トロフィーを受け取った是枝は「名誉賞をいただくことが増えてきて、そろそろキャリアの仕上げに入っていると思われるのではないかという不安がよぎっています(笑)。ただ今回ご一緒したカトリーヌ・ドヌーヴさんに比べたら、まだまだ駆け出しの若造で。これからの僕の映画人としてのキャリアは、これまでの25年間よりもさらに長くなるだろうと、長くしたいなと思っております」とコメント。また「このトロフィーは、尊敬するアジアの映画人から渡されたリレーのバトンだと思ってしっかり受け止めて、次の世代のアジアの作り手たちに渡したいと思います。いろんな対立や隔たりを超えて、映画と映画をつないでいく役割を担っていければいいなと今日改めて思いました」と胸中を述べると、会場からは盛大な拍手が巻き起こった。
840席のチケットが即完売し、20代から30代の観客が多く集まったこの日の上映。Q&Aでセリフ回しについて尋ねられると、是枝は女性キャストたちの声を思い浮かべながら、そのアンサンブルをどのように捉えていくのかを意識したと回答した。「例えばドヌーヴさんというのはとてもセリフを言うのが速いので、それをなるべく生かそうと。ビノシュさんは沈黙した瞬間に一番感情が出る女優さんなので、彼女が黙って見ているところですごく感情が伝わる」と例を挙げ、「セリフの意味がわからないから、余計に音楽的なことを頼りにしながら作っていきました」と振り返る。
続いて「本作では、互いにすれ違っている欧米的な家族の絆が再構築される様子が描かれていました。今までとはまた違うターニングポイントとなっているのかなと思いましたが、次の新作はどのような方向性でお考えですか?」という質問が。是枝は、前作と比べながら作ってはいないことを前置きしつつ、「確かに今回は演じるという行為を2人の間に挟んで、あの母と娘の関係を修復していく、お互いが自分主義というのをリライトしていく可能性を描いてみたいなと思った感じはあります」と同意する。そして「この先どんな人間ドラマを撮るか今は白紙ですし、この5年間で毎年映画を撮っていたので、さすがに飛行機に乗ってもアイデアが出てこず(笑)。しばらくお休みをしようかなと思っています」と述べた。
また俳優たちの自然な演技を引き出す秘訣を聞かれると「魔法は使ってないです(笑)。アドリブはほとんどないんです」と答えた是枝。「ただ現場でよく観察をしています。例えばドヌーヴさんが『お疲れさま』ってみんなにハグをして帰るんですけど、いいお芝居ができて帰るときはキスの位置が唇近くに移るんです。それがすごく面白いなと思って」と続け、撮影現場でのドヌーヴの振る舞いを脚本に取り入れたことを明かした。
同日に行われた公式会見にも出席した是枝は、海外で撮影する際に注意した点として「エッフェル塔や凱旋門を入れないようにしようと。日常的な風景の中で物語を描こうと考えたのがまず最初でした」と説明。さらに、家の描写が難しかった一方で面白かったと述懐すると「選んだあの家がとっても広くてですね。日本で撮ると部屋と部屋の間を何歩くらいで歩けるかって感覚的にわかるんですけど、移動距離が全然違うんですよね。脚本の完成の前に、あの家に2晩泊まって台本を手に歩きながらセリフを言ってみたんですけど、全然セリフが足りなかったです」と話した。
「真実」は10月11日より東京・TOHOシネマズ 日比谷ほか全国でロードショー。
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