「ジョーズ」(写真提供:UNIVERSAL / Allstar Picture Library / ゼータ イメージ)

そろそろ真剣に「サメ映画とは何か」を考える時が来たのかも知れません

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1975年製作のスティーヴン・スピルバーグ監督作「ジョーズ」をはじめ、殺戮マシンと化したサメが人間を襲う「ディープ・ブルー」、竜巻に巻き込まれたサメが空から降ってくる「シャークネード」など、これまでに多様なサメ映画が製作されてきた。2018年のジェイソン・ステイサム主演作「MEG ザ・モンスター」が、全世界で5億3000万ドル超の大ヒットを飛ばしたことは記憶に新しい。

2021年8月4日、サメ映画専門のバイヤー兼翻訳家・サメ映画ルーキー氏のツイートが話題を呼んだ。サメが出ないサメ映画「No Shark(原題)」に言及したツイートの中には、「そろそろ真剣に『サメ映画とは何か』を考える時が来たのかも知れません」という一文が。そこで映画ナタリーでは、サメ映画ルーキー氏と“サメンテーター”である中野ダンキチ氏の対談を企画。サメ映画とはなんなのか、たっぷり語り合ってもらった。

取材・/ 小澤康平

サメ映画の定義とは?

──まずはお二方が考えるサメ映画の定義を教えてください。

中野ダンキチ 私の中では3つ条件がありまして、1つは製作者や宣伝担当者が「これはサメ映画です」と打ち出していること。2つ目は分数が60分以上であることです。ものすごく短い作品もあるので、映画としてどこかで線引きする必要があるため60分以上としています。最後に、サメによる恐怖を感じさせる作品であること。サメとの心温まるふれあいを描いたものは除外しています。ただサメ映画という言葉が定着したのは最近な気がしていて、こじつけて定義している感覚はありますね。今後変化していく可能性は大いにあります。

サメ映画ルーキー 僕もほぼダンキチさんと同じ考えです。サメ映画というジャンルの根本には「ジョーズ」があって、サメを起点とする非常事態に人々が巻き込まれていくのがサメ映画のテンプレート。なので、サメによる恐怖が描かれているというのは一番重要な点だと思います。その一方で、本編にサメがちょっとしか出ていない作品を「ジョーズ」のようなサメ映画としてプロモーションすることが多々あるんですよね。そういう乗っかり方はサメ映画の伝統になっていて、宣伝側がサメ映画と打ち出しているものを含めないのはかわいそうなので、タイトルに「シャーク」や「ジョーズ」、パッケージにでかでかとサメが写っているものは含めていいのではないかと。分数については僕はあまり気にしていないです。

ダンキチ 「ジョーズ」以前の作品はどう考えてます? 1932年の「虎鮫」や1969年の「サミュエル・フラーのシャーク!」 を入れるかどうかは、人によって分かれるところだと思うんですけど。

ルーキー 難しいですね。

ダンキチ 私としてはサメ映画に入ると思っています。「虎鮫」でもちょこっとだけサメの恐怖が描かれているんですよね。「サミュエル・フラーのシャーク!」 の原題は「Shark!」なので、おそらくサメ映画として売り出そうとしていたのだと思います。そのほかにもアニメやCG作品を含めるのかどうかも難しいので、正直それぞれが「これがサメ映画!」と定義してしまっていい気はしています(笑)。例えばゾンビ映画と比べると、サメ映画ってまだ未開拓なんです。重鎮みたいな人はいないし、たぶんサメ映画をどう定義しても怒る人はいないと思うので。

ルーキー 映画の中にサメを見出せれば、もうその人にとってはサメ映画なんですよね。

宮本武蔵が無刀の境地に至ったように…

──今回の対談は、ルーキーさんが映画「No Shark」に言及したツイートがきっかけになっています。今のお話を踏まえると、サメの恐怖が描かれていればサメが出ずともサメ映画として成立すると思います。「桐島、部活やめるってよ」のように、不在がその存在を際立たせる作品もありますが、「No Shark」はどんな内容になっているとお考えですか?

ダンキチ おそらく製作側に緻密な考えがあるわけではなくて、「ひらめいた! やったぜ!」というテンションなのではないかと(笑)。日本映画の「JAWS in JAPAN」のようにサメがほとんど出ないサメ映画はいくつかあるんですけど、「No Shark」の製作陣はたぶん観ていないでしょうし、今までにないサメ映画を作りたいということだと思います。怪獣が来るぞ来るぞと言って、来ないみたいな。

ルーキー 「大怪獣東京に現わる」ですね。そもそも「ジョーズ」も、サメがたくさん出てくるかと言ったら全然そんなことない。サメがいること自体も怖いですけど、存在しているサメが見えないことの恐怖も同時に描いていると思うんです。ただ、製作陣があえてサメを出さないというのは「No Shark」が初めてな気がします。とりあえずヒレだけ出したり、予算の都合でサメが一瞬しか出ない作品はあるんですけど(笑)。監督がどこまで狙っているかはわからないですが、サメ映画を極めていった結果、宮本武蔵が無刀の境地に至ったようについにサメを出さなくなったんだと考えているファンはいるかもしれないですね。

ダンキチ はははは、素晴らしい。もうみんな幻想を見ているんじゃないかという(笑)。

ルーキー サメは心の中にいる! みたいな。

ダンキチ いいですねえ。

──映画によっては宣伝のために、本編に出てこないサメをパッケージに載せているパターンもあります。一方「No Shark」はポスターにもサメが描かれていないですね。

ルーキー 男気を感じました(笑)。

アサイラムにもルールはある

──作品名に「ジョーズ」と入っているものや、明らかに名作タイトルをまねているサメ映画もあります。トラブルにはならないんでしょうか?

ダンキチ サメ映画に限らず、映画業界全体としてゆるい印象はあります。ただ表には出ていない話で大企業から訴えられたことのある会社を知っているので、すべてが許されているわけではない。何がセーフで何がアウトかは難しいところですが、確実に言えるのは「ヒットしないから怒られない作品がたくさんある」ということです(笑)。2015年製作の「メガ・シャークVSグレート・タイタン」という映画があるんですけど、巨人の造形がある人気マンガにそっくりなんですよ。ほかにも邦題が「シン・ジョーズ」という作品があったり。

ルーキー 「シン・ジョーズ」の原題は「Atomic Shark」で、実はアメリカだと「Jaws」と入っているものはあまりないんです。訴えられないために使わないという事情があって。「ジョーズ」シリーズとしては4作目である「ジョーズ1987 復讐篇」が最後なんですが、以前「Jaws 5」を勝手に作った人がいて、訴えられそうになったのでタイトルを「Cruel Jaws(邦題:ジョーズ'96/虐殺篇)」に変更していました。でも、そもそもモックバスター(メジャーな作品に便乗し、同じようなテーマやタイトルで映画を製作すること)で名を馳せてきたアサイラム(「シャークネード」シリーズなどで知られるアメリカの映画会社)だけは別枠な気がします。

ダンキチ 「あいつらまたやってるよ」と関係者たちも笑っているんですよね。「パクられてますけどいいんですか?」と聞かれた大手配給会社の社員が「どんどんやってくれ!」みたいに答えていたのを映像で観たことがありますし。やりすぎて怒られたのか、あとからタイトルを変更した事例はありましたが。

アサイラム社で記念撮影する中野ダンキチ氏。

アサイラム社で記念撮影する中野ダンキチ氏。

──アサイラムは特別扱いされているんですか?

ダンキチ されているかもしれないですね。一応アサイラムにもルールはあって、タイトルはまねるんですが、ストーリーはオリジナルなんですよ。いつも決まって「たまたま似たタイトルだった。話は別物だよ!?」と言い訳するんです。新作の「Ape vs. Monster(邦題:ロード・オブ・モンスターズ 地上最大の決戦)」も、偶然タイトルが「Godzilla vs. Kong(邦題:ゴジラvsコング)」に似ただけです。たまたまですよ。

ルーキー はははは(笑)。

サメ映画の製作者は全員ジョーズチルドレン

──サメ映画を語るうえで「ジョーズ」は絶対に外せない作品ですが、「BAD CGI SHARKS/電脳鮫」という映画には、「サメ映画という概念が生まれたのは『ジョーズ』ではなく『ジョーズ2』」という意味のセリフが登場します。

ルーキー 「ジョーズ」はみんなに愛されている別格の存在です。絶対に超えられない作品と言っても過言ではないかもしれない。監督がスピルバーグからヤノット・シュワルツに代わり、1作目で描かれていた政治・経済的な問題は全部捨てて、アクション映画に振り切ったのが「ジョーズ2」だと思うんです。「ジョーズ」を作ることはできないけれど、こういうのだったら自分にもいけるかもと思わせたのが2作目なのではないかなと。

ダンキチ 平たく言うと、サメ映画を作っている人たちは全員ジョーズチルドレンということですよね。

ルーキー そうですね。これは皆さんおっしゃることですけど、「ジョーズ」はサメ映画ではなく映画で、「ジョーズ2」からがサメ映画だと(笑)。

──なるほど(笑)。その考え方だと、「ディープ・ブルー」「MEG ザ・モンスター」といったヒット作はどういう位置付けになりますか?

「ディープ・ブルー」(写真提供:WARNER BROS. / Allstar Picture Library / ゼータ イメージ)

「ディープ・ブルー」(写真提供:WARNER BROS. / Allstar Picture Library / ゼータ イメージ)

「MEG ザ・モンスター」(写真提供:The Hollywood Archive / Hollywood Archive / Avalon / ゼータ イメージ)

「MEG ザ・モンスター」(写真提供:The Hollywood Archive / Hollywood Archive / Avalon / ゼータ イメージ)

ルーキー 難しいですね。サメ映画史においては確実に語られるべき作品ですが、「ジョーズ」のように映画史に残るかと言われたら……苦しい言い方をするとA級サメ映画です。

ダンキチ やっぱり「ジョーズ」は特別で、アメリカ人にとっての「ジョーズ」は日本人にとっての「ゴジラ」のような存在。特に映画が好きな人からしたら、神聖で、象徴で、大切なもの。それを一生懸命みんなで崩すことでサメ映画文化が築かれているわけですけどね(笑)。

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恐怖と興味の二極化が進むサメ映画界

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