ある金曜の朝、ふと目を覚ますと──家族4人の体が入れ替わっていた! そんな奇想天外な出来事から始まる映画「シャッフル・フライデー」が、9月5日より全国で公開中だ。
本作は、祖母・母・娘たちの3世代4人が入れ替わる大騒動を描いたハートフルコメディ。主演のジェイミー・リー・カーティスとリンジー・ローハンは、大人の姿のままティーンの心を宿す姿をノリノリで演じている。一方、新星女優のジュリア・バターズとソフィア・ハモンズも“大人の心を抱える高校生”をユーモラスに体現した。監督を務めたのは「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」のニーシャ・ガナトラ。予測不能な“シャッフル劇”を軽快にまとめ上げている。
本特集では、映画ライター・渡邉ひかるが作品の注目ポイントを紹介。さらに月刊「根本宗子」の主宰であり、多彩な女性たちを描き続けてきた劇作家・根本宗子の興奮冷めやらぬレビューもお届けする。
見どころ解説 / 渡邉ひかるレビュー / 根本宗子
映画「シャッフル・フライデー」予告編公開中
文 / 渡邉ひかる
祖母・母・娘──前代未聞の入れ替わり劇
自分の人生に100%満足だとしても、自分以外の人間になって別の人生をちょっと生きてみたくなる欲は誰しもあるはず。だが、そう望んだとしても、実際に別の誰かになってしまったら大惨事確定!? それを体当たりで検証してくれるのが、「シャッフル・フライデー」の主人公たちだ。しかも、別の誰かになるのが、この物語では4人もいるのが楽しいながら困ったところ。30代のアンナと高校生の娘ハーパー、その祖母テスに加え、ハーパーと険悪な同級生リリーの体が、ある金曜の朝に入れ替わってしまう。アンナとハーパー、テスとリリーがシャッフルしたことで、母は娘に、娘は母に。さらに、白髪のおばあさんと生意気な女子高生も入れ替わる中、事態はもちろんカオスに陥る。
例えば、母アンナになったハーパーは、音楽業界で働く母の仕事もこなすことになるわけで。初めての職場訪問!?などと悠長なことを言う間もなく、世代も立場も異なる者同士のシャッフルが怒涛のドタバタを生む。そんな中、実はハーパーとリリーにはある思惑があり……。というのも、顔を合わせれば喧嘩ばかりの2人をよそに、アンナとリリーの父は大恋愛中。目前に控えた親同士の結婚を阻止したい娘たちは、大人の姿になったのをいいことに一大計画を練り始める。それぞれの事情が絡み合い、アクシデントもハプニングも交錯する事態の行き着く先は? 着地点の全く見えない物語が、前代未聞のハラハラとドキドキを生む。
世代の“ズレ”を楽しむ、ポップなファッションにも注目
若さしかないティーンが、お肌の曲がり始めた30代や足腰に問題を抱えるおばあさんになったら? 逆に、人生を積み重ねてきた30代やおばあさんが、疲れ知らずの10代の体を取り戻したら? 突然のシャッフルにより、それぞれ新たに得た外見の中でもがくことになる4人の奮闘が笑いを誘う。サラサラのロングヘアをなびかせながら校内を闊歩していたファッショニスタのリリーは、白髪のおばあさんになって大ショック。だが、それでも“かわいい”を愛する意識は変わらず、髪型をアレンジしたり、表情に若々しさを取り戻そうと苦心したり。また、サーフィン大好き少女から一変、ワーキングファッションに身を包むことになったハーパーも日常着を自分なりにアレンジ。Z世代のワードローブを前に途方に暮れるアンナとテスも、(周りにバレない程度に)大人の感性を吹き込んでいく。
こうして3世代のガールズパワーが化学反応を起こし、同時多発的に炸裂していく中、“中身と外見のズレ”がもたらす視覚的な面白さと、それらを表現するポップなビジュアルが見どころに。最新のトレンドルックからクラシカルなスタイルまで、それぞれの世代を意識し、こだわり抜かれたカラフルな衣裳やヘアメイクに共通するのは目に楽しいものであること。話題のドラマ「AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章」も手掛けた女性監督ニーシャ・ガナトラが、ワクワクする作品世界を作り上げている。
大騒動の果てに見えてくるのは…
シャッフルした4人は元の人生を取り戻すことができるのか? シャッフルされたことで巻き起こる大騒動が収束する日は来るのか? このバタバタ劇の中で次第に見えてくるのは、文字通り“中にいる人”の気持ちだ。未熟な10代のハーパーは母アンナと入れ替わったのを機に、母の愛を感じ取ることに。母の立場で仕事をし、周りの人々と触れ合う時間を経て、シングルマザーとして娘に愛情を注ぎ続けてきた母の想いを知る。一方、ハーパーになったアンナも、自分の結婚が娘に及ぼす影響を実感。新たな家族を迎え、新生活へ踏み出すことが、娘にとってどんな意味を持つかを考えさせられる。また、結婚の影響は相手の娘であるリリーにも及ぶわけで、リリーと入れ替わったテスは義理の孫娘になるリリーの孤独や喪失感を察知。父の結婚に反対する10代の本音を知り、人生経験豊富なセラピストとして対応していく。
「相手の立場になって考えなさい」とはよく言ったもので、4人は幸か不幸か“他者になること”で、別の角度から物事を見据え、今までにない気づきを得ることに。相手をよく知ること、そして思いやりの心を持つことの大切さを、とんでもない大騒動が楽しく教えてくれる。だからこそ、怒涛の展開と心のジェットコースターの先に浮かび上がってくるメッセージに、現実を生きる誰もが共感させられるはずだ。
まるでジェットコースター!騒がしくて愛おしい4人と心の中でハグ
文 / 根本宗子
暑過ぎて早寝するにも寝苦しいこの夏の夜、いつもより遅い時間に薄着で外に飛び出して映画館へ行き、炭酸ジュース片手にポップコーンを抱えて観たいそんな映画でした。
リアリティや共感度みたいなことが、そんなに?ってくらい取り上げられがちな近年ですが、このくらい色々なことをぶっ飛ばして物語が進んでいってくれると痛快で最高でした。そして台詞の掛け合いのスピードも痛快。間という間もあったかな?ってくらい約2時間の上映時間の中でとにかく主軸の4人が喋りっぱなし!
ジェットコースターのような会話劇が好きなわたしとしてはそこも最高に楽しかったです。言葉ってやっぱりあればあるだけ面白いし、その滝のような台詞を自由自在に操って芝居していく俳優陣もとにかく圧巻でした。
「入れ替わったことに周りが誰も気が付かないなんてありえない」
とか
「そもそも何で入れ替わったの?」
とかそんなことはどうだっていいよね!という潔さで、とにかく観客であるわたしたちをずっと楽しませてくれます。スカッとした気持ち良さが終始あって気持ちの体感温度も最高。
エンドロールで最後の最後まで楽しませてくれるのも、演者のことがより好きになるエンドロールなのも最高!
入れ替わりモノなので、当たり前にみんなが自分の役と入れ替わった時の役の2役を演じているわけですが、物語の展開の速さにその凄さを見失ってしまうのも面白かったです。
「ミーン・ガールズ」の主演のリンジー・ローハンが、現代の女子高生を描いた作品にお母さん役として登場するのも個人的にテンションが上がったり、大好きなマニー・ジャシントが最高にセクシーでさらにテンションが上がったり、シットコムがお得意な役者陣の安定感が抜群!
入れ替わったことでその人自身のことを知るという部分はとってもコミカルにサクッと描かれていて、入れ替わった人の周りにいる他者からの発言で様々なことを知らされる仕組みがとっても好きでした。
観終わった時には「色々あるけど、困難を乗り越えた先に分かり合える結末があると信じたいよね!」と4人と心の中でハグして家路についてぐっすり眠れるはず。朝起きたら本心を知りたい誰かと入れ替わっているかもね!!
あとこんな映画観たらL.A.行きたくなっちゃうよね! あ、飛行機の機内で観る映画としても最高だと思います。
プロフィール
根本宗子(ネモトシュウコ)
1989年10月16日生まれ、東京都出身。19歳で劇団・月刊「根本宗子」を旗揚げし、以降すべての劇団公演で作・演出を手がけるほか、自身も俳優として出演。2015年の「夏果て幸せの果て」、2018年の「愛犬ポリーの死、そして家族の話」、2019年の「クラッシャー女中」、2020年の「もっとも大いなる愛へ」が岸田國士戯曲賞の最終候補となる。2022年4月に自身初の小説「今、出来る、精一杯。」を刊行。同年10月には、自身が脚本・演出を担当した同名舞台を映画化した「もっと超越した所へ。」が公開された。2025年には韓国発のミュージカル「ワイルド・グレイ」の日本公演において演出・上演台本・訳詞を担ったほか、Netflixシリーズ「My Melody & Kuromi」の脚本を担当。同年8月には、音楽劇「くるみ割り人形外伝」の2年ぶりの再演を成功させた。
根本宗子 / Shuko Nemoto (@nemoshuu) | X