2024 TCCFでのインタビューの様子。左からアニタ・ソン、風間太樹、本間かなみ、ナッタポン・モンコルサワット

TCCF 2024、映画ナタリーが見た台湾ドラマ・映画の今 Vol. 3 [バックナンバー]

実写「チェリまほ」日本版&タイ版スタッフが集合、赤楚衛二・町田啓太らキャストを語る

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アジアのコンテンツビジネスの祭典「2024 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」が11月5日から8日まで台湾・台北で開催された。同イベントは台湾・文化部(日本の文科省に類似)によって創設された台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)が主催したもの。TAICCAは台湾文化コンテンツの産業化・国際化を促進のため、台湾映画やドラマ、クリエイターを支援している。

今年のTCCFでは“IP(知的財産)のローカライズ化”をテーマにしたトークセッションを実施。マンガ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」と、日本とタイで実写化されたドラマを取り上げた。イベントには日本版ドラマ・映画の監督である風間太樹とプロデューサーの本間かなみ、タイ版ドラマの監督であるナッタポン・モンコルサワット(Nuttapong Mongkolsawas)、数々のBLドラマをプロデュースしてきた台湾出身のアニタ・ソン(宋鎵琳)が登壇。映画ナタリーはイベントを取材したのち、4人にグループインタビューを行った。

取材・文・撮影(インタビュー) / 田尻和花

ドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」とは

豊田悠によるマンガ、「チェリまほ」こと「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」をもとにした本作。童貞のまま30歳を迎えたことにより“触れた人の心が読める魔法”を手に入れたサラリーマン・安達清と、社内随一のイケメンで仕事もデキる同期・黒沢優一の恋が描かれる。安達を赤楚衛二、黒沢を町田啓太劇団EXILE)が演じた。ドラマは2020年10月からテレビ東京で放送され、2022年4月には映画が公開された。
タイ版ドラマは2023年12月にスタート。安達にあたるAchiをNew(ティティプーン・テーシャアパイクン)、黒沢にあたるKaranをTay(タワン・ウィホクラット)が演じている。

実写ならではのトーンを探していったドラマビジュアル

「IP Localization: Key Factors Behind the Overseas Success of Adapting BL Manga "Cherry Magic" into TV Dramas」と題された本イベント。司会を務めたアニタ・ソン(宋鎵琳)からは実写化にあたって大切にしたこと、工夫した点などが掘り下げられた。

MCを務めたアニタ・ソン(宋鎵琳)

MCを務めたアニタ・ソン(宋鎵琳)

アニタ・ソン(宋鎵琳) 原作を実写化するにあたってさまざまな苦労もあったと思います。キャスティングやストーリー構成、意識した点について聞かせてください。

本間かなみ

本間かなみ

本間かなみ キャストについては安達(清)はワンコっぽいかわいらしさ、黒沢(優一)はイケメンというよりハンサムという言葉が似合う人で考えました。ルックもお芝居の相性もコントラストが出る人たちで、身長差が3cm以上あるといいなと思い、赤楚衛二さんと町田啓太さんにお願いしたんです。ドラマは全12話、1話20分超の短い尺で完結しないといけなかったので、エピソードをパズルのように考えて組み立てました。原作の豊田悠先生や担当編集者の方とコミュニケーションを取りながら、安達と黒沢の心情や距離感が変化していくステップを一番大切にしつつ、ストーリーを凝縮させていただきました。

風間太樹

風間太樹

風間太樹 原作ものを実写化する際、小説とコミックでは違う葛藤があります。コミックはビジュアルイメージがすでに存在しているので、イメージ通りにいくかどうか、その匙加減が大切です。ドラマ版「チェリまほ」(「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」の愛称)ではコミック原作になぞらえつつ、シチュエーションの色味や演じ手の柔さに影響を受けながら、実写ならではのトーンを探していきました。何より、原作ファンが非常に多い作品ですので、その方々を大切に見つめながら作っていきました。

物語においては、“触れた相手の心の声が聞こえる”という安達の魔法を興味深く感じました。モノローグで心情が語られることはよくありますが、本作で聞こえてくるのは、他者がコミュニケーションの中で選ばなかった言葉です。ほとんど独り言のようなそれらは、安達だけが受け取る誰かの“本音”。安達は魔法を通して相手の本音を受け取り、戸惑い、気付き、つまずきながら懸命に寄り添っていく。コミュニケーションの裏腹にある葛藤や、黒沢の恋心に対して安達がどう向き合っていくのか、そのプロセスを丁寧に描きたいと思いました。

ソン 原作ファンの存在がいるということは、実写化にとって非常に大きな要素になりますよね。

通勤手段を電車から船へ変更、初めて聞くのはお坊さんの心の声

一方、タイ版は監督のモンコルサワットがコロナの自粛期間中に日本版のドラマを観たことから企画がスタート。「当時タイは落ち込んだ状態でしたが、一筋の光が差し込んだようでした」というほどの衝撃を受けた彼は、友人と「タイでリメイクをするなら誰がいいだろう?」と語り合うように。そしてライセンス元からドラマ化の承諾をもらい、原作マンガも読み始めたという。

ソン タイ版ではどんな創意工夫をしたのでしょうか?

ナッタポン・モンコルサワット(Nuttapong Mongkolsawas)

ナッタポン・モンコルサワット(Nuttapong Mongkolsawas)

ナッタポン・モンコルサワット(Nuttapong Mongkolsawas) 私は何度も観たドラマ版のことはいったんリセットして、原作マンガを中心に考えることにしました。そして、タイの人たちがこの作品を通して喜んでくれる要素はなんだろう?と。日本とタイのドラマのテンポは少し違いますし、語り口にも違いがあります。キャスティングでは悩みました。安達にあたるAchiをNew(ティティプーン・テーシャアパイクン)さん、黒沢にあたるKaranをTay(タワン・ウィホクラット)さんに演じてもらいましたが、お二人にとって大きなチャレンジだったと思います。Tayさんはもともと作品のファンだったので、パーフェクトな黒沢を自分が演じられるのか悩んだそうです。

タイ版のドラマは1話50分ほどです。いかに「チェリまほ」をタイにローカライズさせるか考え、通勤手段を電車から船に変更しました。船で通勤することはほかの国にはなかなかないですから、ぜひこの設定を使いたいと思いました。またAchiは寺院の近くに住んでいる、スローで落ち着きのある人物にしています。彼が初めて他人の心の声を聞いてしまうとき、その1人目は誰がいいのか考えました。日本版ドラマだとおにぎり店の店員です。ただタイの場合は誕生日になると寺院にお布施をする習わしがあるので、その1人目はお坊さんにしました。伝統的な文化である水かけ祭り「ソンクラーン」も物語に入れ込んでいます。

「Cherry Magic 30 ยังซิง」公式トレイラー

また「ファンタジーとリアリティのバランスをどう取る?」という質問をされた風間は「それぞれの心情は親しみを持った描写で表現した」、モンコルサワットは「心の声が聞こえることはファンタジーではなく現実に起こっていることだと思わせたかった。撮影では、俳優のために私が心情のセリフを読み上げました」と回答。そして日本版・タイ版のカップルの雰囲気についても語った。イベントが終わると、4人は映画ナタリーのグループインタビューへ。

イベント「IP Localization: Key Factors Behind the Overseas Success of Adapting BL Manga "Cherry Magic" into TV Dramas」の様子

イベント「IP Localization: Key Factors Behind the Overseas Success of Adapting BL Manga "Cherry Magic" into TV Dramas」の様子

「赤楚さんのお芝居は心の躍動が見え、町田さんは想像を超えた黒沢を演じてくれた」

──キャスティングについてもう少しお伺いさせてください。原作ファンが多いですし、安達役と黒沢役の俳優が発表されたときには大きな反応がありましたよね?

本間 私が確認した限りでは、おおむね温かく歓迎していただけたと思っています。最初に解禁したビジュアルも、原作第1巻の表紙をオマージュしたものだったので、それもファンの方にとっては大きかったのかもしれません。

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──NewさんとTayさんはほかの作品で何度かカップル役を演じたことがありましたね。2人の組み合わせはいかがでしたか? イベントでは「2人のファンの心情としては『それぞれ別に活動をしていたけれど、また2人が戻ってきた』という感覚だったんじゃないか」とお話しされていました。

モンコルサワット お二人は信頼し合っていて、互いのことをよく知っていました。その前提があったので心を開いて演じることができたんです。今までに共演した2作品は、2人が喧嘩したあとに惹かれ合っていくというストーリーでした。今回は片思いから始まる物語だったので新鮮で面白く感じましたね。TayさんとNewさんをキャスティングしたあとに、どちらが黒沢を演じるか一緒に話し合い、そして今の形に振り分けました。

──赤楚さんと町田さんの関係性はいかがでしたか? 今作を通してお二人のどんな姿が見えてきたでしょうか。

風間 赤楚くんは体の使い方が非常によかったです。安達の動揺や戸惑いをコミカルに親しみやすく体現してくれましたし、繊細な部分も一緒に作り上げていけました。非常に素直な方だと感じました。町田さんは黒沢の切なげな部分、きめ細かく哀情の感慨を上手に出してくれていて。完璧であろうとする黒沢が持つ、根っこの部分の寂しさを引き出してくれました。

本間 赤楚さんは心の躍動が見えるお芝居をしてくれました。安達が黒沢の家に行くエピソードで、急に自分の顔をパチンと叩いたんです。クランクインしてそんなに経っていないのに、アドリブのお芝居が出たのでびっくりしましたし、その姿が安達にしか見えなくて。モニタを観ながら「何、今の!? かわいい!」と(笑)。赤楚さんが生身の安達の愛らしさを表現してくれたんです。黒沢は回を重ねるごとに安達への思いがあふれてくるキャラクター。どうなるだろうと思っていたら、町田さんが想像を超えた黒沢を演じてくれて。目がハートで、愛おしい人を見る目にちゃんとなっていました。

風間 言葉以外でどう見せていくのかを2人ともしっかり表現してくれました。それを見るのがいつも楽しみな現場でしたね。

──ソンさんは日本版・タイ版をご覧になってどんな感想を持ちましたか?

ソン 私はコロナの自粛期間中に日本版ドラマを全部観たのですが、孤独な時間を「チェリまほ」が支えてくれたと思っています。どちらの「チェリまほ」も本当によかったです! もし違いを挙げるならタイ版は効果音が多く、BLファンじゃなくても入りやすいバラエティ感、エンタメらしいテンポがあるように思いました。モンコルサワット監督がおっしゃっていたようにタイ要素も強いので、同じ原作でも違う文化になっているので比べると面白いですよね。

映画を撮るときによく見返す「藍色夏恋」

──今回はTCCFへ参加いただいたということで、台湾映画やドラマへの印象をお聞きしたいです。

風間 僕は「藍色夏恋」が好きです。映画を撮るときによく見返しています。みずみずしい青春の中にある切なさ、息苦しさが、台湾の密度ある情景の中で描かれていて。今回はじめて台湾に来て、風景を見て、あ、これこれ!とうれしくなりました。昨日の夜も散策して楽しかったですし、映画の情景がやっと実像として見られました。

映画作品情報

ソン ありがとうございます! 台湾人としてうれしいです。

本間 私はNetflixで配信されている「君の心に刻んだ名前」が好きで。1980年代の男性たちの恋愛模様とともに切実な生きにくさが描かれていて、とても素敵な作品でした! 建物や道路の移り変わりも映されていますし、バイクに二人乗りしたり、日本にはないノスタルジーな感じがあります。

モンコルサワット 台湾の作品だと「花より男子」をリメイクしたドラマ「流星花園~花より男子~」が印象的です。

ソン モンコルサワット監督はタイ版リメイクの「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」も手がけた大プロデューサーですからね。

風間本間 ええー!

モンコルサワット (笑)。ほかにも映画「僕と幽霊が家族になった件」が好きで、タイでも大人気なんです。ちなみに日本ですと、お笑い芸人の志村けんさんが好きです。彼のバラエティ番組がお気に入りでした。

1人をひたすら一途に愛するような物語が作れたら

──ソンさんは台湾のBLドラマ「HIStory」シリーズを日本に紹介し、BLドラマ「Be Loved in House 約・定~I do」「隔離が終わったら、会いませんか?」「正負之間~Plus & Minus」などをプロデュースしました。最近の台湾BLについて教えてください。

ソン 私は年1本、台湾でBLを作っています。台湾は市場が小さいので、国内視聴だけでは製作費が回収できません。BLは海外ですごく人気があって、非常に成績がいい。台湾BLは年間2、3本作られていましたが、来年は5本から7本くらい出ます。映画でもLGBTQ+をテーマにしたものが増えていますし、私個人としてもBLのラブストーリーをもっと伝えていきたいんです。「花より男子」のようなコミカルさがあるものや、さまざまな出来事を乗り越えて1人をひたすら一途に愛するような物語が作れたらと思っています。

バックナンバー

風間太樹

2019年公開作「チア男子!!」で長編映画デビュー。ドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」、映画「チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~」のほか、ドラマ「うきわ ―友達以上、不倫未満―」「silent」「海のはじまり」、映画「バジーノイズ」でも監督を務めている。

本間かなみ

ドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」、映画「チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~」のプロデュースを担当。ほかに「うきわ ―友達以上、不倫未満―」「今夜すきやきだよ」「SHUT UP」などがある。

ナッタポン・モンコルサワット(Nuttapong Mongkolsawas)

タイの監督、プロデューサー。「Wolf」「Theory of Love/セオリー・オブ・ラブ」「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」「Vice Versa」などに参加し、ドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」のリメイク「Cherry Magic(英題)」の監督を担った。

アニタ・ソン(宋鎵琳)

台湾出身。日本で就職したのち「HIStory」シリーズ、「We Best Love」シリーズの買付を担当した。プロデュース作品にドラマ「Be Loved in House 約・定~I do」「隔離が終わったら、会いませんか?」「正負之間~Plus & Minus」「奇蹟」「看見愛(カンジエンアイ)~See Your Love」があり、「Life~線上の僕ら」では共同プロデューサーを務めた。

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【グループインタビュー】実写『チェリまほ』日本版 & タイ版スタッフ:風間太樹、本間かなみ、アニタ・ソン 他(2024 TCCF)
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「私はコロナの自粛期間中に日本版ドラマを全部観たのですが、孤独な時間を『チェリまほ』が支えてくれた(ソン)」

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