「夜明けのすべて」「ぼくのお日さま」がTAMA映画賞の最優秀賞、池松壮亮ら祝福
2024年11月30日 22:17
9 映画ナタリー編集部
第16回TAMA映画賞の授賞式が本日11月30日に東京・パルテノン多摩で開催。最優秀作品賞を受賞した「夜明けのすべて」の監督・三宅唱、「ぼくのお日さま」の監督を務めた奥山大史らが出席した。
TAMA映画賞では前年10月から当年9月に一般劇場で公開された作品および監督、キャスト、スタッフを対象に、市民ボランティアの実行委員が選考を実施。映画ナタリーでは最優秀男優賞、最優秀女優賞、最優秀新進男優・女優賞の受賞者たちのレポートも掲載している。
最優秀作品賞
「夜明けのすべて」はパニック障害とPMS(月経前症候群)を抱えた者同士が、少しずつ互いの殻を溶かし合っていくさまを描く物語。三宅は「この作品に取り組み始めたときはPMSやパニック障害について無知でした。映画制作を通じて新しく知ることができましたし、僕自身が思い込みから自由になることを体験したので、観客の皆さんにも同じように感じていただいたらうれしいです」とコメント。続いて藤沢さんを演じた上白石萌音が登壇し「もともと原作の大ファンだったので、藤沢さんを演じる喜びがありました。朝ドラで松村さんと夫婦役を演じていたので『山添くんは松村さんしかいない!』と思いました。お会いしたら三宅さんはとても優しい方で、楽しみに撮影を待っていました」と回想する。三宅は「本作で、知らない題材の映画を作ることの楽しさを学びました。また1つずつ、映画を作っていければと思います」と言葉を紡いだ。
「ぼくのお日さま」では、雪の降る街を舞台に、吃音を持つホッケー少年タクヤ、フィギュアスケートを学ぶ少女さくら、さくらのコーチである元フィギュアスケート選手・荒川の視点から物語が展開される。キャストの越山敬達、中西希亜良、池松壮亮とステージに上がった奥山は「以前TAMA映画賞にお招きいただいたとき、控室でプロデューサーとお話しして、めぐりめぐってこの映画が生まれました。またこうして呼んでいただけたことがありがたいです」と喜ぶ。スケートのシーンについて越山は「湖でスケートをするシーンがあるのですが、自然の風やにおいを感じながら、時間を忘れて無我夢中で滑りました」、中西は「みんなでたくさん練習して、それをきれいに撮影していただきました。スケートリンクで撮影した時間は幸せで忘れられません」とそれぞれ振り返る。池松はそんな彼らにほほえみかけつつ「僕だけスケートの初心者だったので足を引っ張らないようにがんばりました。実際にはコケたりしていますが、(越山と中西の)2人が助けてくれた。カメラが回っていないときは、手を引っ張ってくれました(笑)」と明かし、笑いを誘った。
最優秀新進監督賞
本年度もっとも飛躍した監督、もしくは顕著な活躍をした新人監督を表彰する最優秀新進監督賞は、「大いなる不在」の近浦啓、「ナミビアの砂漠」の山中瑶子に授与された。藤竜也と森山未來が共演した「大いなる不在」では、主人公の卓が認知症で別人のように変わった父・陽二と向き合う様子がつづられる。ビデオメッセージを寄せた近浦は、同作で最優秀男優賞を受賞した藤を称賛し、「劇場公開のために訪れたニューヨークで観客のスタンディングオベーションを見て、(藤の)偉大さを実感しました。最大限の敬意を込めて、心よりお祝い申し上げます」と口にする。
河合優実が主演した「ナミビアの砂漠」では何に対しても情熱を持てず、恋愛すら暇つぶしだと感じている21歳のカナがもがき、ぶつかり、自分自身に追い詰められていく姿が描かれる。山中は「脚本を書く前から河合さんにお会いして、これまでに見たことのない河合さんを撮りたいということを伝えました。さらにお互いの家族のことや現代の東京で生きている感覚はどうかと3、4回ほどお話したので、そこからインスパイアを受けて脚本を書いた部分も大きいです」とコメント。また彼女は「撮影中にガザへの侵攻が始まり、たくさんの人が亡くなっています。マイノリティへの差別も激化していて、世界が壊れているのを感じます。その中で自分はなぜ映画を作るのか考えたいですし、なんとか続けていけたらと思います。また河合さんと映画を作りたいです」と思いを伝えた。
特別賞
特別賞は「ぼくが生きてる、ふたつの世界」の監督・呉美保をはじめとするスタッフ・キャスト一同のもとへ。呉は「9年ぶりの公開作となりました。この間に私は子供を2人産み、育てていました。もう一度映画作りに戻りたいと考えながらも『一生撮れないのでは』と暗いトンネルにいるような気持ちにもなりました。今日を大事にしていたらいつか撮れる、と信じていたらこのお話をいただいたんです。誰もが持つ普遍的な感情が描けると思い、復帰作にしたいと思いました」と語る。授賞式には、同作で手話演出を担った早瀬憲太郎と石村真由美が駆けつけた。早瀬は「(主演の)吉沢さんは非常にイケメンなので欠点を探してみましたが、手話を伴った芝居はトップレベルで素晴らしかった。すごい俳優さんです。白鳥のように、水面下で努力をされる俳優さんだと思い、感動しました」と吉沢をたたえた。
同じく特別賞は、劇場アニメ「ルックバック」を手がけた押山清高およびスタッフ・キャスト一同に贈られた。押山は「原作は藤本タツキ先生の自伝にも感じ取れました。そんな作品を他人がただ映像化しても薄っぺらくなってしまうので、いかにして作品に私自身を投影して、“私の自伝”として描けるか考えました」と述べる。また彼は本作への反響について「この映画を観て、『絵を描きたくなった』『クリエイティブに改めて向き合おうという気持ちになった』という感想をいただけたのは、特にうれしかったです」と笑顔を見せた。
そのほかの受賞結果は下記の通り。
第16回TAMA映画賞 受賞結果
最優秀作品賞
「夜明けのすべて」(三宅唱およびスタッフ・キャスト一同)
「ぼくのお日さま」(奥山大史およびスタッフ・キャスト一同)
特別賞
呉美保およびスタッフ・キャスト一同「ぼくが生きてる、ふたつの世界」
押山清高およびスタッフ・キャスト一同「ルックバック」
最優秀男優賞
藤竜也「大いなる不在」
吉沢亮「ぼくが生きてる、ふたつの世界」「キングダム 大将軍の帰還」「かぞく」
最優秀女優賞
上白石萌音「夜明けのすべて」
河合優実「ナミビアの砂漠」「あんのこと」「ルックバック」「四月になれば彼女は」
最優秀新進監督賞
近浦啓「大いなる不在」
山中瑶子「ナミビアの砂漠」
最優秀新進男優賞
松村北斗「夜明けのすべて」「ディア・ファミリー」「キリエのうた」
齋藤潤「カラオケ行こ!」「瞼の転校生」「からかい上手の高木さん」「正欲」
最優秀新進女優賞
森田想「辰巳」「朽ちないサクラ」「サユリ」「NN4444」「愚鈍の微笑み」「正欲」
早瀬憩「違国日記」「あのコはだぁれ?」
Totemo512 @Totemo512
個人的にもそれぞれ納得の選出で、TAMA映画賞は私的感覚が合いますね、とは‥
(もちろん私的も他で優れた作品もありましたが‥)
受賞された皆さん、おめでとうございます!‥ https://t.co/9sSFbZm0te