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文
「エヴァ」や「シン・ゴジラ」スタッフによるゲーム実写化の先がけ
ビデオゲームの実写映画化はいつ始まったのか。「映画」という枠には収まらないが、その原点と言えるのが「ドラゴンクエスト ファンタジア・ビデオ」(1988年)だろう。本作はすぎやまこういちが指揮するオーケストラ演奏の映像と、演奏をBGMとした原作ゲームのイメージ映像から構成されるというものだ。主人公の勇者は「ドラゴンクエストIII」風の身なりをしているが、仲間たちは「II」のサマルトリアの王子とムーンブルクの王女風。そして待ち受けるのは初代のラスボス・竜王であり、ロト三部作を混ぜ合わせたハイブリッドとなっている。
一見すればキワモノだが、製作協力はガイナックスで企画協力はゼネラルプロダクツ。エフェクトアニメーションは
原作となったファミコン時代の「ドラクエ」は2次元かつドット絵、つまり実写とは最も遠い次元にあった。それが本作では勇者や戦士らの鎧、中世風の街や王が謁見する城、スライムやキメラといったモンスターらが精緻な造形により3次元に召還され、ドット絵との印象のズレがない。本物の炎や火薬を使った爆破は特撮技術、あやしいかげやフレイムは特殊効果(アニメーション)で表現され、すでに「エヴァ」や「シン・ゴジラ」など次元の壁を自由に越える異才らの片鱗がかいま見える。なお、最大の見どころは「特殊メイクで竜王を演じる庵野秀明」だ。
実写版「スーパーマリオ」を評価する難しさ
さて「ドット絵時代のゲーム実写化」において最大の挑戦作でも問題作でもあるのが「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」(1993年)だ。この映画をめぐっては、評価が「ゲーム原作映画として大失敗」と「愛すべき90年代映画」の2つに分かれやすい。
まず、本作からは「スーパーマリオブラザーズ」をそのまま映像化する意図がまったく窺えない。しかし「マリオは配管工」という、ゲームファンでも忘れがちな設定を最初から最後まで守り抜いている。現実世界に顔も体型も丸いマリオを受肉させる主演俳優として、(当時)中年男性の
敵はカメではなく、恐竜帝国・ダイノハッタンのクッパ大統領。マリオらの大冒険を助けてくれるのは原作通りキノコ、ただしリアルタイプの菌類だ。ヒロイン・デイジーの父親も粘液を垂らす巨大キノコであり(逆進化銃で姿を変えられたとはいえ)味方の方が余すところなくホラーである。
「現実にどこか似た異世界でグロテスクな仲間が助けてくれる」とは「未来世紀ブラジル」や「トータル・リコール」の系譜に連なるSF作品でもあり、お約束のカーチェイスもあり(そのためホスキンスはケガ、劇中でもギプスをはめている)、その文脈で見れば決して悪い映画ではない。
が、子供たちは、ジャンプシューズで一瞬だけ跳ね、キノコを喰って巨大化することもなく「光線攻撃の盾にするだけ」のマリオを見たいだろうか。それもこれも、スタッフが誰も任天堂とほとんど連絡を取り合ってなかったから……との事情は「セガvs.任天堂 ゲームの未来を変えた覇権戦争(下)」(早川書房)に詳しい。
初代「モータル・コンバット」映画は「ゲーム愛」という点で画期的
ドット絵時代のゲームを実写化するにおいては、ドットと現実の距離がありすぎるため、「原作破壊」を避けることは難しかった。「ストリートファイターII」を原作とした「ストリートファイター」(1994年)が悪目立ちしなかったのは「破壊を最小限に抑えた」に過ぎない感もあるが、本作はむしろ実写映像が逆輸入されたゲーム「ストリートファイター リアルバトル オン フィルム」でキャプテン・サワダという唯一無二の名(迷?)キャラクターの誕生に繋がったことに意義がある。ハラキリを行うことで攻撃する「獄殺自爆陣」は必見だ。
そうした実写とゲームの距離を縮める上で「
しかし
武術家のリュウ・カンが殺された弟の復讐を誓い、闘神ライデンの導きで武術大会「モータル・コンバット」に出場。それは実は地球の戦士と魔界の邪悪な戦士が激突する、地球の命運を賭けた決闘だった。そんな大人向けのハリウッド映画では成立しにくい原作の話をそのままなぞり、手から蛇状のムチを出すスコーピオンや4本腕の巨人ゴローらと人間の格闘家が戦うのである。
それらをアンダーソン監督は大まじめに撮り、まるでスピード感がないとはいえ原作の対戦シーンに寄せていく。映画としてはB級というほかないが、監督の「原作ゲーム大好き」という姿勢がモーコン(略称)ファンの胸を打ったのだろう。中国とされている場面がどう見てもタイなど、原作のデタラメな(褒め言葉だ)オリエンタル趣味まで再現しているのだから。
「ホラーゲームの再現」をやり過ぎた「サイレントヒル」
最近でこそ実写映画化から遠ざかっているが、一時は台風の目だったのがコナミのゲームだ。しかも、このジャンルが「原作ゲーム愛」と「作品としての完成度」の間で引き裂かれやすいことを象徴する2つの作品がある。
1つは「
もう1つは「
が、ひるがえって原作ゲームを知らない人にとっては「話が他愛ない」「ひたすらに怖い」「最後まで見ても救いがない」の三段重ねになる。原作ゲーム愛が強すぎるため、愛の圏外にいる観客にはエンタメになりにくいのである。いち「サイレントヒル」ファンとして言わせてもらえば、三角頭(レッドピラミッドシング)の恐怖を知らないのは人生の半分を損してると思うのだが。
「バイオハザード」第1作でのアンダーソン監督の功績
さて、今回の本題の1つとも言える「
シリーズ第1作となる本作は、原作ゲームに出てくるキャラクターは(巨大企業アンブレラを除いて)誰一人として出てこない。が、洋館の地下に隠された極秘研究所、ハイテク施設の中にうごめくゾンビ達、怪物以上に死を突きつけるセキュリティ施設の罠、ドアを開けるたびに待ち受ける恐怖といったエッセンスの数々は、紛れもなくゲーム版の世界観やふんいき、プレイ感覚そのものだ。
そもそも主人公のアリス(ごぞんじ
原作にはないが「アンブレラはこういうことする!」的に説得力あるアイディアは本家のゲームにも逆輸入され、アンダーソン監督の理解度の深さと熱意を裏付けることになった。
本作が低予算にもかかわらず大ヒットしたことで、映画「バイオハザード」シリーズは全6作、約15年にわたる長寿作となった。「II」ではラクーンシティや原作の人気キャラであるジル・バレンタインも登場し、原作へのリスペクトも大好評だった。
が、完結作「ザ・ファイナル」までの他のシリーズ作での原作愛は……あくまで「ミラ・ジョヴォヴィッチ映画」だった、に尽きるだろう。
「名探偵ピカチュウ」と「ソニック・ザ・ムービー」はゲーム実写化の到達点
ゲーム原作の実写映画が20年以上の歳月を積み重ねたなかで、2021年現在の到達点と呼ぶに相応しいのが「
まず「名探偵ピカチュウ」は人間とポケモンが共存する世界で、主人公の少年が言葉をしゃべるピカチュウのバディとなって事件を調べるというお話だ。サラリと書いたが、街の至るところに普通にポケモンが棲息し、闘技場のような形とはいえジムバトルが日常に定着した世界を隅々まで再現している執念。そしてピカチュウの仕草や表情が可愛らしく、
かたや「ソニック・ザ・ムービー」は、ある意味で逆の道をたどった。当初の公開予定だった2019年11月が間近に迫るなかで予告が公開され、そこでお披露目されたキャラクターデザインは手足も長く頭身も人間の成人のよう、後頭部の毛並みは柔らかく垂れ下がっていた。要は原作の「ハリネズミ」感が微塵もなかったことで、ネットで大炎上してしまった。30年近いシリーズだけに、パブリックイメージからかけ離れたのはまずかった。
本作が目覚ましいのは、そこからの巻き返しだった。すぐさま
ドラマ本編は「宇宙から来た超音速のハリネズミ」の孤独を掘り下げ、人のいい警官とのロードムービーという体を取りつつ、原作ファンにはニヤリとできる小ネタをちりばめた快作となっていた。もともと原作ゲームに対する理解度が深かったから、主役デザインの変更にまつわる混乱も最小限に抑えられたのかもしれない。
この2作により、ゲーム原作の実写映画は「原作に対する深い理解」と「予備知識なしでも楽しめる一般性」の両輪という、新たな基準が打ち立てられたといっていい。その後に公開されたリブート版「モータルコンバット」(2021年)は前者に振り切ったことで、20年以上もの厚みある原作のファンコミュニティから支持を勝ち得た。その一方で、「バイオ」シリーズでの功労者アンダーソン監督が再び手がけた「
特に「モンハン」シリーズは多彩な武器や細かに設定されたモンスターたちの生態など、ディティールにこそ命が宿っているゲームだ。本作は逆説的に、今やゲーム実写化映画の監督にとっては「原作ゲームをとことんやり込むこと」が必修科目になったと証明したのかもしれない。
製作費・全世界興行収入 一覧
「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」(1993年)
製作費 4800万ドル / 全世界興行収入 2091万ドル
「ストリートファイター」(1994年)
製作費 3500万ドル / 全世界興行収入 9943万ドル
「モータル・コンバット」(1995年)
製作費 1800万ドル / 全世界興行収入 1億2219万ドル
「バイオハザード」(2002年)
製作費 3300万ドル / 全世界興行収入 1億298万ドル
「サイレントヒル」(2006年)
製作費 5000万ドル / 全世界興行収入 1億60万ドル
「名探偵ピカチュウ」(2019年)
製作費 1億5000万ドル / 全世界興行収入 4億3392万ドル
「ソニック・ザ・ムービー」(2020年)
製作費 8500万ドル / 全世界興行収入 3億1971万ドル
「モンスターハンター」(2020年)
製作費 6000万ドル / 全世界興行収入 4214万ドル
「モータルコンバット」(2021年)
製作費 5500万ドル / 全世界興行収入 8360万ドル
※数値はIMDbおよびThe Numbersから引用
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