中国ドラマ「大理寺日誌~謎解く少卿には秘密がある~」がU-NEXTで独占先行配信中。DVDが順次リリースされている。ディン・ユーシー(丁禹兮)が“半人半猫”の名探偵を演じた本作は、“萌える”男の友情、先の読めない展開、衝撃のラストが中国で熱狂を生んだブロマンスミステリー時代劇だ。
映画ナタリーでは、中国ドラマに造詣の深いライターの小酒真由子と沢井メグの対談で本作の魅力を紐解いていく。第1部では思わず猫のしぐさが出てしまう主人公の魅力や、ミステリー時代劇の面白さをトーク。さらに第2部では、本作の見どころの1つでもあるブロマンスにスポットを当てた。なお第2部には一部ネタバレも含まれるため、未視聴の方はご注意を。
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取材・文 / 金子恭未子
「大理寺日誌~謎解く少卿には秘密がある~」予告編公開中
あらすじ
神都に兄を探しにやってきた陳拾は人間のように賢い不思議な白猫に出会う。その正体は前大理寺卿の息子・李餅。3年前、父親が謎の刺客に襲われて亡くなり、自身も絶体絶命となった李餅は、目覚めると半人半猫の体となっていたのだ。その謎の真相を突き止めるため神都に戻ってきた彼は、ひょんなことから陳拾を相棒にし、ある事件を解決。その功績で大理寺の少卿に任命されると、明鏡堂を率いて神都を揺るがす妖猫事件の捜査を始めることに。部下たちと徐々に絆を築いた李餅は、ともに事件捜査を進めるうちに、3年前の真実に近付いていく。
「大理寺日誌」の魅力をライタートークで大解剖
ディン・ユーシーが猫を演じるというだけでつかみはOK!(小酒)
──お二人にはディン・ユーシー(丁禹兮)が“半人半猫の名探偵”を演じた「大理寺日誌~謎解く少卿には秘密がある~」を配信・DVDリリースに先駆けて観ていただきました。
小酒真由子 ディン・ユーシーが猫を演じるというだけでつかみはOK!(笑)
沢井メグ めちゃめちゃわかります! もうその設定だけで観ようと思いました(笑)。
小酒 CGの猫が出てきて、それが人影になって、主人公の李餅が現れるところは、おー!となりました。演じるディン・ユーシーの猫っぽいしぐさがかわいらしくて、李餅役にぴったり。彼を取り巻く明鏡堂の仲間たちも愛すべきキャラで、誰かが特別目立つというわけではなく、それぞれに見どころがあるのも面白かったです。
沢井 ミステリー部分も面白いんですが、最後まで観るとこれは男同士の熱い友情の話だったんだというのをすごく感じました。誤解したり、それを解いたりしながら、李餅や陳拾、明鏡堂の仲間たちの絆がどんどん強くなっていく。そうやって熱い友情で結ばれた彼らが力を合わせて事件に立ち向かっていくので、ミステリーの部分も熱くなっていくんですよね。マンガが原作で、人気俳優たちが出演しているので、中国ではもともと一定数以上の視聴者がいたとは思うんですが、回を追うごとに、どんどん面白くなっていったので、口コミで広がって、視聴者数も右肩上がりだったのかなと思います。
小酒 終盤の勢いがすごかったですよね。実写化するにあたって大胆に原作を翻案しているところが功を奏しているなと思いました。ドラマ版ではどんな結末を迎えるんだろうという新たな見どころが生まれたのも、人気が右肩上がりの理由だったのではないかと思っています。
沢井 「いい結末だ」という感想は多かったですよね。
──iQIYI総合ランキング1位ほか、数々のランキングで1位を獲得した本作ですが、中国ではどんな部分が評価されていたのでしょうか?
小酒 「ディン・ユーシーの猫っぽい演技がとてもいい」「原作とは違うけれど、面白いストーリー展開だった」といった声が多かったですね。原作になじみのない海外の視聴者レビューも見ましたが、「コメディ目当てで観始めたけれど、ミステリーが面白くて、友情に感動した」「ミステリー、復讐、ブロマンス、コメディ、超自然現象と多彩な要素があって面白かった」といったものや、「ミステリーと友情は見たいけど、ラブストーリーはいらない私にぴったり」という声があって、なるほどなと思いました。
沢井 今、中国ではヒロイン不在型ドラマがすごい人気ですよね。
小酒 そうそう。「蓮花楼」とかもそういうタイプのドラマですよね。
沢井 ラブロマンスがあまりにも定番化しすぎてしまって、もっと新しい刺激を求めている人がいるというのと、中国ではブロマンスに対する検閲が厳しいので、新作が出てきづらいという状況から、「ヒロイン不在」「恋愛要素なし」「男子わちゃわちゃ」といった作品の人気がどーんと上がってきてます。
──「大理寺日誌」もそんなトレンドを押さえた作品のように感じました。
小酒 ディン・ユーシーはかわいらしい部分があるので、男子わちゃわちゃもなじみますよね。
沢井 明鏡堂のみんなから少年っぽさがちょっと香るのが、よかったです!
小酒 6人が集まっていると青春学園ドラマっぽさもありました。現代の日本に転生したら高校の部活仲間のストーリーにもできるよね、とか妄想できます(笑)。
沢井 生徒会とかも面白そうです(笑)。
──仲間たちの中心にいるのはやはり主人公の李餅ですが、彼の魅力をどう捉えましたか?
沢井 李餅は耐える人という印象なんです。たぶん、なんでもできちゃう人だから、人に頼ることをしてこなかったんだなと。それが彼の強さでもあり、弱さでもあると思うんです。でも、明鏡堂の仲間たちと絆を築いていくことで、そんな弱さを克服していく。序盤ではあまり感情が表情に出てこなかったのですが、後半になると、笑ったり、泣いたり、表に出てくるので、そういった変化もとても魅力的でした。
小酒 李餅は大理寺少卿という地位にあるので、堂々としていて威厳があって、カリスマリーダー的な存在なんですよね。でも、仲間ができて、心を許していくことによって、素の表情を見せていく。そんな変化がとてもいい。
沢井 李餅は落ち着いていてクールなキャラですが、一方では猫のかわいいしぐさが出てしまう。もうそのギャップにわー!っとなって(笑)。
一同 (笑)
沢井 ディン・ユーシーは「七時吉祥~エンドレス・ラブ~」でも猫の妖怪を演じている部分があったんですが、本作ではさらにパワーアップしていて、一挙手一投足が猫っぽい。特に私は目に注目して観ていたんですが、捜査中に周りを観察しているシーンや、警戒する姿、思案するときの目が本当に猫でした。初めてディン・ユーシーを観た人はこういうお芝居をする人なのかな?と思うかもしれないんですが、ほかの作品とは全然違う。なので、別の作品を観て、また「大理寺日誌」に戻ってくると、猫のしぐさのすごさや彼の変幻自在ぶりがよりわかって、さらに楽しく観れると思います。
小酒 ディン・ユーシーは猫っぽいしぐさとか表情が、本当にかわいく出せる人だからキュンときますよね。びっくりしたり、戸惑ったり、照れたりといった表情もとてもうまい。さらにここでこんな表情するんだというものを、不意に見せてくることもあるので、本当に目が離せない! そういえば、李餅を演じるにあたって、彼はいつもより深くて低い声で演技していますよね?
沢井 ですよね。だいぶ今までと雰囲気が違ったので、誰が声を当てているんだろう?と調べたら本人でした。すごく声の演技を意識していますよね。
小酒 ある人に「李餅の声は誰がやってるんですか?」って聞かれたので、「ディン・ユーシー本人の声じゃないですか?」って言ったら、「え! 声が低いから違うと思ってました」ってびっくりしていて。そういう意味でも、「大理寺日誌」は新たなディン・ユーシーの姿を楽しめる作品です。
※編集部注:多様な方言がある中国では、標準語である普通話での放送を求められることが多く、また音響など制作上の事情もあり、登場人物の声を声優が担当するケースもある。
私たちでも推理できちゃうかもしれない(沢井)
──李餅の変化はもちろんですが、明鏡堂の面々が頼もしい捜査官になっていく過程も本作のポイントでした。
小酒 最初はひどかったですよね(笑)。李餅のお父さんが率いていた時代の明鏡堂はエリートの集まりだったのに、今では捜査初心者の集まりみたいな感じで。でもへっぽこチームだと思っていた彼らが、それぞれの能力を発揮して、どんどん事件を解決していく。観れば観るほど、1人ひとりのよさがわかっていく物語でした。
沢井 彼らが突然、パワーアップするわけじゃないんですよね。それぞれのもともとの持ち味や特技を生かして、事件に立ち向かっていくところがよかった。
小酒 王七は最初、ずる賢くてちょっと嫌なやつにも見えたんですが、その分、どんどん株が上がっていって楽しかったです。ほかにも阿里巴巴には意外なバックボーンがあったり、それぞれのストーリーをしっかり見せてくれるので、みんなのことが好きになれる。
──推しキャラ探しも楽しい本作ですが、特にお気に入りのキャラクターはいましたか?
沢井 邱慶之や上官檎も、最初は嫌なキャラかなと思っていたら共感できるポイントもあったりして、私はみんなが好きですね。ただ、阿里巴巴と王七が登場すると特にうれしくなっちゃいました。2人が出てくるとコメディが始まるので、ほっとする。あと、中国の評価でなるほど!と納得したのが、孫豹に対するコメント。彼は明鏡堂の中だと一番常識的で良識があって、目立たないけれど、それがあの中で光る個性だと言っていて、なるほどな!と思いました。阿里巴巴は突拍子もない設定のキャラだったり、崔倍は何をしても災難を引き寄せてしまったり、みんな強烈な個性を持っている中、孫豹がいることで、明鏡堂のいいバランスができているんだなと思います。
小酒 私は、陳拾が好きですね。本当にピュアで正直者で、癒やしキャラ。ちょっと訛ったしゃべり方もとってもかわいかったです。彼が猫好きなので、李餅のために猫が喜ぶグッズを集めたり、お世話をする姿もかわいらしかった。李餅が半人半猫だということを唯一知っているキャラクターで、彼がいることで李餅も心穏やかにいられるんですよね。それだけでなく、陳拾は地頭がよくて、どんどん成長していくので、そんな姿もよかった。あと、これはネタバレに関わってきちゃいますが、後半、大きな見せ場があるじゃないですか? 演じるジョウ・チーの芸達者な部分にもぜひ注目してほしいですね。
──熱い友情はもちろんですが、ミステリー部分も本作の注目ポイントです。3年前なぜ李餅は半人半猫の体になったのか、そんな謎が解き明かされていく過程をどうご覧になりましたか?
小酒 いろいろな事件や謎が最後には巨大な陰謀につながっていって、ミステリーとしても期待していた以上のものを見せてくれましたね。コミカルなシーンやほのぼのした場面と、スリルや恐怖を感じる部分とのメリハリがよかったです。お子様でも楽しめるような雰囲気を持ったエンタテインメントだと思います。
沢井 中盤で、一連の事件がすべてつながっているかもしれないというのが、わらべうたで匂わされて、そこからはもう止まらず、一気見でした。
小酒 ドラマのモチーフになっているのは唐の時代なんですが、蕭淑妃が武則天に殺される際に、「猫になって食い殺してやる!」と言い残したという逸話があって、唐を舞台にした物語には妖猫を題材にした物語がけっこうあるんです。時代劇なら人々が妖怪や幽霊といった超自然的なものにおびえて暮らしているという世界観を、無理なく描くことができる。そこから人間が犯人だとわかっていく推理の過程が面白い。
──ミステリー時代劇は中国ドラマの人気ジャンルの1つですが、時代劇×ミステリーの魅力はどんなところにあると思いますか?
小酒 日本でも人気が出てきている中国のミステリー時代劇は、現代のクライムミステリーの要素を取り入れた作品で、犯罪が発生して、遺体が見つかって、物的証拠や検視から犯人を推理していくという、刑事ものと同様のフォーマット。ただ現代のフォーマットをレトロに見せられると、新鮮に感じますし、科学が発達していない古代の限られた知識の中で、鋭い推理をしていく姿はわくわくします。
沢井 アナログ的なトリックのほうが観ている人間にはわかりやすいですよね。もしかしたら画面越しの私たちでも推理できちゃうかもしれないというわくわく感がある。
小酒 中国の時代劇は架空の時代設定にしている場合も多いので、現代ドラマよりもかえって自由に物語を構成できるところも魅力ですよね。そういう部分も、新鮮に楽しめると思います。
──見どころが満載で回を増すごとに面白くなっていく本作ですが、お二人はどんな人にお薦めしたいですか?
沢井 少年マンガ的な熱い展開、ミステリー好きな人にはお薦めしたいですね。あとはやっぱりブロマンス好き、イケメン好きの方にもお薦めです。明鏡堂のみんなは、最初はポンコツですけど、だんだん凛々しく、かっこよくなっていく。若手キャストの中から、気になる俳優さんを探すのが好きな人も楽しめると思います。最初のポンコツぶりで投げ出さないでほしいです!(笑)
小酒 本格的な推理も楽しめるのでミステリー好きにはお薦めですし、唐の時代がモデルなので歴史好きにもお薦めしたいです。「君子盟」や「唐朝詭事録<とうちょうきじろく>-The Mystery of Kingdom」のように、唐の時代を舞台にしたミステリーやサスペンスも多いですから、そういった作品が好きな人には「ぜひこの作品もどうぞ!」と言いたいですね。あとは、半人半猫という設定で猫に変身するシーンはあるんですが、ファンタジー要素が強いわけではないので、ファンタジーが苦手だという人でも楽しめる作品だと思います。ネタバレになってしまうので、言えないことがいっぱいあるんですが、ストーリーも魅力的ですし、驚きのミステリー展開もあります!