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日本の映画興行は10年間でどう変化した?洋画離れやアニメ映画・ODSの隆盛などから紐解く

年間興収3000億円を目指すために

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洋画に対する興味関心を持続させることが大きなテーマ

──現在では「洋画がヒットしづらい」という話をよく耳にします。

洋画の興収10億円を超える作品数はこの10年でかなり減少し、興収比を見ても2024年にはシェアの約8割が邦画という状況です。特にここ数年は、ハリウッド映画など大作が日本でどのぐらい公開されるか予測しづらくなりました。2025年は「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」「ジュラシック・ワールド/復活の大地」が公開されたので昨年よりは回復する見込みですが、いずれにせよ、洋画市場は「トップガン マーヴェリック」のような超ヒット作品頼みの構造になってしまっています。そんな中、観客の洋画に対する興味がどんどん薄れてきていることは間違いなく、それをどう食い止めるかが大きなテーマになっています。

グラフ「洋画 邦画別:作品数の推移(2013年~2024年)」。2024年は洋画の興収10億円超を記録した作品数が(コロナ禍の2020年~2021年を除けば)過去最低の10本

グラフ「洋画 邦画別:作品数の推移(2013年~2024年)」。2024年は洋画の興収10億円超を記録した作品数が(コロナ禍の2020年~2021年を除けば)過去最低の10本 [拡大]

グラフ「洋画 邦画別:興収構成比推移(2013年~2024年)」。邦画の興収シェアは2024年に8割を突破。コロナ禍を除けば過去最高に

グラフ「洋画 邦画別:興収構成比推移(2013年~2024年)」。邦画の興収シェアは2024年に8割を突破。コロナ禍を除けば過去最高に [拡大]

コロナ前、2000年代最高の興行収入を記録した2019年は、興収100億円を突破した作品が全部で4本ありましたが、そのうち3本が洋画(「トイ・ストーリー4」「アナと雪の女王2」、実写版「アラジン」)でした。2010年代以降、少しずつ邦画優勢の傾向が見え始めていたとはいえ、まだ洋画にも大きな力があった。しかしコロナ禍を境に、洋画不振は一気に加速してしまいます。

日本市場は現在、国産映画が約7割、洋画が3割という構成比になっています。国産映画の人気が高いのは市場にとって素晴らしいことですが、そこに洋画人気も負けずに付いて行くことで、市場全体の成長につながっていきます。例えば、市場規模TOP5に入る北米、中国、インドなどの国では、国産映画のシェアが8割~9割と非常に高くなっています。言い換えれば、いわゆる洋画の集客はほとんど見込めないということ。それに引き換え、日本は国産映画だけでなく、洋画の集客ポテンシャルも高い優良市場です。今は一時的にその人気が下火になっていますが、以前のような活気が戻れば、市場は一気に拡大する可能性があります。

──洋画離れの一因として、観客の鑑賞スタイルが変化していることも大きいのではないでしょうか。

はい、時代に伴う鑑賞スタイルの変化は大きな要因だと思います。最初に思い浮かぶのは、かつてゴールデンタイムの映画番組が担っていた“洋画の魅力を広く伝える”という機能の低下ですね。スマホ時代になって、特に若年層のテレビ離れが叫ばれていますが、その影響は間違いなく映画市場にも表れています。“鑑賞した作品をどこで知ったか?”という認知媒体調査では、“テレビ”と回答した割合が10年前と比べて大きく減少しています。

また、「ザ・コンサルタント2」「Smile スマイル」にように、劇場公開されずに“配信スルー”となる作品も多くなってきました。製作するハリウッド側の事情もありますが、興行的な二極化が進んでいる中で、配給会社は興行収入3000万ドルから5000万ドル規模の中ヒットを目指す作品の製作になかなかGOサインが出せなくなっています。例外としてホラー映画やコメディ映画は低予算でも製作されていますが、「M3GAN/ミーガン 2.0」やリブート版「裸の銃を持つ男」のように、日本市場での苦戦が見込まれる作品は劇場公開を取りやめ、配信やソフト発売の判断が下されてしまいます。その判断基準は以前に増して厳しくなってきていると感じます。

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──最近ですと、2026年から米ワーナー・ブラザースの作品配給が他社に委託されるというニュースもありました。そういったものを目にすると、洋画興行が縮小の一歩をたどっていくばかりだと思わざるを得ないです。

かつて洋画の人気があった時代は、多くの人がハリウッドに“憧れ”を抱いていたのではと思います。海外でお金を掛けて作ったVFXやスペクタクル映像を観ると「日本ではどうがんばっても作れないのでは」と思わされましたし、ハリウッドスターをアイドル視する人も多かった。それはまさに当時、洋画文化が形成してきた意識ですよね。今の時代では国産映画のクオリティも上がりましたし、スターに対して求められる要素として、“憧れ”よりも“親近感”のほうが強くなってきているのだと思います。トム・クルーズやシルヴェスター・スタローンのような遠くの偶像ではなく、国内の俳優やK-POPシンガーなど、より近くに感じられる存在の需要が増しているように感じます。だからこそ、ハリウッドスターにも“親近感”を持たせるPR方法を検討する必要がありそうです。情報源の中心がSNSである10~20代に対し、彼らの言葉で洋画や俳優の魅力を語れるインフルエンサーやクリエイターと連携したプロモーションは、その1つの解かもしれません。

「鬼滅の刃」「名探偵コナン」など市場が国内に留まらないアニメ作品

──映画ナタリーでは毎週動員ランキングを掲載していますが、アニメ作品のランクインが非常に多いと感じています。

アニメが現在の映画興行の牽引役となっているのは間違いありません。2019年までは実写映画が優位でしたが、コロナ禍を経て完全に逆転し、2024年にはアニメの興収比が53.6%を占めました。今、アニメ映画が強い理由の1つは、もはや“世代を選ばない”ことにあるのだと思います。最初は一部ファンの集客から始まった作品が、世代を超えてその数を増やし、特大ヒットシリーズに成長していったという例がいくつかあります。長い年月を掛けて、アニメは若年層から中高年層までが幅広く楽しめる娯楽になりました。アニメが子供向け、若者向けの娯楽だという意識は、もう誰も持っていないでしょう。「名探偵コナン」「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」などが代表的な例ですが、こうした事象は、生身の俳優が演じる実写作品ではなかなか実現が難しいですよね。アニメならではの強みだと思います。

グラフ「実写 アニメ別:作品数の推移(2013年~2024年)」。実写作品の興収10億円超本数が大幅に減少する中、アニメ作品は少しずつ増加傾向

グラフ「実写 アニメ別:作品数の推移(2013年~2024年)」。実写作品の興収10億円超本数が大幅に減少する中、アニメ作品は少しずつ増加傾向 [拡大]

また、特にここ10年でアニメ人気が加熱した要因には、動画配信サービスの成長が深く関わっていると思います。ヒットするアニメにはテレビシリーズの劇場版が多く、過去作品は配信サービスでいつでも観ることができます。まずはテレビで放送し、話題になったら映画化。そして映画が上映される際には以前の放送を配信して間口を広げる。そんな構造が映画作品の認知形成に役立っています。1話30分弱のアニメは、日常生活の中でも摂取しやすいフォーマットですから、より多くの人にリーチが可能なのだと思います。

グラフ「実写 アニメ別:興収構成比推移(2013年~2024年)」。コロナ禍を経て、アニメ作品の興収シェアが実写作品を上回る割合に

グラフ「実写 アニメ別:興収構成比推移(2013年~2024年)」。コロナ禍を経て、アニメ作品の興収シェアが実写作品を上回る割合に [拡大]

──実写作品がアニメ作品に負けず、シェアを獲得していくためにできることは?

いま、アニメ作品が優位に立てているのは、市場が国内に留まらない点も大きいと思います。特に、クランチロールのようなアニメ配信サービスが人気を博している北米では、日本製のアニメ作品がお金を稼げる環境が整っています。その前提がある分、製作費も掛けられるでしょうし、リスクが高い作品にも比較的GOサインが出やすい。現時点では、アニメ作品のほうが有利な条件がそろっていると感じます。一方で、グローバル市場も少しずつ日本の実写作品に門を開き始めているので、作品次第では大ヒットする余地もあると思います。

Netflixでは「イカゲーム」など韓国の実写作品が世界中で大人気ですし、実写作品における国境の壁は以前よりもかなり低くなってきていると思います。映画ではないですが、佐藤健さんが主演を務めるNetflixシリーズ「グラスハート」は全世界ランキング(非英語部門)でトップ10入りするなど、海外でも注目を集めています。また、先述した「国宝」もカンヌ国際映画祭で評価され、北米配給が決まりました。かつては、海外市場を目指すためには海外市場で受けがよさそうな企画を立てなくてはいけなかったかもしれませんが、国境の壁が低くなってきている現在では、ドメスティックな作品でも勝負できる土壌が育ってきているように思います。

ODS作品の増加でガラッと変わった鑑賞スタイル

※ODS作品とは?
“非映画デジタルコンテンツ”とも呼ばれ、演劇や歌舞伎・ミュージカルなどの舞台作品、音楽ライブやフェス、スポーツの公式試合などを映画館で上映するもの。そのほかテレビアニメを再編集した劇場版や、上映時間が短い作品、通常の上映形態と異なる作品が“ODS作品”として上映されることもある。

──近年話題になることが多いODS作品についても振り返っていただけますでしょうか。

この10年でも120本ほど作品数が増え、2024年には全体の約3割を占めるまでになりました。興行収入に占める割合も11.4%に達しています。ODSは期間限定の興行である分、単価も高く設定できますし、ファンダムがメインの観客層であることから集客予測が立てやすい。興行側にとっても低リスクでビジネス展開できる構造になっています。

グラフ「作品ジャンル別公開本数の推移(2013年~2024年)」。2024年はODSの公開本数が過去10年で2番目に多い

グラフ「作品ジャンル別公開本数の推移(2013年~2024年)」。2024年はODSの公開本数が過去10年で2番目に多い [拡大]

グラフ「作品ジャンル別興行収入の推移(2013年~2024年)」。2024年にODS作品の興収割合が全体の11.4%に到達した

グラフ「作品ジャンル別興行収入の推移(2013年~2024年)」。2024年にODS作品の興収割合が全体の11.4%に到達した [拡大]

そもそもODSはアザー・デジタル・スタッフの略で、“アザー”という言葉が入っている。“そのほかの領域”でしかないものでしたが、今では完全に興行を支える1つのジャンルになっていますね。音楽ライブやスポーツ観戦など、現地鑑賞でのチケットが入手困難なエンタメを、近くの映画館で手軽に楽しみたいというニーズがうまくハマった。映画館が持つ“優れた音響と大画面”という本質的な価値が、映画以外のコンテンツでも生かされることの証明にもなりましたね。

映画館は前(スクリーン)に映し出されているものを静かに享受するものですが、ODS作品を楽しむ1つのポイントは横(ともに楽しむ観客たち)です。コロナ禍以降、そこに価値を見出す層が増えたことが文化的隆盛につながったのではと思います。またSNSなどで“つながる”ことを日常的に行う人が増えたのもその一助になっていますね。例えば、掛け声OKの上映では「このコールをこのタイミングで」といった慣習が予めSNSで共有されています。映画館で鑑賞することの価値を上げていく動きはとても大切で、それはサービスを享受する人たちの裾野を広げていくことにもつながっています。

──今後もさらに拡大していくジャンルでしょうか。

現在各社が試行錯誤されている状況かと思いますが、作品を提供したいというコンテンツホルダーも増えていくのではないかと思います。どこかで頭打ちがあるとすれば、やはり既存コンテンツとのバランスでしょう。これ以上増やしすぎると劇映画をかけるスクリーンがなくなってしまうという飽和ライン=既存の映画ファンが離れていってしまう危険水域も注視しなければいけません。

ODS作品として特に今年注目されたのが、2月公開の映画「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」です。劇中で展開されるラップバトルの勝敗が観客のスマホ投票によって決まる日本初の“インタラクティブ映画”として封切られ、25億円を超えるヒットを記録しています。私も体験しに劇場へ向かったのですが、上映中のスマートフォン操作が周囲の迷惑にならないように設計されていました。既存の体験や価値を壊さずに展開していく必要があるため、こうした新しい挑戦には困難が伴いますが、「ヒプマイ」のような挑戦は今後もどんどん奨励されるべきだと思います。

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