映画「
昨日7月4日、性的な接触のあるシーンを含む本作が、出演者から要望のあったインティマシーコーディネーターを起用せずに撮影された、という内容のインタビュー記事が掲載され議論を呼んでいた。これを受け、イベントの冒頭には本作の企画・プロデュースを担った稲垣竜一郎が登壇。製作委員会のコメントとして「インティマシーシーンの撮影時は、絵コンテによる事前説明を行い、撮影カメラマンは女性が務め、男性スタッフが退出するなど、細心の注意を払い、不安があれば女性プロデューサーや女性スタッフが本音を伺いますとお話をしていたので、配慮ができていると判断をしておりました。しかしながら(中略)これまでの私どもの認識が誤っていたことをここに申し上げるとともに、製作陣一同、配慮が十分ではなかったことに対し、深く反省をしております」と報告した。
その後舞台に登場した三木は「関係者・スタッフ・キャスト、彼らに大きな苦しみを与えてしまったことをこの場で謝罪したいと思います。本当に申し訳ありませんでした。このような状況でもお集まりいただいた皆さんには感謝しかございません」と挨拶する。奈緒は「上映後ということで、皆さんお気持ちは大丈夫でしょうか? 登壇してるみんなも、三木さんも大丈夫?」と気遣いつつ、「私は、大丈夫です。それだけは絶対伝えようと思っていました。今日は自分の伝えたいことを、自分の言葉で届けようと思ってここに来ました。いろいろな葛藤がある中、この作品を見届けてくださってありがとうございます」と力強く口にした。
公開を迎えた心境を問われた奈緒は「複雑な思いが、正直あります。でも、鳥飼先生ともお話しして感じたのは、この作品が1つの映画としてとても力強い作品になっているということ。現場で乗り越えてきた大変なシーンがこうして形になったんだと、自分が思っている以上にうれしかったです」と話す。猪狩は「撮影前に奈緒さんと2人でお話しする機会があって、『演技がわからないことも多くて……』と伝えたんです。そのときに奈緒さんが『この作品を撮り終わったときに、猪狩くんがまた演技やりたいって思ってくれたら、私の中ではそれが一番だよ』って言ってくれて。ちゃんと言えてなかったんですけど、また演技やりたいです」と明かすと、奈緒は「ありがとう」と感極まっていた。
三吉は「みんながこの作品に向き合ってきたということ、スクリーンに映し出されたものがすべてだと思うので、それを皆さんにお届けできるということがうれしい。役ではあるけれど、奈緒ちゃんがリアルにお芝居をする姿を横で見て私は勇気をもらいましたし、座長でよかったなとずっと感じていました」と奈緒をたたえる。風間は「誠実で、役者として人間として正しくありたいと願った奈緒さんのもとに集ったみんなが、必死にその信念を共有して作り上げることができた作品だと考えております。ただ、多くの方に観ていただきたいと思っているのと同時に、タイミングがある作品だとも思います。今じゃないかもしれないと思う方は、その気持ちに従っていただきたい。いつか受け取ったときに、誰かの希望になったり明日を変える作品になったら幸せです」と丁寧に言葉を紡いだ。
イベント中盤には、鳥飼からのコメントが読み上げられた。彼女は「この物語が表現しようとしているすべてに個人的な恐怖心や圧力を感じることはないかどうか(中略)マンガで線と文字で表現する以上の壮絶さが伴うはずだったことに、私は原作者としてノータッチの姿勢を貫いてしまった。原作者として丸投げしてしまったこの責任を強く感じるに至り反省した」とつづり、奈緒について「彼女はこの騒動で、誰よりも先駆けて私に謝罪をされました」「心遣いに感心したと同時に、謝罪なんて必要ないのに、と心から申し訳なく思いました。何より、映画の中の主人公としての演技が素晴らしかったのです。現実でも虚構でも、彼女は誠実そのものでした。感謝していますし、彼女が望むならたくさんの人にその素晴らしさを観てもらい、わかっていただければ、私自身反省もしたうえでこれ以上のことはありません」と述べた。コメントの全文は以下に記載している。
鳥飼の言葉を受け、猪狩は「先週、改めて原作を全巻読み直したんですが、読めば読むほど違う感じ方ができ、責任が伴う作品だとも強く感じました。エンタテインメントっていうのは、ゆとりある人に対して、楽しさなどプラスαを提供する意味合いが強いと思いますが、もう一つの顔として、普通に生きていたら目を向けないことに切り込んでいけるというのもある」と口にする。続けて「関係ない人には一生関係ないままで終わってしまうテーマだし、目を逸らしたくなってしまうかもしれないけど、それをエンタテインメントという土台に乗せて本来触れなかった人のもとに届けられる、この職業に就けて本当によかったと思う。娯楽として消費するということではなく、誰かに届けるという熱い思いを持ってこの作品に挑めたことを本当にうれしく思います」と語った。
また、奈緒は「原作に心から惚れ込み、出演することを自分で決めました。自分の中では話し合いをしたと思っていたうえで、現場に対して不十分だと思う部分も正直ありました」と明かし、「でも、権力に屈するようなことは一切なく、対等な関係で監督にも言いたいことを伝えられる現場ではありましたので、そこは大丈夫ですとお伝えしたいです」と話す。三木は「初めてこの4人がそろって本読みをしたあとに、4人だけで話がしたいと言われました。作品について考える彼らを見て、この映画に懸ける思いを感じました。今回のことを教訓にして、映画人として精進してまいりたいと思います」と決意を新たにした。
最後に、奈緒は「どんなにきれいな川にも澱みは起きます。そこばかりを見てしまうと、どうしても全体のきれいな部分に気付けなくなってしまうことがあると、この作品で学びました。もし自分の誠意を脅かす人が現れたら、自分の気持ちを守ってください。そして、誰かが悲しんでいたら手を差し伸べられるような澱みのない川を、私はあきらめずに目指したいと思っています」と優しく呼びかけ、イベントの幕を引いた。
「先生の白い嘘」は全国で公開中。
※「先生の白い嘘」はR15+指定作品
「先生の白い嘘」製作委員会によるコメント
昨日、本作では、出演者から要望のあったインティマシーコーディネーターを入れずに撮影をしたという内容のインタビュー記事が掲載されました。本作の製作にあたり、出演者側からインティマシーコーディネーター起用の要望を受け、製作チームで検討いたしましたが、撮影当時は日本での事例も少なく、出演者事務所や監督と話し合い、第三者を介さず直接コミュニケーションを取って撮影するという選択をいたしました。インティマシーシーンの撮影時は、絵コンテによる事前説明を行い、撮影カメラマンは女性が務め、男性スタッフが退出するなど、細心の注意を払い、不安があれば女性プロデューサーや女性スタッフが本音を伺いますとお話をしていたので、配慮ができていると判断をしておりました。しかしながら、この度、様々なご意見、ご批判を頂いたことを受け、これまでの私どもの認識が誤っていたことをここにご報告を申し上げるとともに、製作陣一同、配慮が十分ではなかったことに対し、深く反省をしております。本作を楽しみにお待ちいただいているお客様、原作の鳥飼茜先生、出演者、スタッフの皆様に不快な思いをさせてしまったことを心よりお詫び申し上げます。
2024年7月5日 「先生の白い嘘」製作委員会
鳥飼茜 コメント
「漫画が映像化するということは基本的には光栄なことだ。それでも、自分は自分の描いた作品に無責任すぎたのかもしれないと思う。作品は作品で、描いた人、撮った人、演じた人、個人とは無関係に評価されるべきか。そういう性質のものもあると思う。ただ、自分はこの漫画を描くとき確かに憤っていたのだ。ひとりの人間として、ひとりの友人として、隣人として、何かできることはないかと強い感情を持って描いたのだ。それはある意味特別で、貴重な動機づけだった。いまあんな情動は持てない。
性被害に対し、何を言えるのか、私たちはどんな立場なのか。どんな状況でもそれを明らかにできる場合にしか、明け渡してはいけない作品だったと思う。「こんな原作がなんぼのもんじゃ」と言われるかもしれないが、「なんぼのもんじゃ」と私だけは言ってはいけなかったと思う。自分だけは自分のかつての若い(なま物の)憤りを守り通さねばならなかった。
撮影に際して、参加する役者さんからスタッフに至るまで、この物語が表現しようとしているすべてに個人的な恐怖心や圧力を感じることはないかどうか、性的なシーンや暴力的なシーンが続く中で、彼ら全員が抑圧される箇所がないかどうか、マンガで線と文字で表現する以上の壮絶さが伴うはずだったことに、私は原作者としてノータッチの姿勢を貫いてしまった。原作者として丸投げしてしまったこの責任を強く感じるに至り反省した。あと出しで大変恐縮ではあったが、センシティブなシーンの撮影についてのこと細かな説明を求め、応じてもらった。説明を聞き、一応のところ安心はしたものの、やはりあらゆる意味で遅すぎたし、甘かったと思う。わかりようがないとはいえ、もっともっと強く懸念して念入りに共通確認を取りながら、繊細に進めなくてはならない、そういう原作だった。」
これは、昨年私が記した所信です。文章の公開はしませんでしたが、去年の時点での私の考えでした。今公開を迎えるにあたり、このたびの発言がよくない意味で注目されていることを私はなんとも心苦しく思っている。なぜなら、何かこの作品で誰かが嫌な気持ちを起こすようなことがあれば私にもその責任があるとすでにこのように去年の私は記していたからです。こういう場合、皆一様に「言葉に気を付けなければならなかった。コメントに配慮が足りなかった。対応が配慮に欠けていた」と反省されます。ただ、私が感じる問題はそうではない。問題は、最初から信念を強く持ち合わせていなかったことではないでしょうか。私も、出版社も含め、制作したものたちがあらゆる忖度に負けない信念を首尾一貫して強く持たなかったことを反省すべきなんじゃないか。このことを私は今、私自身に痛感しています。冒頭で言ったように、最大限の配慮や、共通理解を徹底して作るべき作品であること、それを、映画製作側へ働きかけることを私が途中であきらめてしまったことを猛省したのは、主演の奈緒さんの態度に心を打たれたからです。個人的な感想ですが、この映画製作において、一番強かったのは奈緒さんです。彼女はこの騒動で、誰よりも先駆けて私に謝罪をされました。現場で一番厳しい場面と素晴らしいまでに誠実に対峙した奈緒さんがです。心遣いに感心したと同時に、謝罪なんて必要ないのに、と心から申し訳なく思いました。何より、映画の中の主人公としての演技が素晴らしかったのです。現実でも虚構でも、彼女は誠実そのものでした。感謝していますし、彼女が望むならたくさんの人にその素晴らしさを観てもらい、わかっていただければ、私自身反省もしたうえで、これ以上のことはありません。
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映画「先生の白い嘘」の公開初日舞台挨拶が7月5日に東京・丸の内ピカデリーで行われた。
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