「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」(写真提供:Buena Vista / Photofest / ゼータ イメージ)

ゲームの実写映画化の変遷をたどる

1993年「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」から、2021年「モータルコンバット」まで

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スーパーマリオ 魔界帝国の女神」が公開された1993年から、「モータルコンバット」が封切られた2021年まで、数多くのゲームが実写映画化されてきた。原作からの変更を最小限に抑えた映画もあれば、ゲームには登場しないキャラクターを主人公に据えてシリーズ化に成功した作品もある。本記事では、20年以上にわたって取り組まれてきた“ゲームの実写映画化”の変遷を、主要作品を軸にたどっていく。

/ 多根清史

「エヴァ」や「シン・ゴジラ」スタッフによるゲーム実写化の先がけ

ビデオゲームの実写映画化はいつ始まったのか。「映画」という枠には収まらないが、その原点と言えるのが「ドラゴンクエスト ファンタジア・ビデオ」(1988年)だろう。本作はすぎやまこういちが指揮するオーケストラ演奏の映像と、演奏をBGMとした原作ゲームのイメージ映像から構成されるというものだ。主人公の勇者は「ドラゴンクエストIII」風の身なりをしているが、仲間たちは「II」のサマルトリアの王子とムーンブルクの王女風。そして待ち受けるのは初代のラスボス・竜王であり、ロト三部作を混ぜ合わせたハイブリッドとなっている。

一見すればキワモノだが、製作協力はガイナックスで企画協力はゼネラルプロダクツ。エフェクトアニメーションは庵野秀明貞本義行、特殊効果に尾上克郎、アニメ原画に本田雄──後の「エヴァンゲリオン」(劇場版とテレビシリーズを含む)や「シン・ゴジラ」スタッフが名前を連ねている。

原作となったファミコン時代の「ドラクエ」は2次元かつドット絵、つまり実写とは最も遠い次元にあった。それが本作では勇者や戦士らの鎧、中世風の街や王が謁見する城、スライムやキメラといったモンスターらが精緻な造形により3次元に召還され、ドット絵との印象のズレがない。本物の炎や火薬を使った爆破は特撮技術、あやしいかげやフレイムは特殊効果(アニメーション)で表現され、すでに「エヴァ」や「シン・ゴジラ」など次元の壁を自由に越える異才らの片鱗がかいま見える。なお、最大の見どころは「特殊メイクで竜王を演じる庵野秀明」だ。

実写版「スーパーマリオ」を評価する難しさ

さて「ドット絵時代のゲーム実写化」において最大の挑戦作でも問題作でもあるのが「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」(1993年)だ。この映画をめぐっては、評価が「ゲーム原作映画として大失敗」と「愛すべき90年代映画」の2つに分かれやすい。

「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」(写真提供:Buena Vista Pictures / Photofest / ゼータ イメージ)

「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」(写真提供:Buena Vista Pictures / Photofest / ゼータ イメージ)

まず、本作からは「スーパーマリオブラザーズ」をそのまま映像化する意図がまったく窺えない。しかし「マリオは配管工」という、ゲームファンでも忘れがちな設定を最初から最後まで守り抜いている。現実世界に顔も体型も丸いマリオを受肉させる主演俳優として、(当時)中年男性のボブ・ホスキンスを選んだのは完全に正しい。が、フィジカル的にそう動けそうにないので、ルイージを歳が離れた弟(マリオが育てた設定)にしてアクション担当にしたとも推測できる。実際、事実上の主役はルイージだ。

敵はカメではなく、恐竜帝国・ダイノハッタンのクッパ大統領。マリオらの大冒険を助けてくれるのは原作通りキノコ、ただしリアルタイプの菌類だ。ヒロイン・デイジーの父親も粘液を垂らす巨大キノコであり(逆進化銃で姿を変えられたとはいえ)味方の方が余すところなくホラーである。

「現実にどこか似た異世界でグロテスクな仲間が助けてくれる」とは「未来世紀ブラジル」や「トータル・リコール」の系譜に連なるSF作品でもあり、お約束のカーチェイスもあり(そのためホスキンスはケガ、劇中でもギプスをはめている)、その文脈で見れば決して悪い映画ではない。

が、子供たちは、ジャンプシューズで一瞬だけ跳ね、キノコを喰って巨大化することもなく「光線攻撃の盾にするだけ」のマリオを見たいだろうか。それもこれも、スタッフが誰も任天堂とほとんど連絡を取り合ってなかったから……との事情は「セガvs.任天堂 ゲームの未来を変えた覇権戦争(下)」(早川書房)に詳しい。

初代「モータル・コンバット」映画は「ゲーム愛」という点で画期的

ドット絵時代のゲームを実写化するにおいては、ドットと現実の距離がありすぎるため、「原作破壊」を避けることは難しかった。「ストリートファイターII」を原作とした「ストリートファイター」(1994年)が悪目立ちしなかったのは「破壊を最小限に抑えた」に過ぎない感もあるが、本作はむしろ実写映像が逆輸入されたゲーム「ストリートファイター リアルバトル オン フィルム」でキャプテン・サワダという唯一無二の名(迷?)キャラクターの誕生に繋がったことに意義がある。ハラキリを行うことで攻撃する「獄殺自爆陣」は必見だ。

「ストリートファイター」ビジュアル(写真提供:MCA UNIVERSAL / Allstar Picture Library / ゼータ イメージ)

「ストリートファイター」ビジュアル(写真提供:MCA UNIVERSAL / Allstar Picture Library / ゼータ イメージ)

そうした実写とゲームの距離を縮める上で「モータル・コンバット」(1995年)は打って付けだった。なにしろ、対戦格闘ゲームのキャラクター達が実写取り込みだったので「コスプレをした俳優らに殺し合いをさせればいい」というわけだ。

しかしポール・W・S・アンダーソン監督が本作を全米大ヒット作に仕上げられたのは、ハードルの低さ以上に「原作ゲーム愛」だろう。

武術家のリュウ・カンが殺された弟の復讐を誓い、闘神ライデンの導きで武術大会「モータル・コンバット」に出場。それは実は地球の戦士と魔界の邪悪な戦士が激突する、地球の命運を賭けた決闘だった。そんな大人向けのハリウッド映画では成立しにくい原作の話をそのままなぞり、手から蛇状のムチを出すスコーピオンや4本腕の巨人ゴローらと人間の格闘家が戦うのである。

それらをアンダーソン監督は大まじめに撮り、まるでスピード感がないとはいえ原作の対戦シーンに寄せていく。映画としてはB級というほかないが、監督の「原作ゲーム大好き」という姿勢がモーコン(略称)ファンの胸を打ったのだろう。中国とされている場面がどう見てもタイなど、原作のデタラメな(褒め言葉だ)オリエンタル趣味まで再現しているのだから。

「モータル・コンバット」(写真提供:NEW LINE / Allstar Picture Library / ゼータ イメージ)

「モータル・コンバット」(写真提供:NEW LINE / Allstar Picture Library / ゼータ イメージ)

「ホラーゲームの再現」をやり過ぎた「サイレントヒル」

最近でこそ実写映画化から遠ざかっているが、一時は台風の目だったのがコナミのゲームだ。しかも、このジャンルが「原作ゲーム愛」と「作品としての完成度」の間で引き裂かれやすいことを象徴する2つの作品がある。

1つは「ときめきメモリアル」(1997年)だ。原作は恋愛シミュレーションだが、実写映画版はヒロインの名前が藤崎詩織で「伝説の樹」という設定があるほかは、ほとんどゲームと関係ない。新人時代の吹石一恵や榎本加奈子らが演じるヒロインと主人公が、バイト先である海の家で交流……というには大半がキツく当たられるシーンばかりとはいえ、青春モノとしては情緒も余韻もある佳作。が、ゲームとほとんど関係ない(あえて強調する)。

もう1つは「サイレントヒル」(2006年)である。主人公が父親ではなく母親という違いはあるが、ホラーゲームの核である「恐怖」を完ぺきに移植している。すでにCG技術が進化したアドバンテージもあるが、車内に不気味に響くラジオのノイズ、血と錆、霧と灰にまみれたゴーストタウン、どちらを向いても絶望ばかり。話は「子供を探している内、宗教団体と悪魔の戦いに巻き込まれる」の一言にまとまってしまうが、現実をおぞましく歪めた「裏世界」への理解度は群を抜いている。

が、ひるがえって原作ゲームを知らない人にとっては「話が他愛ない」「ひたすらに怖い」「最後まで見ても救いがない」の三段重ねになる。原作ゲーム愛が強すぎるため、愛の圏外にいる観客にはエンタメになりにくいのである。いち「サイレントヒル」ファンとして言わせてもらえば、三角頭(レッドピラミッドシング)の恐怖を知らないのは人生の半分を損してると思うのだが。

「サイレントヒル」(写真提供:TriStar Pictures / Photofest / ゼータ イメージ)

「サイレントヒル」(写真提供:TriStar Pictures / Photofest / ゼータ イメージ)

「バイオハザード」第1作でのアンダーソン監督の功績

さて、今回の本題の1つとも言える「バイオハザード」(2002年)である。3Dのポリゴンゲーム、すなわち「ドット絵以降」のゲーム実写化映画を先がけた一作であり、近い時期の「トゥームレイダー」が考古学者アドベンチャー映画「インディ・ジョーンズ」を基にしている印象が強いのに対して「ゲームの中にしか存在しなかった世界」に寄せている。なにより、アンダーソン監督が「モータル・コンバット」映画の第1作に続いて成功させた、2本目のゲーム原作映画だ。

シリーズ第1作となる本作は、原作ゲームに出てくるキャラクターは(巨大企業アンブレラを除いて)誰一人として出てこない。が、洋館の地下に隠された極秘研究所、ハイテク施設の中にうごめくゾンビ達、怪物以上に死を突きつけるセキュリティ施設の罠、ドアを開けるたびに待ち受ける恐怖といったエッセンスの数々は、紛れもなくゲーム版の世界観やふんいき、プレイ感覚そのものだ。

「バイオハザード」(写真提供:Screen Gems Inc. / Photofest / ゼータ イメージ)

「バイオハザード」(写真提供:Screen Gems Inc. / Photofest / ゼータ イメージ)

そもそも主人公のアリス(ごぞんじミラ・ジョヴォヴィッチ)は、原作にいないオリジナルキャラだ。が、それは原作ゲームを知らない人でも楽しめる作品づくり、「バイオハザードという世界が主役」という映画の完成度に確かに繋がっている。すでにCG時代に突入していたものの、本作は低予算(3300万ドル)のためか、ほとんどの見どころは実物の手作りだ。衝撃的だった「レーザートラップに人間が切り刻まれる」シーンも、全身の型を取った等身大フィギュアを細切れにしているという。

原作にはないが「アンブレラはこういうことする!」的に説得力あるアイディアは本家のゲームにも逆輸入され、アンダーソン監督の理解度の深さと熱意を裏付けることになった。

本作が低予算にもかかわらず大ヒットしたことで、映画「バイオハザード」シリーズは全6作、約15年にわたる長寿作となった。「II」ではラクーンシティや原作の人気キャラであるジル・バレンタインも登場し、原作へのリスペクトも大好評だった。

が、完結作「ザ・ファイナル」までの他のシリーズ作での原作愛は……あくまで「ミラ・ジョヴォヴィッチ映画」だった、に尽きるだろう。

「名探偵ピカチュウ」と「ソニック・ザ・ムービー」はゲーム実写化の到達点

ゲーム原作の実写映画が20年以上の歳月を積み重ねたなかで、2021年現在の到達点と呼ぶに相応しいのが「名探偵ピカチュウ」(2019年)と「ソニック・ザ・ムービー」(2020年)の2作だろう。

まず「名探偵ピカチュウ」は人間とポケモンが共存する世界で、主人公の少年が言葉をしゃべるピカチュウのバディとなって事件を調べるというお話だ。サラリと書いたが、街の至るところに普通にポケモンが棲息し、闘技場のような形とはいえジムバトルが日常に定着した世界を隅々まで再現している執念。そしてピカチュウの仕草や表情が可愛らしく、ライアン・レイノルズ(デッドプール!)の大人の声との落差が可愛さを増している周到ぶりだ。バディものとしての完成度もさることながら、ポケモン達をリアルにしながら「不気味の谷」を易々と超えていることに驚くばかりだ。これはスタッフの有能さ以上に、20数年にわたる「ピカチュウとの付き合いの長さ」(アニメ版を含む)抜きにしてあり得ないはず。

「名探偵ピカチュウ」(写真提供:WARNER BROS. / Allstar Picture Library / ゼータ イメージ)

「名探偵ピカチュウ」(写真提供:WARNER BROS. / Allstar Picture Library / ゼータ イメージ)

かたや「ソニック・ザ・ムービー」は、ある意味で逆の道をたどった。当初の公開予定だった2019年11月が間近に迫るなかで予告が公開され、そこでお披露目されたキャラクターデザインは手足も長く頭身も人間の成人のよう、後頭部の毛並みは柔らかく垂れ下がっていた。要は原作の「ハリネズミ」感が微塵もなかったことで、ネットで大炎上してしまった。30年近いシリーズだけに、パブリックイメージからかけ離れたのはまずかった。

本作が目覚ましいのは、そこからの巻き返しだった。すぐさまジェフ・フォウラー監督がTwitterでキャラクターデザインの変更を約束し、本当にゲームのままに「頭が大きく、目玉が(ほぼ)つながり、ハリネズミ感のある」ソニックに差替えられたのだ。公開はわずかに延期されて2020年初めとなったものの、その程度で映画全編にわたるVFXの修正作業が間に合ったことが大きな驚きを呼んだ。

ドラマ本編は「宇宙から来た超音速のハリネズミ」の孤独を掘り下げ、人のいい警官とのロードムービーという体を取りつつ、原作ファンにはニヤリとできる小ネタをちりばめた快作となっていた。もともと原作ゲームに対する理解度が深かったから、主役デザインの変更にまつわる混乱も最小限に抑えられたのかもしれない。

「ソニック・ザ・ムービー」(写真提供:Paramount Pictures / Photofest / ゼータ イメージ)

「ソニック・ザ・ムービー」(写真提供:Paramount Pictures / Photofest / ゼータ イメージ)

この2作により、ゲーム原作の実写映画は「原作に対する深い理解」と「予備知識なしでも楽しめる一般性」の両輪という、新たな基準が打ち立てられたといっていい。その後に公開されたリブート版「モータルコンバット」(2021年)は前者に振り切ったことで、20年以上もの厚みある原作のファンコミュニティから支持を勝ち得た。その一方で、「バイオ」シリーズでの功労者アンダーソン監督が再び手がけた「モンスターハンター」(2020年)は、またしてもミラ・ジョヴォヴィッチ映画に……。

特に「モンハン」シリーズは多彩な武器や細かに設定されたモンスターたちの生態など、ディティールにこそ命が宿っているゲームだ。本作は逆説的に、今やゲーム実写化映画の監督にとっては「原作ゲームをとことんやり込むこと」が必修科目になったと証明したのかもしれない。

製作費・全世界興行収入 一覧

「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」(1993年)
製作費 4800万ドル / 全世界興行収入 2091万ドル

「ストリートファイター」(1994年)
製作費 3500万ドル / 全世界興行収入 9943万ドル

「モータル・コンバット」(1995年)
製作費 1800万ドル / 全世界興行収入 1億2219万ドル

「バイオハザード」(2002年)
製作費 3300万ドル / 全世界興行収入 1億298万ドル

「サイレントヒル」(2006年)
製作費 5000万ドル / 全世界興行収入 1億60万ドル

「名探偵ピカチュウ」(2019年)
製作費 1億5000万ドル / 全世界興行収入 4億3392万ドル

「ソニック・ザ・ムービー」(2020年)
製作費 8500万ドル / 全世界興行収入 3億1971万ドル

「モンスターハンター」(2020年)
製作費 6000万ドル / 全世界興行収入 4214万ドル

「モータルコンバット」(2021年)
製作費 5500万ドル / 全世界興行収入 8360万ドル

※数値はIMDbおよびThe Numbersから引用

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