映画二人道中 ~名コンビに聞く制作秘話~ 第1回 [バックナンバー]
映画監督・前田弘二と脚本家・高田亮の道中 | 長いおしゃべりから生まれるタッグ作と、2人“だけ”が面白いと思うこと
「婚前特急」「まともじゃないのは君も一緒」など数々のタッグ作を振り返る
2023年9月12日 12:15 13
“てんぷら知っています”に「いいじゃないですか!」(高田)
──2021年公開の「
前田 吹っ切れたんですよね(笑)。一回突き詰めて、数字とかじゃなく「ここだけ!」という作品を作りませんか?と。終始噛み合わない2人だけを見ようと。
高田 この作品の声が掛かったとき、僕はシリアスものも書いていました。ラブコメでデビューしているのに、「人間ドラマの人です」ってかっこつけるのも嫌になってきて。一回初心に戻って、本当にくだらないものを書こうと思いました。それから、何も知らないやつが何も知らないっていうことだけで1本撮ろうという話になって。でも、何も知らないやつってストーリーにならないじゃないですか。だから、常識を知っていく話にしようという流れになり、「白子ってなんですか? この料理なんですか? てんぷらは知っています」みたいな会話が生まれ……。
前田 けっこう電話しましたよね。(脚本の)やり取りこれでいいの?と。
高田 そう。僕はわりと書くのが早いほうだったのに、全然書き上がらなかったんですよ。だから前田くんが「今どういう感じですか?」って電話を掛けてくれて。「書いても、書いても終わらないんだ。今『てんぷら知っています』『おいしい』って書いてる」と言ったら、(前田が)「すごいいいじゃないですか!」って(笑)。僕は完全に、ダメだ、ストーリーにならないと思っていたのに、前田くんに「これで1本できますよ!」と励まされ、最後まで行った感じですね。ちょいちょい電話をくれました。でも、「企画としては通らないかもしれないよね」と話をしてて。前田くんが、「面白いから自力でも撮りますよ」って言ってくれたので、じゃあなるべくお金が掛からないように書かなきゃって。
前田 そもそもオリジナル脚本だと企画は通りにくいので。だから「まともじゃないのは君も一緒」には2人の家も出てこないし、塾とその辺の道、公民館が出てくるくらい。あとはしゃべりながら歩いているか、座っているかです(笑)。
高田 公民館はそんなお金掛けずに借りられるんじゃないかと思いまして(笑)。でも、すごく理解のあるプロデューサーに巡り合えて、よかったです。
前田くんは電話マン(高田)
──お二人は一緒に制作をしていて、意見が合わなかったり、ぶつかることはありますか?
高田 初期はかなりぶつかりましたね。
前田 そうですね。最近で言うと、「まともじゃないのは君も一緒」はほぼ第1稿のまま撮ってますよね。細かい直しはありましたけど、基本的には直したくないと思いました。
高田 途中で(微調整の)確認電話はいっぱい来ますけど(笑)。
前田 「まともじゃないのは君も一緒」から、僕の好みに寄ってくれたっていうのはありますね。
高田 そうそう! 例えば「
──先ほども、電話で脚本の相談をしたとおっしゃっていましたね。
高田 ええ。僕だけじゃなくて、あらゆる人に電話をしてます(笑)。プロデューサーとも、「さっき前田くんから長電話があって……」「そうですか、うちにはまだないですね」みたいな話をするくらい。企画以外のことも普段からしゃべっているので、好みに合わせていこうと思ったら、日々の電話からちゃんと探れる。「この映画観たんですけど、高田さんは観ました? 全然面白いと思わないんですけど」とか話すので。
前田 悪口を言い合ってる(笑)。
ほかの監督は絶対面白がってくれない(高田)
──何回も同じペアで作品を作っていると、「この人とやりたいことはやり切った」という境地に至るのかなと思っていたのですが、次の作品も一緒に作ろうと思うのはなぜでしょう?
前田 高田さんはほかの監督ともお仕事してるじゃないですか。エッセンスじゃないですけど、いろいろ吸収しているし、時間が経つと考え方も変わる。「今こういうのにハマっている」みたいな要素もあって。脚本を読んだときに、すごくいいんですけど、同時に“なんだろう? ここは”っていう部分が必ずあるんですよね。つまり引っかかるところがあって、聞くと「なるほど!」と思ったり。そういう意味では、高田さんの脚本から真新しさをいつも感じるからかもしれません。
高田 僕はほかの監督と映画を作るようになってから、前田監督が面白がってくれることって、ほかの監督は絶対面白がってくれない、ということに気が付いたんです。永遠にバカバカしい会話をずっと書くということをやらせてもらえる。ほかの監督と組むほど、“
前田 高田さんのうまさは、恋愛だけじゃないところ。恋愛映画でも、世の中に対して突き付ける部分がある。あと一番好きなのは、結局ロマンチックなところなんですよね。
高田 僕はどっちかというとロマンチストなんですよー。前田くんはクールなほうだよね。
脚本を読んで、今回が一番感動した(前田)
──お話を聞いていて、新作「
前田 「まともじゃないのは君も一緒」の初号試写を観たときに、高田さんが「後半の大野と美奈子(※)の関係性がメロドラマだよね」と言っていて。掛け合いをしながら急にメロドラマになっていくような、ジャンルをまたいでいる作りでもあったので、これで1本撮ってみたいと思ったんです。
※「まともじゃないのは君も一緒」に登場するキャラクター。成田凌演じる予備校講師・大野は、泉里香扮する美奈子にアプローチする。
高田 編集のときに、見つめ合う2人のカットがすごく長くて。「コメディなのにそんなにしっとりいかなくていいでしょ」と(前田が)みんなから言われたりしていました。それで「意外と好きなんじゃないの?」と聞いたら「そういうのもやってみたいです」と言うので、じゃあやろうかと。最初は行く当てもなく、書き始めたんだよね。
前田 これも電話でやり取りしながら進めましたね。記事の切り抜きを持ち歩いている男とかいいですよね、とも話しました。
高田 そうだ。企画は通らなかったんですけど、この作品の前にろくでもない男2人組の話を書いていて。図書館に行って気に入った文章を見つけると、破って持ってきて、相棒に自慢気に語って聞かせる、みたいな話を書いていると前田くんに言ったら「それいいじゃないですか!」って(笑)。だいぶ前ですけどね。「こういうのをやりたい」と話していたこととか、今までに使われてない「ああいうのやりたい」を、「こいびとのみつけかた」に放り込んだ感じ。それと、この人(前田)は常識なくて……。
前田 え!
高田 僕は僕で、常識ない人間だと思って生きていたんですけど、この人と一緒にいると「俺は意外とまともな人間だな」って思うことがちょいちょいあって。舞台挨拶に2人で出たときに「高田さん持っていてください」とペットボトルを預けられたり。いや俺も出るんだよ……?って(笑)。あとは僕、昔ボロいプレハブ小屋に住んでたんですよ。床のある部分に乗ると、家が揺れるって話をしたら、前田くんが「ほんとだ!! 揺れますね!!」って。揺れる、揺れる! やめてくれー!みたいな(笑)。前田くんの「なんでそんなことで?」ということで急にムキになったりするところも、「こいびとのみつけかた」のキャラクターにかなり反映されています。
──例えば「こいびとのみつけかた」に関して、これまでのタッグ作と違うと感じることはありますか?
高田 僕的には今までで一番、“前田監督用”に脚本が書けたんじゃないかと思います。自分の好みももちろん入っていますけど、自分の好みを押し付けることをせずに書けたんじゃないかな。今までの長年のおしゃべりと、プロデューサーも含めての長い付き合いがあったから書けたんだと思います。
前田 1本のラブストーリーというか、静かに最後まで続く作りの作品は初めてだったし、歌を登場させるのも初めてでした。僕は脚本を読んで、今回が一番感動したかもしれないですね。何に感動しているのか最初わからなくて。恋の話だけど、恋とも言い切れない。母性の話でもあるじゃないですか。メッセージ性もあるし、世界から逃避している人の話でもある。いろんな要素がいっぱい入っていて、箱いっぱいにおもちゃが入っているような感覚でした。
高田 葉っぱを並べて「彼女が来ると思うんですよ」って、こんなバカバカしい話を気に入る人はこの世に誰もいないって思いますよね? でもトワのもとに園子が現れる(※)シーンを書いたときに、自分ですごく感動して(笑)。この感動をわかる人は誰もいないだろうと思っていたら、前田くんが「あそこ読んだときにすごく感動しました。泣きそうになりました」と言ってくれた。
※「こいびとのみつけかた」劇中で、主人公・トワは思いを寄せる園子を誘うため、彼女のアルバイト先であるコンビニの前から、自分がいる場所まで木の葉を並べる。
前田 そのあとに、(劇中で)「ケーキと餃子どっちが好き?」という話になって、餃子食べておいしいね、ケーキ食べておいしいねって、それだけで成立する2人。そこに感動しました。でも、このことを誰かに話してもシーン……としてしまう(笑)。ここに感動しているのは俺と高田さんだけかなあ。ちなみに劇中の木の葉は、撮影当日の朝方に懐中電灯で照らしながら集めました。
──まさに名コンビならではのエピソードですね。今後、お二人で挑戦したいことはありますか?
高田 次はナンパが好きな男の子たちが変な女に引っかかって巻き込まれる、みたいな話がやりたいです。
前田 えー初耳ですよ。いいですね!
──ファンとしてはすごく楽しみです!
「こいびとのみつけかた」(10月27日公開)
コンビニの店員・園子に片思いをしているトワ。植木屋で働く彼は、彼女を誘うために木の葉をコンビニの前から、自分がいる場所まで並べる。2人は言葉を交わすようになり、周囲にはよく理解できない会話で仲を深めていくが、園子にはトワにうまく言い出せないことがあるのだった。トワを
前田弘二(マエダコウジ)
1978年2月21日生まれ、鹿児島県出身。自主製作短編「女」「鵜野」がひろしま映像展2005でグランプリと演技賞のダブル受賞を果たし、「古奈子は男選びが悪い」が第10回水戸短編映像祭でグランプリを獲得。2011年に「
高田亮(タカダリョウ)
1971年10月3日生まれ、東京都出身。工藤裕弘に弟子入りし脚本を学ぶ。2011年に「婚前特急」で劇場公開映画の脚本家としてデビュー。2014年に公開した「そこのみにて光輝く」でキネマ旬報ベストテン、ヨコハマ映画祭の脚本賞を受賞した。「わたしのハワイの歩きかた」「セーラー服と機関銃 -卒業-」「オーバー・フェンス」「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」「まともじゃないのは君も一緒」「死刑にいたる病」などの脚本を手がける。
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佐藤佐吉 Sakichi Sato @sakichisato
私が初監督した短編『ウルトラマソ刑事』は高田亮さんが助監督、前田弘二監督が録音で参加してくれて、制作部として参加していた宇野祥平くんと前田監督はその現場で運命的な出会いをし、彼ら3人は私を置き去りにして売れっ子になっていったのでした https://t.co/88MZW2Pl4i