マンガ大賞2025 ノミネート10作品をマンガ系ライター4人が勝手に大予想

マンガ大賞2025 ノミネート10作品をマンガ系ライター4人が勝手に大予想

「どくだみの花咲くころ」? 「路傍のフジイ」? 「ふつうの軽音部」? 1年間の話題作を振り返り

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小林聖のノミネート予想作品は……

「マンガ大賞」は今やマンガ界を代表する影響力を持つアワードであり、比較的ノンジャンルで王道のラインナップの賞という印象です。それでもいくらか傾向めいたものやポイントを考えるなら以下のようなものでしょうか。

①全年齢的に薦めやすく、読み応えのある作品

「マンガ大賞」全体に関して大きな傾向があるとしたら、ポジティブな作品が強いという点。過去の大賞作品やノミネート作品を見ても、絶対ではないですが、どちらかというと全年齢的におすすめしやすい作品が人気を集めやすいのかなと感じています。また、何も考えずに楽しめる作品より、ある程度読み応えのある作品が好まれる傾向もあると思います。

②その年を代表する勢いのある作品

厳格な基準があるわけではないですが、バズに限らず、店頭での動きや盛り上がりなど「今年これを入れないわけにはいかない」というタイトルはあり、そこはやはりはずしません。

③レギュレーションラストイヤー

「マンガ大賞」には「前年末で単行本8巻までの作品」というレギュレーションがあります。そのため、コメントを見ていても「今年が最後のチャンス」というのが後押し材料になることもしばしばあります。逆に「1巻が出たばかりでまだチャンスはあるからもう少し様子を見よう」となるケースもあるように感じます。

④ヒットのきっかけがほしい作品

アワードは「その年を振り返る」役割もあれば、「まだ十分知られていない作品にヒットのきっかけを与える」役割もあります。「マンガ大賞」はマンガに興味はあるけれどそれほどディープではない人に面白いマンガを伝える、既刊8巻までと十分に広まっていない比較的若い作品に限定するというコンセプトを見ても、後者の意思が強いアワードです。放っておいてもヒットするだろうという作品やメディアミックスなどが進んだ作品より、もうひとまわり大きいヒットに期待したい作品に票が集まりやすい傾向です。

このあたりを踏まえたうえで、勢いのある作品を考えていくと、やはり鉄板級だろうというのは「ふつうの軽音部」。「次にくるマンガ大賞2024」Webマンガ部門第1位をはじめ、「このマンガがすごい!」オトコ編・フリースタイル「このマンガを読め」ともに2位と、毛色の違う賞レースで軒並み名前が挙がっています。刊行ペース的におそらく今年が最初で最後ということもあり、ノミネートはほぼ間違いないでしょう。

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近いイメージなのが「ザ・キンクス」。大ベテラン・榎本俊二の作品ですが、「榎本俊二って下ネタギャグでしょ?」というイメージがある人にも「いや、違うんだ!」と伝えたくなる感じも含め、名前が挙がりそう。

手に取るきっかけを作りたいという意識が強く出そうな作品としては「路傍のフジイ」が筆頭でしょうか。実際に読まないと魅力が伝わりづらく、面白さをとらえにくい作品だからこそ「読むきっかけをあげたい」という心理が働きそう。刊行2年目となって巻も進み、作品の全体像が見えてきたのも「入り頃」という印象です。同じく読んでみないとわからないけれど唯一無二の読後感がある奇妙な友情ドラマ「どくだみの花咲くころ」も注目作です。

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現在2巻までで大ブレイク前夜の雰囲気があるのが「ありす、宇宙までも」。優しく、勇気が出る内容は「マンガ大賞」の傾向にもフィットします。

1巻刊行後長期休載となったことでブレイクタイミングを一度逃した感のある「ルリドラゴン」は、昨年1年半ぶりに連載が再開。新刊刊行もあり、今こそ改めて推したいという心理が働いてもおかしくないと思いチョイスしました。

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寓話的で鮮烈な印象を残す「きみの絶滅する前に」は、単巻だからこそ今年入れておきたい人が多い気がします。

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入り頃でいうと「いつか死ぬなら絵を売ってから」も。芸術というジャンルを商業面から見せてくれる新しさに、サクセスストーリー的な熱さ、現在5巻までというタイミングも加味して今年入ってきそうなタイトルです。

新進レーベルの注目作としては「若草同盟」。2023年にスタートしたマガジンハウスのWebサイト・SHUROの作品ですが、同サイトは注目作が多く勢いを感じます。

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最後は予想というよりほぼ個人的な願望ですが、「雷鳴りて春来たる」を挙げておきます。連載媒体の路草も注目作が多いレーベルですが、フレッシュでグッとくる1作。売れてほしいです。

小林聖

1981年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。インタビューやレビューなどマンガを専門に執筆。長年Twitter上で年間マンガアワード「俺マン」運営なども行っていた。

ちゃんめいのノミネート予想作品は……

書店員を中心とした各界のマンガ好きの選考員によって選ばれる「マンガ大賞」。選考員には、利害関係が発生しそうなマンガ関係者(作家・編集者)を除外している点、そして本賞の運営は無報酬で行われていることから、公正性が高いというか、「これ最高だから読んでくれ!」というマンガ好きなら一度は発したことがあるような、あのなんともいえない熱量によって成り立っている賞のように思います。

とはいえ選考員の特性なのか、近年のノミネート作を振り返ると、社会において透明化され続けてきた存在に光を当てるような物語や、一筋縄ではいかない複雑な心模様を描いた物語など、“人”を深く真摯に描いた作品がノミネートされる傾向にあると感じます。そう考えると、世の中の普通や常識といった自分を縛るものに抗う意欲作「ボールアンドチェイン」や、果てしない悲しみや怒りをリリックに込めて這い上がる、凄まじい生命力に満ちた「スーパースターを唄って。」、圧倒的な表現力で鬱屈した日常と暴走する片思いを描いた「恋とか夢とかてんてんてん」あたりは欠かせないと予想。

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また、“人”から派生して、人生を変える出会いや、人が次なる一歩を踏み出す瞬間の尊さを見事に描いた作品たちにも注目が集まっていそうです。例えば、学びによって広がる、自分の無限の可能性を教えてくれる「ありす、宇宙までも。」。何気ない日常の中にある輝きを再発見する「路傍のフジイ」。そして、夢を持つことの尊さだけではなく残酷さも包み隠さず描いた「夢なし先生の進路指導」や、どん底から自分の人生を再構築していく「この世は戦う価値がある」などもノミネートされるのではないかと期待しています。

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一方で、やはり各界のマンガ好きが選考員を務めているだけあって、その年の話題作(むやみに話題作を追うのではなくかなり厳選している印象)に加えて、作家さん推しという選定基準もあるように感じます。

話題作でいうと、まずはヤンマガ史上最速でヒットを記録した「ねずみの初恋」。なんの躊躇いもなく人を殺し続けてきた殺し屋の少女が一般人の男性に恋をするというお話なのですが、殺し屋としてのハード&バイオレンスな展開と初々しすぎる恋愛描写の甘酸っぱさ。このとてつもない振れ幅と感情の揺らぎが、目を見張るほど鮮烈に描かれています。2024年に話題になった作品の中でも本作は頭ひとつ抜けていると思います。

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その流れでいくと「ザ・キンクス」も欠かせない! デビュー35年目となるギャグマンガ界の鬼才・榎本俊二先生が手がける本作は、とある地方都市に暮らす4人家族・錦久家(きんくけ)の日常を描いたホームコメディ。義実家へ顔を出したり、娘の三者面談に参加したり、物語の入り口は至って平凡な日常なのですが、気づけばあっという間に予想だにしない世界へと連れていかれてしまう。セリフやアングルといったマンガ表現も含めて驚きと疾走感に溢れている作品です。

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そして、作家さん推しの観点でノミネート作を予想する前に、少しだけ詳しく説明したいのですが。例えば、和山やま先生は2020年には「夢中さ、きみに。」が、その後は2021年に「カラオケ行こ!」と「女の園の星」、後者に関しては2022年、2023年と連続で、さらに2024年には「ファミレス行こ。」がノミネートされています。ほかにも、2023年に大賞を受賞した「これ描いて死ね」のとよ田みのる先生は、2019年の時点で「金剛寺さんは面倒臭い」がノミネートされているなど。つまり、大好きな作家さんを長く応援し続け、作品をじっくりと愛読している選考員の方がいるのでは?と推測します。

となると、2021年に「水は海に向かって流れる」で4位にノミネートされた田島列島先生の最新作「みちかとまり」は期待大! 竹藪に生えていたみちかと、それを見つけたまり。みちかは人間か神になるか決まっていない不思議な存在で、まりはそれを決めることができる。日本古来の神道をベースにしたようなファンタジーで、人間とこの世のものではない何かの境界線で繰り広げられる青春や恋愛模様……。もはや過去にノミネートされたことがあるという事実関係なく、新たな田島列島ワールドを見せてくれる同作は、選考員の心も惹きつけるのではないでしょうか。

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ちゃんめい

マンガライター。マンガを中心に書評・コラムの執筆のほか作家への取材を行う。宝島社「このマンガがすごい!2024、2025」にてアンケート参加、その他トークイベント、雑誌のマンガ特集にも出演。

コラム

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粟生こずえ @AouKozue

4名のマンガ系ライターによる〈マンガ大賞2025ノミネート作品大予想〉に参加しました〜。小田真琴さん、小林聖さん、ちゃんめいさんの予想記事と読み比べてみてくださいませ✨✨✨ https://t.co/rtWsZXf5fN

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