観客に作品を楽しんでもらうだけでなく、映画の多様性を守るための場所でもある映画館。子供からシニアまでが集まる地域のコミュニティとしての役割を担う劇場もある。
本コラムでは全国各地の劇場を訪ね、各映画館それぞれの魅力を紹介。今回は大阪府にあるシネ・ヌーヴォを取材した。九条駅から5分ほど歩いた場所にポツンと佇む同劇場のコンセプトは“水中映画館”。劇団維新派の松本雄吉が棟梁となり、観客を別世界に誘うための仕掛けが随所に施された。
このたびの取材では、1997年のオープン以来、関西の映画文化を守り続けてきた同劇場の支配人・山崎紀子にインタビューを実施。地方のミニシアターの存在意義や映画館で働く喜びなどを聞いた。
取材・
シネ・ヌーヴォ支配人・山崎紀子インタビュー
一歩足を踏み入れたら別世界
──シネ・ヌーヴォは映画ファンの出資で誕生した映画館と聞いています。
1980年代から代表の景山(理)が“映画ってこんなに多様なものなんだよ”ということを発信するために、映画新聞を毎月発行していたんです。1996年に紙面上で「いい映画をいい環境で観ませんか?」と呼びかけたら、あっという間に出資者が集まって。一口10万円という決して安くない金額だったんですが、読者の方や地域の方などいろんな方が協力してくださって、1997年にオープンしました。
──初めてシネ・ヌーヴォを訪れたとき、その独特な雰囲気にとてもワクワクしたのを覚えています。
外観・内装のデザインは、大阪を拠点に活動していた劇団維新派に手がけてもらいました。維新派は公演のために野外劇場を作って、終わったら解体して撤収するという「scrap&build」の劇団なんです。主宰の松本雄吉さんは“映画館は非日常の空間”という考えを持っていた方。一歩足を踏み入れたら別世界に行けるよう、まるで水中に潜るような印象を与えられるよう、水中映画館をイメージして内装を作ってくれました。表にはノウゼンカズラを植えて、壁面には無機質で錆びたバラのオブジェが設置されました。有機的なものに変えるのはスタッフたちの力だというメッセージが込められています。
──あのバラのオブジェにはそんな意味が込められていたんですね。
本当にすごいメッセージを受け取っています!
──山崎さんは2001年にシネ・ヌーヴォに入社されましたが、この場所で働きたいと思ったきっかけはどういったものだったんでしょうか?
当時、大阪梅田にある映画館で働いていて、ヌーヴォのチラシをよく目にしていたんです。そのときはまだヌーヴォにバーカウンターがあって軽食とかアルコールをお客さんに提供していました。インド映画を上映するときはカレーを出したり(笑)。映画と紐付いた何か楽しいことをやっていて、劇場でこんなことができるんだって、端から見ていてとっても新鮮だったんです。だから募集していなかったんですがヌーヴォで働きたい!と思って、景山さんと父が友人ということもあって、「じゃあおいでよ!」ということになりました。それからもう20年ですね(笑)。
──入社してびっくりしたことはありましたか?
いろんな国の映画が上映されていることにまず驚きました。私が今まで持っていた映画の概念なんてすぐに吹っ飛びましたね! それまでは、外国の映画ならアメリカ映画やフランス映画ぐらいしか触れたことがなかったんです。でも、ヌーヴォでさまざまな国の多種多様な作品に出会って、映画って本当に世界共通のものだなと感じました。
──今は、 “驚き”を提供する側に回っていらっしゃいますが、働き手から見てシネ・ヌーヴォはどんなところが魅力だと思いますか?
クラシック作品を多く上映していること。そして映画とお客さんの距離が近いことですね。それはおそらく、スタッフとお客さん、監督とお客さんが築き上げてきた距離感によるものだと思います。また映画を上映するだけでなく、作品について少し掘り下げてもらえるように、何かプラスαを提供できればと心がけています。
上映可能なものはできる限りスクリーンにかけたい
──シネ・ヌーヴォはかなりこだわって特集上映を組んでいらっしゃる印象です。
監督の生誕100年を記念したものや、注目を集めている書籍に関係するものなどさまざまな形で番組を組んでいます。地域と連携したものだと大阪のユーラシア協会さんとロシア映画、旧ソビエト映画を上映する機会を定期的に設けています。全体を通して言えることは、おそらく上映作品の本数はどこよりも多い(笑)。特集を組む場合は、上映可能なものはできる限りスクリーンにかけたいんです。同じことを繰り返しているというよりは、毎回新鮮な気持ちで番組作りに取り組んでいます。お客さんのリクエストをもとにプログラムを組むこともありますね。
──例えば?
浪花千栄子さんの特集は、彼女をモデルにした連続テレビ小説「おちょやん」が放送されているときに、お客さんから「浪花千栄子見たいわー、やれへんの?」ってリクエストがあったんです。コロナの影響もありますし、正直特集上映は作品を借りるためにどうしてもお金がかかっちゃうので、どうしようと悩んだんですが、浪花さんは大阪出身の方ですし「せやな! やろう」と思って。そしたらお客さんがたくさん来てくれましたね。
──印象に残っている特集上映はありますか?
日本映画だと木下惠介監督とか清水宏監督の作品はぐんぐん引き込まれましたね! 加藤泰監督の作品もすごく面白かったです! あとは、黒澤明監督の特集は「社運をかけて」という宣伝をしたらお客さんがいっぱい来てくれました。黒澤監督の作品は東宝からフィルムを借りるんですが、すごく大切にされていて、1本では貸してくれないんです。値段も高いので、満席が続いても赤字かもしれない(笑)。すごくハードルが高いんですけど、だからこそなかなか上映できなかったので実現できてよかったです。
──フィルムで作品を観られるのもシネ・ヌーヴォの魅力ですよね。
映写技師が本当にがんばってくれていますね。ボロボロで切れたりしているものもあるんですが、手で押さえながら映写機を回したり。ほとんどないですけどたまにフィルムが悪すぎて途中で切れちゃうこともあるんです。お客さんは静かに待っていてくれます。切れては再開し、切れては再開しということがあったんですが、そのときも応援してくれていました(笑)。甘えているって言われるかもしれないですけどうちは、そういうお客さんばっかりですね。
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そのときはまだヌーヴォにバーカウンターがあって軽食とかアルコールをお客さんに提供していました。インド映画を上映するときはカレーを出したり(笑)
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