄の花園」「ウェディング・ハイ」など。9月12日に「ベートーヴェン捏造」が公開される。

角田晃広(カクタアキヒロ)

1973年12月13日生まれ、東京都出身。2003年にお笑いトリオ・東京03を結成し、「キングオブコント2009」で優勝。テレビ番組「ゴッドタン」の企画である「マジ歌選手権」への出演でも注目を集める。俳優としても活動し、主な出演作にドラマ「これは経費で落ちません!」「大豆田とわ子と三人の元夫」「ノッキンオン・ロックドドア」、映画「オー・マイ・ゼット!」「ポエトリーエンジェル」「ステップ」「怪物」など。

西森路代レビュー

バカリズム作品には、とぼけた中にもどこかシャレた独特の雰囲気がある

2014年放送の「素敵な選TAXI」でバカリズムさんが連ドラの脚本を書くと聞いたときは、レギュラー番組を何本も抱え、ネタを作り続けている現役の芸人が脚本家をするということは物理的に可能なのかと思ったものだが、その後も次々と連ドラ、単発ドラマ、映画などの脚本を執筆。「架空OL日記」で向田邦子賞を受賞して、日本を代表する脚本家のひとりとなった。

「ホットスポット」もそうだが、バカリズム作品には、とぼけた中にもどこかシャレた独特の雰囲気があり、唯一無二のジャンルを形成している。「架空OL日記」では、銀行で働く女性たちの歯に衣着せぬ容赦のないやりとりが小気味よく、かつリアリティの中に連帯のようなものも見えるのが楽しかった。その感覚は「ホットスポット」でも見受けられ、木南晴夏演じる“あやにゃん”の悪口は、惚れ惚れするくらいだった。

ドラマ「ホットスポット」より、市川実日子演じる遠藤清美(奥)と角田晃広演じる高橋孝介(手前)

ドラマ「ホットスポット」より、市川実日子演じる遠藤清美(奥)と角田晃広演じる高橋孝介(手前)

さまざまなルーツの人々が共生する現代社会にも通ずる

「ホットスポット」では、女性たちの中に角田晃広扮する宇宙人・高橋が自然と入り、毎回さまざまなトラブルに巻き込まれてはしぶしぶ対処する姿を見るのが毎週の楽しみで、妙に癖になってしまった。高橋には絶妙に下卑た部分も見え隠れしているのだが、いつしかそれも愛らしく見えてくるのが不思議だ。

今回は宇宙人がいる世界の物語だったが、バカリズム作品にはタイムリープものも多く、SF世界を描きながらも淡々とした日常が繰り広げられることに、ほかの作品にはない魅力を感じる。また、宇宙人や超能力を持った人が、世の中のそこかしこに当たり前にいて特別なことではないのだという描写は、現代の社会に、さまざまなルーツの人々が共生している事実にもどことなく通じるように思えた。

ドラマ「ホットスポット」より、左から鈴木杏演じるはっち、市川実日子演じる遠藤清美、平岩紙演じるみなぷー

ドラマ「ホットスポット」より、左から鈴木杏演じるはっち、市川実日子演じる遠藤清美、平岩紙演じるみなぷー

特典のメイキング映像には“食べながら演じること”を楽しむキャスト陣が

なんでもない会話劇はバカリズム脚本作品の楽しみのひとつである。それは、俳優たちにとっても演じがいがある部分なのではないだろうか。

ソフトの特典映像には、主演の市川実日子ら出演者のメイキングシーンや、インタビューなども収録されている。どの俳優も「ホットスポット」での新鮮な体験について語る。中でも印象的だったのは、1話でパフェを食べながら台本11ページにもわたる長いセリフを話す場面だ。食べながら演技をするのは難しいと言われているが、出演者の鈴木杏は該当シーンの前に行った焼肉屋での撮影にて「お芝居で、遠慮しながら食べてる感じはもったいない」「韓国映画のようにバクバク食べながらやりたいよね」という話になったと回想。俳優たちは食べながら演じることを楽しんでいた。食べるシーンにこそ、それぞれのキャラクターが見えるということは、向田邦子のドラマにも通じるところがあるように思えた。

なお先着購入者特典として用意されているのは、清美や高橋が働くレイクホテル浅ノ湖のキーホルダー。第4話に登場するいわく付きの角部屋・301号室のナンバー入りで、「ホットスポット」の世界の住人になった気分がちょっとだけ味わえそうだ。

ドラマ「ホットスポット」Blu-ray / DVD先着購入者特典・レイクホテル浅ノ湖キーホルダーのビジュアル

ドラマ「ホットスポット」Blu-ray / DVD先着購入者特典・レイクホテル浅ノ湖キーホルダーのビジュアル