選者 / 磯村勇斗「ゾンビの中心で、愛をさけぶ」

文 / 磯村勇斗（コラム）、田尻和花（作品紹介）

自分が同じ立場になったら愛を伝えられるだろうか。愛を受け取れるだろうか。

北欧発のゾンビ映画。2018年に製作された映画だが、やはりゾンビ映画は今の時代と重なる部分が多い。この映画は特にコロナ禍を彷彿させるセリフやシチュエーションが多かった印象。簡単にあらすじを紹介すると、ゾンビウィルスによって世界的なパンデミックが起こる中、マンションの一室に閉じ籠り生き抜こうとする夫婦を描いている。ただこの夫婦、倦怠期であり、離婚寸前。ゾンビだけではなく、強盗や怪しい居住者にも襲われ、カレンとジョンは突如としてサバイバル生活を余儀なくされる。冷え切った夫婦は過酷な状況で次第に刺激し合い、愛は再燃し始めるのだが…。
この映画の凄いところは、ワンシチュエーションであり、ゾンビがほとんど出てこないゾンビ映画であるところ。夫婦が住む部屋しか登場しないのである。途中、食料補給のために部屋を出るのだがそこは描かず飛ばす。とにかく「密室」で生活してる夫婦。というとこにこだわっている。低予算で制作された映画かもしれないが、アイディアひとつで違った角度からのゾンビ映画を演出できる。こういう勝負は印象に残りやすい。そして、他のゾンビ映画ではよく外でゾンビと戦闘したり、避難所で過ごしたり、荒廃した街を彷徨ったりメインが住居以外になることが多いが、そういった世界線で、もしかしたらカレンやジョンのように取り残され、同じようにサバイバルしている人たちがいるんだよな。とゾンビ世界を客観的に考えてしまった。余談であったが、この映画はゾンビ映画でありながら夫婦にフォーカスしたヒューマンドラマだ。
夫婦の再構築というのはなかなか難しい問題。一度冷めてしまった愛は簡単には燃え上がらない。しかしサバイバルを通して、「生き抜く」という共通の目標ができ、お互いに向き合う時間ができ、愛を確かめ合う。徐々に距離が戻っていく二人の姿を見て、僕も心が温まっていく。が…カレンとジョンに待ち受けるラストとは。
邦題は「ゾンビの中心で、愛をさけぶ」。原題は「ZOO」。この二つの意味は全く違う。しかし観終わってみると邦題がしっくりくる。どこかで聞いたことある響きだが、中々良いものだ。もし自分が同じ立場になったら愛を伝えられるだろうか。愛を受け取れるだろうか。
「ゾンビの中心で、あなたは愛をさけべますか」

磯村勇斗（イソムラハヤト）

1992年9月11日生まれ、静岡県出身。特撮ドラマ「仮面ライダーゴースト」のアラン / 仮面ライダーネクロム役、連続ドラマ小説「ひよっこ」でヒロインの夫となる役を演じ脚光を浴びる。現在公開中の出演作として、「最後まで行く」「波紋」「渇水」などがある。またドラマ「きのう何食べた？ season2」が10月クールに放送、映画「正欲」が今秋に封切られる。

「ゾンビの中心で、愛をさけぶ」（2018年製作）

崩壊寸前の結婚生活を送るカレンとジョン。マンネリ化し、生ける屍のような暮らしを送っていた2人だったが、ある日“人がゾンビ化する伝染病”が発生・拡大する。感染を避けようとするカレンたちはマンションの部屋で救助を待つが、ゾンビだけではなく、強盗や怪しい生存者たちも襲来。不意に訪れたサバイバル生活に刺激され、カレンとジョンの愛は再燃し始める。
「クレアモントホテル」のゾーイ・タッパー、「エラゴン／遺志を継ぐ者」のエド・スペリーアス、「アルバート氏の人生」のアントニア・キャンベル＝ヒューズ、「インビジブル 暗殺の旋律を弾く女」のヤン・ベイヴートが出演。監督・脚本・音楽・編集はアントニオ・トゥーブレンが担った。

「ゾンビの中心で、愛をさけぶ」 DVD販売中

税込価格：DVD 4180円
発売元：アット エンタテインメント
販売元：TCエンタテインメント

※「ゾンビの中心で、愛をさけぶ」はR15+指定作品