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日本の映画興行は10年間でどう変化した?洋画離れやアニメ映画・ODSの隆盛などから紐解く

年間興収3000億円を目指すために

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動画配信サービスと共存していくために

──先ほどから何度も話題に挙げられていますが、この10年で爆発的に普及したNetflix、Prime Videoなど動画配信サービス(SVOD)の影響を改めてお話しいただけますか。

動画配信サービスの市場規模は、いまや映画興行の2倍以上にまで成長していますが、映画館での鑑賞者の減少の理由を動画配信サービス市場の成長に求めるのは短絡的だと思っています。鑑賞環境が違うだけで、映画館も配信サービスも“作品を楽しむ場所”という点においては同じです。一部では、映画館に通うことを止め、配信サービスのみで作品を鑑賞するようになった人もいるかもしれません。一方で、配信サービスで認知した作品の劇場版を映画館で観る、という逆の動線も間違いなく存在します。今現在は、映画興行と動画配信サービスはうまく共存できているのではないでしょうか。

ただ、動画配信サービスの登場により、映画館での鑑賞がより「イベント化」している傾向は否定できません。作品によっては、「映画館で観るべき」か「配信サービスで観ればよい」かの線引きが行われているというのが実情でしょう。まずはその境界線がどこにあり、どんな理由で選択が行われているのかを知ることが重要です。

グラフ「鑑賞頻度ユーザー構成の推移(2014年~2024年)」。映画館での未鑑賞層はこの10年で6%ほど上昇している

グラフ「鑑賞頻度ユーザー構成の推移(2014年~2024年)」。映画館での未鑑賞層はこの10年で6%ほど上昇している [拡大]

いま、IMAXやDolby Cinemaのようなラージフォーマットが大人気ですが、「それこそが映画館の価値です」という発信の仕方は諸刃の剣で、裏を返せば「それに見合う作品を観るときだけ映画館に行けばいい」という風潮を生んでしまう危険もあります。すでに多くの業界人が声に出していますが、設備投資でスクリーン環境を増強するだけではなく、旧来の映画館の魅力も大事にしていかないと、コア層・ミドル層は戻ってこないと思っています。例えばミニシアターには「この劇場で上映されるということは、きっと素晴らしい映画なんだ」と思えるほどの“顔”がありますよね。SNS時代ではそうした意識を持つ運営も効果的だと思います。

──劇場の持つ価値の1つに「入場者プレゼントの配布」もあるかと思います。

過去に、週替わりの入場特典を配布する作品のデータ分析をしたことがあります。SNS上での入場特典の告知に対して、どのくらい反応があるかを調べましたが、その効果は明らかでした。通常、SNSの拡散量は作品公開とともにピークを迎えて下り坂を形成していくのですが、入場特典告知のおかげで、公開後にもたびたび拡散量の上昇スパイクが起き、作品の認知拡大に一役買っていました。

入場特典がこれだけ話題化する背景には、日本の“推し活文化”の後押しがあるのだと思います。推し活市場は映画市場の10倍以上にも上る3兆円と言われていますから、ファンが喜ぶ特典を配布して作品を応援してもらうというやり方は理にかなっていますよね。原画集やポスター、はたまた原作の0巻など年々価値の高いものが作られているように思いますが、一方で常にファン心理を理解したものを提供していかないと逆効果にもなりかねません。ただの配布物ではないということを留意しないといけませんね。

SNSで火をつける“興行側の宣伝”

我々ガイエはデジタルの宣伝を主にやっているので、“SNSでどう火をつけるか”を常に考えています。先ほどテレビの影響力が落ちてSNSが台頭しているとお話ししましたが、デジタルは現時点ではまだまだテレビの持つ強さの“代わり”にはなりません。例えば広告における1人あたりのリーチ単価においても、テレビのほうが圧倒的に安価で、大多数の人に一気に情報を届けられます。一方、デジタルはSNSを活用した双方向のコミュニケーションや、趣味・嗜好などのデータをもとにした細かいターゲティングなど、テレビではできない宣伝が可能です。どちらか一方の宣伝だけでうまくいくケースは稀で、いかに両者をうまく組み合わせるかが重要です。最近では、「教皇選挙」がテレビでの露出に加え、周到なSNS宣伝でヒットに結び付きましたよね。これは宣伝展開として理想的だったのではないかと思います。

──今後、SNSの宣伝において必要なことは?

情報がめまぐるしく消費されていく今、例えば作品の魅力を数秒の動画で発信していくなどの方法がセオリーになってきていますね。これはいかに短時間でSNSユーザーの興味を引くかというテクニックの問題なのですが、一方で発信者による熱意や創意工夫でユーザーの鑑賞意欲を高めることも可能だと思っています。個人的に注目しているのが静岡の映画館・サールナートホールのXアカウント投稿です。

サールナートホールのX投稿。作品情報を発信するたびに多くの反応が生まれている

同劇場では上映作品の見どころを日常的にポストしているのですが、とにかく作品の魅力を伝える文章それ自体が魅力的なんです。140文字という制限のなかで、作品のあらすじをしっかりと紹介しつつ、どこが面白いポイントなのか、という発信者の主観も取り入れられています。また、特にうまいなと感じるのは、最初に作品名を明かさないこと。「なんの映画だろう?」と興味を引いたあとで作品名を明かすフォーマットは“発明”ですね。実は、静岡シネ・ギャラリーに押しかけて、いわゆる“中の人”にお会いさせていただいたことがあるのですが、ご本人がすごく作品1本1本を愛していらっしゃる様子が伝わってきて、想像通りの方だなと。このような“顔が見える”発信は、SNS時代に必要とされていることではないかなと思います。

日本の映画市場は興収3000億円を狙える

映画館での鑑賞者数の減少など悲観すべき点もありますが、この先、日本の映画市場は興行収入3000億円を狙えると個人的には思っています。2024年は2000億円ほどに下がってしまったものの、今年は2019年を超える水準(2600億円超)に到達するのではと予測されています。ただ、残りの400億円というハードルは、たまたま新作が当たったからといって超えられるものではありません。計算上は、日本の1人あたりの鑑賞回数を現在の1.17本から1.8本まで増やすことができれば、3000億円に到達します。そのためには、今日お話したような様々な課題に取り組んでいく必要があると思っています。

今、映画業界は大きな過渡期にあります。市場のうねりや観客のニーズをしっかり把握しておかないと、成長のきっかけを見落としてしまいます。我々ガイエは引き続き映画市場の動きやトレンドを分析しながら、課題に対する具体的な施策を提案していきたいと思っています。根底にあるのは、自分と同じような映画ファンを1人でも多く増やしたいという思いです。映画は日常を彩ってくれるかけがえのないもの。私自身が享受してきた感動を、もっと多くの人に伝えられたら嬉しく思います。

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