8つの章で構成された同書は、押井のフェティッシュを刺激した忘れられない映画を紹介するもの。押井は自作でおなじみのバセットハウンドのほか、猫やファッション、ごはん、モンスター、武器、女優、男優などさまざまな視点から映画を語り尽くしている。
まずマスコミ向けの会見に出席した押井。記者から「自作でもっともフェティッシュを詰め込んだ映画は?」と質問が飛ぶと「はっきり言って自分の作品はフェティッシュの塊」と断言する。「極端に言えば女の子を描くにも絶対好みのタイプになっちゃうんです。アニメーション、特にキャラクターに関しては理想を形にするもの」と語り出す。しかし絵を自ら描かない押井は「自分が描かせたい顔とアニメーターが描きたい顔は必ずしも一致しない。だからけっこう揉める(笑)。中でも草薙素子は『こんな筋骨隆々な女は描きたくない』と言われた記憶があります。筋肉が収縮する動きまで描いてくれって頼みましたね。あれがフェティッシュと言われればその通り」と「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」の制作を振り返った。
また「未来のミライ」が公開中の細田守のフェティッシュに関する話題も。押井は「人間であって人間でないもの。モンスターとはちょっと違う。微妙なところですね。彼は人に近いけどギリギリ人間じゃないものを愛してる」とケモノ要素を含むキャラクターを登場させる細田の嗜好を分析する。さらに「僕の場合は骨格ですね。首の太さとか手首、足首、鎖骨とか。このあたりが浮いて見えるのが好きです」と自身の嗜好を明かした。実写作品も手がける押井は「THE NEXT GENERATION パトレイバー」に出演した太田莉菜に関しても「あんなにAKの似合う女優はいないですよ」と回想し、「フェティッシュが連鎖していくことで映画に色が付くんです。その点、実写はアニメよりやりやすい」とコメント。そんな押井のフェティッシュが詰め込まれた同書について「人が同じ映画を繰り返し観るのはなぜなんだ?と考えてできあがったのがこの本です。自分のフェチを語るなら誰も文句を言わないだろうと思って(笑)。映画の本質は半分がフェチですよ。じゃなきゃ繰り返し同じ映画を観ないと思う」と持論を語った。
その後のトークショーには押井と「シネマの神は細部に宿る」で聞き手・構成・文を担当した映画ライターの渡辺麻紀が出席。同書では20年以上親交のある2人が、インタビュー形式でざっくばらんに映画を語っているが、渡辺は押井の映画に関する記憶違いが多いことを愚痴る。「刑事キャレラ 10+1の追撃」については「押井さんが『ドミニク・サンダが銃を持つシーンがカッコよくてさ!』と言うんですけど、ないんですよ、そんなシーン」と明かし笑いを誘う。押井は笑いながら記憶違いの言い訳をしつつ、「これは冗談じゃないんだけど」と映画に関する持論を展開していく。「映画は記憶の中に成立するもの。今だったらすぐ観返せるんだろうけど、昔は映画を語るって記憶を語ることだった。いっぱい覚えている人間か、もしくは自信満々に語る人が勝ちだった」と述懐する。「強烈なのは宮(崎駿)さん。あの人の言う『あの映画のあのシーンがよかった』というのは、観返してみてもないんですよ。それ妄想じゃない?って(笑)。でも言ってみれば映画は人間の頭の中に妄想として宿るもの。事実とは違う。捏造も錯覚も記憶違いもある。その人にとってそれが映画の実体なんですよ」と語った。
トークショーでは、押井が今春に8日間で撮影したという、現在制作中の新作に関する話題も飛び出した。「初めて孫を抱いた瞬間、強烈に身体性を感じたんです、ビクビクっと。でも今まで観た映画でそのような身体性を意識させてくれたものはない」とし、映画で身体性を表現できるのかと疑問を感じていたという。「舞踏家の姉(最上和子)に言われたんです。『身体は表現するものではなく、実現するものだ』と。それで映画監督の身体性って何か考えた」と述べ、新作では映画監督の身体性の実践として映画作りを行っているという。詳細は明かされなかったが、女子高生が登場するとのことで「コンテを切らない、台本を一切書かない、芝居を付けない。とりあえず彼女とタメ口をきけるまでとことん付き合って。可能な限り映画の側から近付いてくることを待つんです。現場で勝手にやってみろと。サイバーパンクでもアクションでもない。自分が今までやったことのない映画です。うまくいってるかはわからない。とりあえず実践してみようと思った」と制作の一端を明かした。
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