アニメスタジオクロニクル No.15 GONZO 石川真一郎

アニメスタジオクロニクル No.15 [バックナンバー]

GONZO 石川真一郎(代表取締役社長)

30年先を見据えたアニメ制作

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制作機能の譲渡をきっかけに、新たな制作体制の模索へ

野心的な作品を作り続ける姿勢は、作品ファンだけでなくGONZOというブランドの支持者も生み出していた。好評な作品を生み出しながらもGDHの経営不振が続く中、株主たちからかけられた声を石川は今でも覚えているという。

「2004年にGDHが上場した時に掲げた目標が1000時間分のコンテンツを作ろうというものでした。TVアニメ1話を30分と計算して2000話分作ろうと。当時は1クールものも多かったので大体120~130作品ですね。それで資金を投入して多くのアニメを作り続けていたけど、ある時DVDバブルが崩壊したんです。そして赤字が3期続いて債務超過になり、2009年に一度上場廃止になりました。

石川真一郎氏

石川真一郎氏

そこで『PE』と言われる投資ファンドに80%くらい株を買っていただいたんですけど、既存の株主から全部は買い取れず、最終的には既存の株主が5000人くらい残ってくれました。もう株価は当初の100分の1くらいになっていたのに、皆さん『株は金のために買ったんじゃない』『GONZOのビジョンが好きだから買ったんだ』と応援の声ばかりで。株主総会でそんなふうに言っていただけたときは涙が出たし、当時、当社の株主総会の運営をサポートしていた金融機関の人達に『こんなに応援される社長や温かい株主総会は初めて見た』と言われました」

この前後からGONZOを巡る体制は激動する。2008年にいわかぜキャピタルからの出資を受けると、2009年にGDHはGONZOを吸収合併し、商号をGONZOへ。さらに2016年にはアサツーディ・ケイ(ADK)の子会社となる。

「いろいろありましたよ。例えば当時の親会社だったいわかぜキャピタルはさらに増資する予定だったけど、リーマンショックなど想定外の状況もあり完全には実現されなかった。それでGDHは自力で生き残る必要が出て、当時好調だったゲーム部門などを売却し、ひとまずアニメに集中するしかなくなりました。ただアニメを制作するにもお金が必要なので、ひとまずGONZOが持っているコンテンツの権利をきちんと運用して利益を最大化する仕組みを作るという方針にしたんです。それで2010年は元請け作品がなし。その時点で梶田さんは退職していましたし、新作をあまり作れなくなったこともあって村濱さんも、当社を既に退職しておりました。

ADKさんに親会社が移行したのも大きかったです。ADKさんの傘下に入ったことでGONZOは好き勝手できず……大企業だから当たり前なんですけどね。ちゃんと工数管理をするなど組織的な作品づくりをするようになって、僕としてもいい勉強になったし、経営もようやく落ち着いてきました」

そして2019年、GONZOはアニメ制作事業などをADKグループに新設されたスタジオKAIに承継する。翌2020年には石川が、ADKグループが保有するGONZOの全株式を取得することでADKグループからの独立を果たした。

石川真一郎氏

石川真一郎氏

「ADKさんは、次のステップに進むために制作会社が欲しいという意図がありました。だからGONZOの制作部門を譲り、残った部分の株式を僕が購入することで独立しました。そんな経緯があったので、義理立ての意味もあってGONZOとして自社ブランドのアニメを作るのは一定期間自粛することにしたんです。

ただ、個人的には2000年代中盤にデジタルでの制作が普及し、個人が自宅で作業できるようになったときから制作会社にクリエイターが集まって作るのは古いと思っていたんです。もちろんアフレコや編集などどうしても人が集まらないといけないときもあるし、新人さんの教育の場として必要なんでしょうけど、従来のアニメスタジオという形ではなく、次の世代の仕組みを作りたかった。だって優秀なクリエイターにとって一番馬鹿馬鹿しいのはスタジオまでの通勤時間でしょう(笑)。だから自分たちで望んだわけではなく親会社の意思決定によってではありましたが、新しいスタイルのアニメスタジオを中長期的に模索するという意味ではいい方向に作用したと今では感じます」

次の30年を見据えた新たな仕組みによるアニメ制作を進行中

アニメ制作を自粛しながらも、独立したGONZOは新たなプロジェクトをスタートさせる。2021年に始まった「SAMURAI cryptos」は、NFTの仕組みを利用してアニメIPの創出に挑戦するプロジェクトだ。「伝説の侍」をテーマにした同プロジェクトには、GONZOに関わってきた7人のクリエイターがアート制作で関わっている。

「SAMURAI cryptos」ビジュアル

「SAMURAI cryptos」ビジュアル

「新しいアニメ制作の仕組みができたとしても、作るものがないといけない。そう考えた時に、GONZOらしく最先端をやろうとした時に注目したのがNFTでした。アニメ業界でNFTが付く対象として一番想像しやすいのが絵なので、まずはGONZOと仲のいいクリエイター7人にキャラクターを描いてもらいました。これを起点に、5年計画で最終的にはTVアニメか映画にしようというのが『SAMURAI cryptos』です。今年の夏コミではアニメーターの横山愛さんが監督するPVも発表予定で、そこからプロジェクトを次に進めようと考えています。

ちなみに侍をテーマにしたのは、GONZOは海外で日本の侍の会社だと思われているから。過去に作った作品に侍を扱ったものが多いし、海外のコンベンションなどによく行く私の髪型もそうだし(笑)。あと海外で有名な日本の言葉って忍者と侍ですけど、忍者は隠れてコソコソやる一方で、侍は切り開くというイメージがあるじゃないですか。だからGONZOが新しく世の中に売り出していくコンテンツは侍だろう、ということで決めました」

また「カレイドスター」と同じように、熱狂的なファンの存在によって次の展開が生まれたものもある。GONZO制作で2018年に放送された「かくりよの宿飯」の続編だ。

「『かくりよの宿飯』の続編が決まったのは海外ファンのおかげです。世界最大手の動画配信サイト・Crunchyrollで男性のユーザーが多い中で、女性向けながら男性向けの人気作品と同じくらい観られたのが『かくりよの宿飯』だったそうです。だからCrunchyrollにとってあの作品はすごく重要で『絶対に続きを作ってほしい』という話をいただいて、少し前の作品ですが続編の制作が決まりました。

「かくりよの宿飯」キービジュアル ©2018 友麻碧・Laruha/KADOKAWA/「かくりよの宿飯」製作委員会

「かくりよの宿飯」キービジュアル ©2018 友麻碧・Laruha/KADOKAWA/「かくりよの宿飯」製作委員会

『かくりよの宿飯』がなぜそんなに支持されたか、Crunchyrollの人も含めてみんなで分析したんですけど、ファンタジーで、しかも日本食が出てくるという海外ファンにウケる要素が揃っていたのがよかったんでしょうね。もちろんそれは憶測ですが、世間的には珍しい作品、ケレン味のある作品を作ってきたGONZOの価値が認められた思いがあります。ちなみにこれら2作のほかにも、2025年から2026年に向けて展開するタイトルがあります。それは一見GONZOっぽくないけど……まあ『カレイドスター』を作った会社なので(笑)。それも含め、今後は次の30年を見据えた新たな仕組みによって作られた、新しいアニメを世の中に問うていくので楽しみにしていてください」

石川真一郎氏

石川真一郎氏

石川真一郎(イシカワシンイチロウ)

1967年1月31日生まれ、東京都出身。株式会社ゴンゾ代表取締役社長。海外コンサルティング会社を経て2000年に株式会社ゴンゾ・ディジメーション・ホールディング(現株式会社ゴンゾ)を設立。「カレイドスター」「アフロサムライ」「かくりよの宿飯」などを手がける。

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