住み分けをしつつ、みんなで映画の多様性を守っている
──シネ・ヌーヴォのお客さんは映画を観るだけでなく、劇場で過ごすことを楽しんでいるように思います。数年前初めて劇場に来た際に、本棚にある本を読んだり、雑談を楽しんでいる方を目にしました。
そうなんですよね。今はコロナの影響で、全部撤去しているんですが、以前は椅子だけでなく、机もあってそこでお昼を食べたりとか本を読んだり、常連のおじいちゃん同士が劇場で出会って、仲良くなって雑談していたり。スタッフもコミュニケーションを取っていました。このご時世、シニア層が劇場から離れてしまったと聞く中で、うちはあまり減っていないんです。それこそ90過ぎたおじいちゃんが毎日来てくれる。それは映画を観るためだけじゃなく、コミュニティに接続するために足を運んでくれていると思うんです。スーパーに買い物に行くぐらい自然にヌーヴォに足を運んでくれているんだと思います。
──コロナがなかなか収束しませんが、映画館の状況はいかがですか?
休館していた去年に比べたら営業を続けられていることでましではありますが、コロナ前から考えるとお客さんは3割減でずっと低いままですね。ほかの映画館の方と、この3割というのはなかなか戻りにくいだろうねと話しています。7割の状況でどうやって継続させるか、どの映画館もいろいろ模索している。そんな中、うちでは最近デジタルの機材が壊れてしまって、急遽中古のものに入れ替えたんです。その出費も痛くて……。つらいなって思っていたら、愛知のシネマテークの方から「大丈夫?」と心配のお電話をいただきました。それだけでうれしかったですね。
──コロナ禍になって、劇場同士の関係は深まっているように思います。
クラシック作品を多く上映しているとか、お客さんとの距離が近いなどヌーヴォにはヌーヴォ独自の魅力がありますが、我々だけだとお客さんにお届けできる作品には限界があります。例えば大阪は七藝さん(第七藝術劇場)があったりシネマート心斎橋さんがあったりテアトル梅田さんがあったり、神戸は元町映画館さんがある。シネマートさんはアジア映画をたくさんかけているし、テアトルさんはミニシアター系の映画を先陣切って上映してくれる。七藝さんは社会派の映画が多い。それぞれ住み分けをしつつ、みんなで映画の多様性を守っています。だからどこがつぶれてもダメ。もしほかの劇場が「もう、ダメだー!」ってなったら全力で支えたいと思っています。お客さんのためには、選択肢はあればあるほどいい。大阪、京都、兵庫は映画の多様性、個性をまだギリギリで守れていると思うんです。やはり、そういうものを守ることは劇場で働く人間としてとても大事なことだと思っていますし、地方のミニシアターの存在意義だと感じています。
──今年の4月には休業要請を受けて、営業するかしないかなど、決断するのが難しい局面もあったと思います。
正直、営業するのはあきらめざるを得ないと思っていたんです。でもふたを開けてみたら、休業補償はないし、床面積1000平方m以下のミニシアターへは“できればお願いしますね”みたいな言葉遊びのような声かけで強制力はなかった……。だからうちは、開けるという決断を下しました。でも開けていても、閉めていてもどの映画館も苦しい。今でも、もやもやするものはありますね。
──映画館が窮状に置かれる中で、昨年はミニシアター・エイド基金、「Save our local cinemas」などが立ち上がりました。また、学生が集う映画チア部がシネ・ヌーヴォを支援するためにTシャツ販売企画「may the cine nouveau be with you」を立ち上げました。
実際、去年の休館を乗り切れたのはミニシアター・エイド基金や「Save our local cinemas」があったから。関わってくださった人たちには感謝しかないですし、どうやって恩返ししていけばいいんだろうと思っています。実は休業要請を受けて、劇場を開けるか開けないか決断を迫られているときもかなり経営が厳しい状況で……支援金を募ろうかと悩んでいたんです。そんな中、映画チア部がヌーヴォを応援したいと言ってくれました。販売するTシャツのデザインも、宣伝のためのリリースもホームページも全部自分たちで作ってくれて、うちはただOKしただけ。若者たちが映画館に来ないという嘆きを全国の劇場から聞く中で、学生が率先して呼びかけてくれたのは純粋にありがたいですし、未来への希望を感じました。
──「may the cine nouveau be with you」に山崎さんはコメントを出されていますが、チア部には厳しいことも言ったと明かされています。
言いましたね(笑)。今はイベントで赤字は背負われへんって。でも彼らはそれでも食い下がって、自分たちの力だけで、すべてやってくれたんです。本当に感謝しています。
ヌーヴォは魔物のような存在感がある
──山崎さんにとって映画館で働く喜びはどこにありますか?
去年休館していたときには2カ月ヌーヴォにお客さんが来なかったですが、とてもつらくて……。そのときにお客さんが来てくれる日常が改めて大事だと思ったんです。そんな日常の積み重ねによって、働いていてよかったなと思います。めっちゃシンプルですけど(笑)。あとは、たまにバチコーンってくる作品に出会うと、ヌーヴォにいなかったら絶対にこんな機会なかったなと思います。劇場を通して出会った人も多いので、ヌーヴォは私の人生と切っても切り離せないような存在ですね。
──辞めたいと思ったことは一度もないですか?
あります(笑)。でも悪い意味じゃなく、ヌーヴォは魔物のような存在感があるので、何かそこに吸い寄せられしまっているんですよね。変な感覚ですが。
──同じように“魔物のようなヌーヴォ”を愛し引き寄せられているお客さんがたくさんいるように思います。
ヌーヴォを愛してくれているお客さんには、ありがとうしか言えないんですね。来てくれてありがとう、応援してくれてありがとう、いろんな映画をヌーヴォで観てくれてありがとう。やっぱりそういう方たちのために、これからも魅力ある映画の上映を絶対続けますって強く思います。この状況には負けないぞ!って。作り手を交えてもっともっと映画の魅力を発信できればいいなと考えています。
──一方でこれからヌーヴォに出会う方もいますよね。
なんか怖そうというイメージを持っている方もいるかもしれないんですが(笑)。何かのきっかけでたどり着いてくれたらうれしいです。お会いする日のために、上映は続けて行きます。映画館は地域地域でそれぞれ特色があるので、そんなものも感じ取っていただければ。
──劇場に一度足を踏み入れると、逃さない魅力がありますよね
はい、ガシってつかんじゃいます(笑)。
※may the cine nouveau be with youのeはアキュートアクセント付きが正式表記
シネ・ヌーヴォで開催中および、今後開催予定の特集上映
ソクーロフ特集 2021
2021年9月25日(土)~10月8日(金)
<上映作品>
「モスクワ・エレジー」
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ケリー・ライカートの映画たち 漂流のアメリカ
2021年10月2日(土)~15日(金)
<上映作品>
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風間志織特集
2021年10月9日(土)~22日(金)
<上映作品>
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妖怪・特撮映画祭
2021年10月9日(土)~11月5日(金)
<上映作品>
妖怪・怪談
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「牡丹燈籠」
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「大魔神」4K修復版
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スペクタクル・ディザスター・怪奇・幻想
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第2回インド大映画祭
2021年10月16日(土)~29日(金)
<上映作品>
「火花 -Their」
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旧シワプリ @siwapuri
そのときはまだヌーヴォにバーカウンターがあって軽食とかアルコールをお客さんに提供していました。インド映画を上映するときはカレーを出したり(笑)
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