音楽ナタリー Power Push - 映画「バクマン。」特集

山口一郎(サカナクション)×大根仁 音楽と映画で描く「バクマン。」のリアル

大場つぐみ原作、小畑健作画によるコミックを実写化した「バクマン。」は、2人の高校生がマンガを共作し、「週刊少年ジャンプ」での連載を目指して突っ走る文化系青春映画。大根仁が監督を務め、佐藤健と神木隆之介が主人公の最高と秋人を抜群のコンビネーションで演じている。

ナタリーでは、キャストや原作マンガ、音楽などさまざまな角度から「バクマン。」の魅力を紐解く特集を展開中。第3弾は、劇伴および主題歌「新宝島」を手がけたサカナクションの山口一郎(Vo, G)と、大根の対談を通して映画「バクマン。」の世界に迫る。

取材・文 / 中野明子 撮影 / 上山陽介
ヘアメイク / 根本亜沙美(山口一郎)
スタイリスト / 三田真一[KiKi inc.] (山口一郎)

サカナクションのお客さんを映画に呼び込もう(大根)

──大根監督は、どういった経緯で「バクマン。」の劇伴と主題歌をサカナクションに依頼したんでしょうか?

左から大根仁、山口一郎(サカナクション)。

大根 自分が作るドラマや映画は音楽ありきなんで、いつも企画が決まった段階で音楽を誰に頼むかキャストや脚本を書き始める前に決めちゃうんですよね。プロの作曲家が作る“いわゆる劇伴曲”というのが自分の作品には合わないなと思ってもいて。トラックメーカーとかアーティストに作ってもらったほうがしっくりくるんですよね。だから劇伴が作れそうなアーティストを自分の中で何人かブックマークしていて、その中にサカナクションがいたんです。で、「バクマン。」の企画が立ち上がった段階で、サカナクションがいいなと。売れてるし、人気にあやかりたいっていう魂胆もあり(笑)。サカナクションのお客さんを映画に呼び込もうと。

──劇伴をサカナクションに依頼することを決めたのはいつ頃だったんですか?

山口 2013年くらいにお話を伺った気がしますね。

大根 そうだ。2012年の「TAICOCLUB」でサカナクションのライブを観て、ヤバイ!と思って。それで音楽をお願いすることにしたんだ。「TAICOCLUB」でライブを観るまで、ちょっとナメてたんですよ(笑)。若手の活きのいいバンドってだけだろうと。でもね、初めてライブを観たときにすごいびっくりしたんです。俺はミュージシャンはライブでこそ真価が出ると思ってて、しかもフェスみたいなところだとアウェーとまでいかなくても、コアなファンだけがいる場じゃない。「TAICOCLUB」に来るような人たちにとってみれば「サカナクションなんぼのもんじゃい」みたいな感じだったと思うんですけど、それがライブが始まった瞬間に会場中がザワザワしだして、最終的にうしろのほうまですごい盛り上がってた。

山口 あのときは、ラップトップを並べてパフォーマンスしてたんですよね。

大根 そうだそうだ。そのお客さんを巻き込んでいく感じがすごくて、「バクマン。」の音楽を頼んだら面白いことになりそうだなと。

──山口さんは映画の劇伴を依頼されたときどう感じました?

山口 やっと来た!って感じでした。僕は大根さんの存在を一方的に知ってたし、周りから監督の評判や人格について聞いてたから“同じ種族”だと思ってたんです。大根さんって、ゆらゆら帝国の野音のライブを撮ってて(ライブDVD「YURA YURA TEIKOKU LIVE 2005-2009」収録)、僕、その映像が大好きで何百回も観てるんですね。毎年年末に友達と集まってその映像を観る会なんかもやってたりして。だから話をもらったときは、プレッシャーや緊張よりも、「これで憧れの監督とつながれる」っていう喜びがありました。

大根仁

大根 映画とかドラマじゃなくて、ゆら帝のライブ映像が好きだって言われることはそんなにないから。でもね、自分で言うのもなんなんですけど、あれは確かにすごいよくできてるんですよ。あの日のバンドのテンションがすごかったから、それに引きずられるように自分でもいい作品が作れたなと。山口くんにはそれを褒めてもらえたんで、「あ、こいつわかってる」って。

山口 あの映像を作った監督と一緒に仕事したいなってずっと思ってて。それが映画の劇伴だけじゃなく、主題歌も依頼されて……こんなに大きい話がいきなり来るとは思ってなかったですけど(笑)。

プロデューサーがいたらこういう感じ(山口)

──大根さんからはどんなオーダーがあったんですか?

山口一郎(サカナクション)

山口 台本を渡されたあとで「デモをいくつかちょうだい」って言われて。台本を読んだ上で、監督に10曲ぐらいデモ音源を渡したんですね。そしたら次に会ったときに、すでに映像にデモ音源が乗っかってたんですよ。そこから監督と「もっとこのシーンの音楽はこうしたい」「ここは違う曲にしたい」とかディスカッションが始まって。「ここはリズムいらない」「音色をこういうふうに変えてほしい」とかいろいろ細かく指示が来て。僕ら今までセルフプロデュースでやってきたので、すごく新鮮だったんですよね。一緒に作ってるって感覚もあったし、プロデューサーがいたらこういう感じなんだろうなって思って。

大根 サカナクションのみんなは、曲をちゃんと成立させようという意識があったと思うんだけど、それによって音数が増えちゃったりすることもあって。劇伴ってセリフを立てる必要があるから、音楽が前に出すぎてたところなんかは抑えてくれっていうやり取りをしてたなあ。

山口 そうでしたね。

大根 編集した映像にあわせて音楽を作っていくのが普通の劇伴の作り方なんですけど、僕は編集するときに音がないと落ち着かないんですよ。音楽に寄せて編集していくスタイルだし。

映画「バクマン。」のワンシーン。

山口 映像を観ながらディスカッションして音楽を作っていったから、映画自体は編集段階で何回も観たんですよ。神木くんと健くんの間合いとか、セリフの言い回しとか、動きまで完コピできるレベルですよ。

大根 あはははは(笑)。まあ、ここまで細かく音楽に口を出す監督はいないから(笑)。でもね、サカナクションのメンバーは全員トラック作れるっていうのが強かったと思います。おかげですごいバラエティに富んだ劇伴になった。

──確かに。特にCGを使ったシーンでの、攻撃的なサウンドが印象的でした。

山口 バトルさながらのマンガの作画シーンで流れてる曲ですね。

大根 あれは最初のデモから近い形の曲はあったね。デモでは和太鼓とか琴とか……あとマッコリだっけ? そういう珍しい楽器も使ってて。

山口 ムックリ(アイヌ民族口琴)ですね(笑)。せっかくの劇伴だしいろいろ試そうと。僕ら北海道出身だし、アイヌ楽器入れてみようぜっていろんなアイデアを取り入れたりして。結局そこは大根さんにカットされちゃったんですが(笑)。

Contents Index

「バクマン。」特集 TOP
大根仁×佐藤健×神木隆之介
小畑健×大根仁
番外編 佐藤健×神木隆之介
山口一郎(サカナクション)×大根仁
新井浩文、ジャンプ編集部へ

About the Movie

「バクマン。」

「バクマン。」2015年10月3日より全国東宝系にて公開

スタッフ

監督・脚本:大根仁
原作:大場つぐみ、小畑健
主題歌:サカナクション「新宝島」

キャスト

真城最高:佐藤健
高木秋人:神木隆之介
新妻エイジ:染谷将太
亜豆美保:小松菜奈
福田真太:桐谷健太
平丸一也:新井浩文
中井巧朗:皆川猿時
服部哲:山田孝之
川口たろう:宮藤官九郎
佐々木編集長:リリー・フランキー

Information

Profile

サカナクション
サカナクション

山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年に札幌で活動開始。2013年3月に発表した6枚目のアルバム「sakanaction」が、バンド史上初のオリコンCDアルバム週間ランキング1位を記録。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に出場を果たした。2015年8月にはこれまでに発表したシングルのカップリング曲や、さまざまなアーティストによるリミックス音源をまとめた作品「懐かしい月は新しい月~Coupling & Remix works~」をリリース。10月より1年半ぶりとなる全国ツアー「SAKANAQUARIUM2015-2016」を開催する。映画「バクマン。」では主題歌「新宝島」を書き下ろしたほか、初の劇伴にも挑戦。

大根仁(オオネヒトシ)

1968年12月28日、東京都生まれ。「劇団演技者。」「アキハバラ@DEEP」「湯けむりスナイパー」などの深夜ドラマを数多く手がける。2011年には自身が演出を務めたドラマ「モテキ」の劇場版で映画監督デビューを果たし、第35回日本アカデミー賞で話題賞(作品部門)に輝く。近作は「恋の渦」、ドラマ「まほろ駅前番外地」「リバースエッジ大川端探偵社」ほか。電気グルーヴの活動を追ったドキュメンタリー映画「DENKI GROOVE THE MOVIE? ~石野卓球とピエール瀧~」が12月26日より公開。

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2015年10月9日更新