「スパイの妻」の第77回ヴェネツィア国際映画祭の記者会見が本日9月9日に行われ、中継を行った東京・スペースFS汐留にキャストの
太平洋戦争前夜の兵庫・神戸を舞台に、連合国のスパイと疑われる貿易商とその妻の姿を描く本作。蒼井が周囲から“スパイの妻”とののしられる聡子、高橋が満州で恐ろしい国家機密を知ってしまう優作を演じた。
現地と中継をつないで進行した本イベント。なぜスパイという題材を選んだのか聞かれた黒沢は「以前から自分にとって『社会と個人がどのように共存、対立するのか』が興味深いテーマの1つでした」と答える。さらに「社会と個人がわりとくっきり対立しているように描くことができる、1940年代前半の戦時下にあった日本における個人をいつかテーマにしたいと思っていました」「スパイと聞いた瞬間にジャンル的な映画の魅力が発揮できるんじゃないかと思ったんです。映画にとって、スパイは魅惑的な言葉の1つなので」と続けた。
黒沢へ、アカデミー賞作品賞ノミネートにおける新ルールが制定されたことについて質問も飛んだ。「そのルールは知りませんでした」と答えた黒沢は「(新ルールは)非常にまっとうで、正しいことだろうと思います」と話しながら、「日本という国はそこそこ豊かなようですが、映画業界はまったくお金がない。非常に予算が少ないところでスタッフや俳優は、精神と肉体を最大限にすり減らしながら仕事をしています。日本映画界でその正しさを追求することがどこまでできるのか……。いつの日か実現はしていきたい」と丁寧に言葉を紡いでいった。
ヴェネツィアとの中継後は、日本のマスコミ向け会見がスタート。「岸辺の旅」以来に黒沢組へ参加した蒼井は「黒沢組に長く滞在するということが自分の中で目標でした。今回はそれを経験できたのがとても大きかったです。相手が一生さんで、反省するところがたくさんたくさんあって……。もう少しこういうふうになりたいと、お芝居を始めたときと同じくらい感じた時間でした」と振り返る。黒沢組初参加の高橋は「充実していました。撮影を始めて1日2日くらいのときに長い一連のシーンを撮ったんですが、そこで荒療治と言うか、黒沢さんのスタイルを感じられた」と回想。「この2日間で、『ここは映画的な時間を過ごせる現場だ』と俳優部としてうれしく思いましたね」と笑みをこぼした。
会見には「観終わって優作という人物がわからなくなった」と質問が上がった場面も。高橋は「こと細かに注釈は入れたくないです。優作は多くを語らないですが、そのまま観ていただいてどういうふうに捉えられるか……。僕は、優作はすごく志が高かった男だったと思っています」と説明した。また聡子を演じた感想を蒼井は「映画の中で穏やかに生きられていたのは最初の数分だけ」と述べ、「急に動物的に自分の感覚に突き動かされていって、正直やり終わって完成した映画を観て、やっと聡子がわかりました」と明かす。
蒼井、高橋がそれぞれ世界へ誇れる魅力を「声」と述懐した黒沢。「声が素晴らしい人は後ろを向いていても、遠くにいても、画面に映ってなくてもその人の存在感が強烈に伝わってくる。世界のどんな人が観てもこういう声の持ち主はどんな人なんだろうと興味が湧くような、強烈な魅力を持っている2人です」と称賛した。ヴェネツィアへ渡航できなかったことを残念がりながらも、高橋は「僕には“今”しかないので、例えリモートであったとしてもこの瞬間に参加させていただけたことはとても光栄です。今は今で、汐留からヴェネツィアへという状況を非常に楽しみました」とほほえんだ。
「スパイの妻」は10月16日より東京・新宿ピカデリーほか全国で公開。第77回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門、第68回サンセバスチャン国際映画祭パールズ部門に出品されている。
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