「無能の鷹」菜々緒のコメディ回帰に歓喜！神木隆之介主演の日曜劇場は“目線の演出”に脱帽

取材・文 / 脇菜々香・尾崎南 題字イラスト / トモマツユキ

「ばけばけ」のヒロインは「ベイビーわるきゅーれ」シリーズの高石あかりに

──前編から後編の取材の間に、2025年後期の朝ドラ「ばけばけ」のヒロインが発表されましたね。前編で話題に出た「ベイビーわるきゅーれ」シリーズで知られる高石あかりさんがオーディションでヒロイン役を勝ち取りました。

綿貫大介　意表を突かれてうれしくなっちゃって。既定ラインの人よりも、観たいのはそっち！ もともと誰を予想していましたか？

明日菜子　私は森川葵さんと池田エライザさんです。

綿貫　私も第一予想が池田エライザさんだったんです。ヒロインのパートナーである小泉八雲は小柄な外国人なんですけど、実写で小柄な外国人俳優をキャスティングするのは難しいだろうと思ったときに、身長が高めの女性だとバランスがいいだろうなと。朝ドラヒロインってもはや順番待ちっぽいところあるじゃないですか。「海に眠るダイヤモンド」には朝ドラ主演が3人いる中で、エライザさんの存在感もすごくて、これはあり得るなあと思っちゃいました。

明日菜子　ヒロインを発表する番組の生放送中、Xで配信をしたんですけど、そのときは見上愛さんや小芝風花さん、黒木華さん、橋本愛さんを候補に挙げている人が多かったです。そのラインナップを見て「高石あかりさんとかもあるよね」とポロッと言ったのが当たって大興奮でした！

綿貫　高石さんのことをまだ知らない人も意外といて、「新人俳優の登竜門」「ブレイクのきっかけ」という役割を果たす朝ドラになると思うと素晴らしいなと。

明日菜子　NHKのドラマ制作陣も、フレッシュなヒロインを受け入れる準備がまた整ったのだと思います。高石さんがどう化けるのか楽しみです！

※高石あかりの高は、はしごだかが正式表記

「全領域異常解決室」超常現象を真剣に扱っているのがいい

──コラム後編では10月9日以降に始まった作品を取り上げますが、注目作はありますか？

明日菜子　「全領域異常解決室」が面白いです！ ただ、今期のフジテレビは「嘘解きレトリック」「モンスター」「オクラ～迷宮入り事件捜査～」「全領域異常解決室」と、ジャンルの近いドラマが並んでいるので、その面白さがかすんでしまっているのがもったいない。

綿貫　この原因の1つは、タイトルだと思っているんです。めちゃめちゃ面白いし、もっと話題になっていいのに、友達と語るときに作品名が思い出せなくて……。キャスティングも気合いが入っていて、藤原竜也さんをプライムタイムのドラマに持ってくるのも珍しいですよね。

明日菜子　叫ばない藤原竜也さん、待ってました！

綿貫　「おいハンサム!!2」でひさびさにドラマに出たと思ったら、ここにつながった。この作品のいいところは、超常現象を真剣に扱っていること。本当に宮内庁とかで大真面目にこんな部署を作っていてもおかしくない気がしました。日本人が大好きな妖怪の要素も出てくるから面白い。かといって「SPEC～警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿」っぽくなりすぎず、劇中で起こる事件は今のところ“結局本当の犯人は普通の人間”みたいな解決方法なんですよね。

明日菜子　謎の残し方と超常現象の相性がいいですよね。最後まで解き明かさないことがいい抜け感になっている。

綿貫　ヒルコ（※）の存在はずっと残している。事件現場にたびたび姿を現す謎多き女性に扮する福本莉子さんは、出てきたときから「もう気になる！」と思った。キャスト1人ひとりに力がありすぎるから観るっきゃない。

※編集部注：神隠し事件のたびに、“神の一柱”だというヒルコの犯行声明がネット上に出ることにより、人々はヒルコの存在を信じ、中には崇める者も出てきている。その正体はまだ明らかになっていない

明日菜子　黒岩勉さんの脚本の力も強いと思います。前回、根本ノンジさんを“令和のヒットメーカー”と言ったんですけど、黒岩さんも同じで、この人に任せていたら間違いないという1人なんですよね。「グランメゾン東京」「TOKYO MER～走る緊急救命室～」などのオリジナル作品も書きつつ、映画「ONE PIECE FILM RED」も書いていて、守備範囲が広い。

綿貫　今は「連続ドラマW ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―」も担当していますよね。

明日菜子　ストーリーの面白さはもちろん、黒岩さんは資料の読み込み能力と捌く能力もすごいんじゃないかと。「ONE PIECE」も「ゴールデンカムイ」も資料（原作）が膨大なのに、どの要素を脚本に抽出するかの取捨選択がうまい。オリジナル脚本でも、ヒューマンものよりは医療ものなど専門性に特化したストーリーが多く、今回で言うと怪奇現象や民俗学の資料などのエビデンスを、きちんと提示しているのが黒岩作品らしいなと思いました。

綿貫　超常現象と本当の事件のつなげ方が絶妙で、第2話で「キツネに取り憑かれた」のが実は祠の解体が原因だったなど、ストーリーがちゃんと着地していてうまい。またこの作品で注目してほしいのは、サブタイトルとは別のラテ欄用のワード。2話の「名門高校で集団失神学校襲うキツネツキ」、3話の「空から足が降る…!!タイムホール殺人」などキャッチーで面白い。大好物である「警視庁・捜査一課長」のサブタイトル「ナタデココは見た!? 高輪ゲートウェイ駅殺人ルートの謎」とやってることは同じなんですよ。とはいえ、「捜査一課長」で同じ事件を扱ったら超コメディになるところを、こんなに重厚に捌けることにびっくりした。タイトルを「ゼンケツ」とわかりやすくしなかったのは、あえてなのかな。

明日菜子　“全領域”がキーワードなのかもしれませんよね。

綿貫　それと、雨野小夢（広瀬アリス）が武を心得ているのも見やすい理由だと思う。同クールの「潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官」は妹・渡良瀬優貴の腕っぷしが強くないので、観るのが怖い。今回は「ゼンケツに必要なのは全領域にまたがる知識と武の心得」って言うし、それが雨野にもちゃんとあるから安心できる。

明日菜子　興玉雅（藤原竜也）に「勉強不足ですね」と指摘されながらも、雨野もきちんと役に立っているのがいいですよね。

「無能の鷹」菜々緒がコメディに帰ってきた！

──今期はコメディ色が強いものも多い印象です。テレビ朝日で放送中の「無能の鷹」はいかがですか？

綿貫　好き！ 本当に毎週超楽しみ！

明日菜子　放送曜日も完璧だと思います。「無能の鷹」は連載開始当初から話題になっていて、各局が「いつ手を挙げようかな」と実写化を狙っていた作品だと思うんです。その中でよくぞテレビ朝日が挙げてくれた！ キャスティングも、菜々緒さんが首を縦に振らなかったら誰がやっていたんだろう？と思うくらい主人公・鷹野ツメ子役がハマっていますよね。

綿貫　菜々緒さんは「主に泣いてます」のときのキャラっぽいなと思っていて。この作品で俳優デビューをしているから、コメディに帰ってきたうれしさもある。クールビューティで腕っぷしが強いキャラを演じることが多いけど、菜々緒さんの面白さを改めて見せつけてくれる。

明日菜子　鶸田道人役の塩野瑛久さんもうまいですよね。塩野さん自身は「HiGH&LOW」シリーズから大河ドラマ「光る君へ」で今やお茶の間人気も獲得した中堅層だと思うんですけど、まだ“昨日生まれました”みたいなぽわぽわした新入社員役ができちゃうのがすごい。なんだか原作の鶸田に見えてくるんです。

綿貫　本当は水曜日に観れるともっとありがたいけど、これはゴリゴリなお仕事ドラマではないから、金曜の夜でも観ちゃいますよね。ただ、これは個人的な仕事の悩みとリンクしますが、主人公の鷹野については、営業のときに無能だけど見た目で“できる人”と判定されているのが羨ましくなっちゃいます。「人は見た目が100パーセント」というドラマもありましたが、この世の中、初見でかなり判断される。私は仕事相手にペーペーに見られがちで、むげにされることがコンプレックスだったこともあるので、これを観ていると「人って本当に見た目でジャッジするんだな」ってことを実感させられる。もちろん鷹野は行動力もあり、みんなが一目置いちゃうのはわかります。すごい好きなキャラ。

明日菜子　主人公は無能なんですけど、だからと言って、仕事ができないこと自体を肯定しているドラマではないと思うんです。仕事ができて面倒見もいい鷹野の教育係・鳩山樹（井浦新）と鷹野の分断を煽らないところもすごくよかった。鷹野から学ぶところがあるとしたら、仕事術じゃなくて自己肯定感の保ち方じゃないでしょうか。仕事には楽しいこともあればつらいこともあるけれど、簡単には辞められない。その中で週5日、どうやってモチベーションを維持していくか。そんな働き方の話になっているのが、新しいなと思いました。あとはなにげに注目しているのが、鶸田の指導係・雉谷耕太役の工藤阿須加さん。要領がいい“根回しの鬼”というキャラクターに説得力があっていい。会社にいそう！

綿貫　どの会社にもいる！ いいやつでも、悪いやつでもないキャラクター。

明日菜子　勝手なイメージですが、コンサル業界はああいう人が多そう（笑）。ちなみに朝ドラ「おむすび」の根本ノンジさんが脚本を書いているので、朝ドラを観ている人にも観てほしい！

綿貫　最近ハマっているマンガ「恋とか夢とかてんてんてん」にも共通すると思うのですが、成長しなくてもいいってこともちゃんと言ってあげる人が必要。私たちは成長物語を観すぎているので、ドラマでこういうことを伝えるのは大事だと思います。

「民王R」は全世代が楽しめるファミリードラマ

──コメディつながりで、同じくテレビ朝日の「民王R」はいかがですか？ 2015年に放送された「民王」の続編となります。

綿貫　選挙の時期に始まるという運命的なものも含めて、第1話から最高でした。前作とは一応つながっているものの、あくまで今回は“Inspired by 池井戸潤”であって、オリジナルストーリーなんですよね。主人公である武藤泰山（遠藤憲一）の人格が国民全員と入れ替わる可能性があるという設定も、誰と入れ替わるかによって、その人が抱える問題を解決する政策につながると思うと、すごく重要！ というかこれ、（実際の）総理も観てください！ よく政治家は都合よく「多様性」という言葉を使ってますけど、どういう人を想像してますか？というのを問いかけていってほしい。

明日菜子　第2話では、闇バイトに手を出してしまった若者と入れ替わりましたよね。主人公の泰山は昔はいろいろあったけど、今は本当に国民のために尽力しようとしているいい政治家。だけどそんな彼も当事者にならないと闇バイトに堕ちてしまう若者の悩みや葛藤はわからなかった、みたいな描写があって、すごく幅が出そうな作品だと思いました。最初に入れ替わったのが秘書の冴島優佳（あの）、第2話が闇バイトの青年、その次が5歳児……って、どうなるのかまったく予想がつかない！

綿貫　第2話の入れ替わりは、若者に対する政策を考えるきっかけになったんですけど、孤独孤立対策は若者だけでなく全世代に必要な措置なので、高齢者優遇と対比させて世代間の対立を生む構成ではないほうがいいなと思いました。ただ、プロジェクトマッピングの費用削減など、旬なネタは盛り込んでいるから、さらっと“そういえばあれおかしくない？”と思い出せる作りなのはいいですね。

明日菜子　前クールの「笑うマトリョーシカ」然り、設定はフィクションなんだけど、自分たちはどうなんだろう？と実際の生活に立ち返らせていて、政治ドラマとしての意義を感じる。もっとたくさんの人に観てほしいので、日曜日にやってほしかったかも。

綿貫　わかる、日曜劇場向きですよね。全世代がファミリードラマとして観られる作品。「派閥みたいなものって今もあるんですか？」「昨日今日でなくなるわけない」とか、現実につながるようなセリフを言ってくれるから、関心の入り口にしやすい。あとは、武藤内閣が階段に並ぶシーンで女性閣僚が5人しかいなくて少ないと思ったけど、現政権は2人でさらに少ないという……。2話最後の“無給総理大臣”というパワーワードは、絶対（作中の）いろんな新聞が見出しにしたいだろうなと思いましたね。

明日菜子　遠藤憲一さんが何年経っても武藤泰山ができるのもすごい！

綿貫　菅田将暉さんも、“民神”としてナレーションをやってくれてありがとう……。

明日菜子　第1話に登場した貝原茂平（高橋一生）もまた出てきてほしい。願わくば最終回で泰山たちと同じ画面にいるところが観たいですね。

綿貫　そうそう、今日はドラマに出てくる泰山まんじゅうを持ってきました！ テレ朝の本社や東京駅のテレ朝ショップに売っているんですけど、実際に国会で売っている政治家のまんじゅうを作っている会社・大藤に発注していて、プロセスを含めてちゃんとしている。

──ありがとうございます。いただきます！ 普段からドラマの関連商品は買うんですか？

明日菜子　私はドラマ鑑賞ともう1つの趣味が、ドラマのトンチキグッズを探すこと。なんでこのグッズ出したの!?っていうのを追い求めて、毎クール、パトロールをしています。

綿貫　劇中アイテムが再現されたグッズを買うのが好きなんですけど、最近のグッズはアクスタが主流になっちゃいましたね。その中でも面白かったのが「ドラゴン桜」で、顔は実写・体はイラストのアクキー。江口のりこさんのものも売っていて、さすがにレアすぎて買いました。「真夏のシンデレラ」はメインキャスト8人のランダムアクスタが出ていたから、海の家が再現できましたよ。買いは劇中に登場したクジラのネックレスとグラスでしたが。