4Kリマスターは“お化粧直し”
4Kリマスターにあたり総監修を務めた押井監督。これまでもリマスター作業をこなしてきた押井監督だが、今作に関しては「美術監督の(小林)七郎さんや、色指定の保田(道世)さんたち専門家が見るべき作品なんですが亡くなられているので、私がやるしかないということでチェックさせていただきました」と述べる。そこまで力を入れるのには、特別な思い入れがあったのかと聞かれると「(『天使のたまご』は)世にうまく出られなかった娘みたいなもので。40年経って手元に戻ってきた感じで、きれいなお化粧直しをして世の中に出してもらえるって話なんで、ちょっと親として責任があるな」と話した。
当時はOVAがどういうものなのか誰もわかっておらず、値段にしても適正価格がわからない状態だったと押井監督は言う。徳間書店には「印税がどれくらい入るかわからないが、私が責任を持つのでやってみませんか?」と2時間ほどかけて説得。そこから1年ほどは無収入で制作を進めていたと話した。誰もが手探りで右も左もわからない、勝算がないという状況の中、なぜそこまでして作り上げたのかと聞かれると、「やってみたかったから」と回答。前年1984年に公開された「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」で“イケイケ状態”だったという押井監督は「その頃、自分なりにアニメーションに自信を持ち始めた時期で。今までとは違う、ストーリーやキャラクターに依存しない、表現力そのもので映画を成立させたいと思っていたんです。“イケイケ”だったので、変な映画作っても観てくれるんじゃないかと(笑)。やるとしたら今しかないと思いました」と語った。
撮影は1台のカメラで
スタッフ陣には1人ひとり参加を説得して回ったと説明する押井監督。「僕だけでは何もできないので、あなたがやってくれないと勝算が出てこない、と説得して。説得できなければ終わりだと思っていましたが、結果的にこういう作品をやってみたいという人はいっぱいいたんですよ」と当時を振り返った。また「天使のたまご」はすべて同じ1台のカメラで撮影していたことも明かす。「撮影スタジオの責任者だった(杉村)重郎さんから『これは俺が全部自分で撮る』という申し出があって。映画で1人が1台で全部を撮影するってなかなかないことなんですよ。そういう意味で言うと、1フレームずつとにかく丁寧に、最善の手を尽くして撮りたいという、やっぱり職人の夢みたいなものが入っているなと。とことん作り込んでみたいっていう力がなかったら、たぶんできなかった」と当時のエピソードを披露した。
達成感を求める人たちがいたからできたこと
限界に挑戦するスタッフが自発的に集った「天使のたまご」の現場。想像通りだったかと聞かれると、「ちょっと驚きましたけど、でもやっぱりスタッフは職人さんなので、自分でやり尽くしたいという欲求は絶えずあるわけで。そういう達成感を求める人たちがいたから(『天使のたまご』が)できたと思います」と語る。また現場に求心力を出すには、アニメーションの作品内容としてのテーマと、技術的なテーマの2つが必要だと説明。そのためにも技術的な冒険は毎回何かしら続けていくべきで、「その結果としてスタッフやスタジオ自体のスキルが残り、さまざまな作品に応用されていくのが理想」だと語る。そして「そのためにも一線を超えるような、やりすぎちゃう作品が定期的に作られていかないと、スタジオのスキルが上がっていかないと思う」と訴えた。
今回の4Kリマスターにもそういったチャレンジがあったのかと問われると、リマスターという作業にもクリエイティブな欲求と力が必要だと回答。「もともとモノラルでミックスされていた音響を分離して、再びミックスし直す必要があるんですよね。ある程度昔のものを再現しながら新しい次元に持っていくのはとても難しいことなんです。ゼロから作ったほうがやっぱり楽なんですよ。ただ今回、音響は若林(和弘)におんぶにだっこで。『頼むね』ってお願いしました」と笑顔を見せた。
「天使のたまご 4Kリマスター」
2025年11月14日(金)ドルビーシネマ先行公開、11月21日(金)全国順次公開
提供:徳間書店
配給:ポニーキャニオン
オリジナルスタッフ
製作:徳間康快
企画:山下辰巳、尾形英夫
原案:
プロデューサー:三浦光紀、和田豊、小林正夫、長谷川洋
監督・脚本:押井守
アートディレクション:天野喜孝
美術監督・レイアウト監修:小林七郎
作画監督:名倉靖博
作曲:菅野由弘
音楽監督:菅野由弘
音響監督:斯波重治
撮影監督:杉村重郎
編集:森田清次
キャスト
少年:根津甚八
少女:兵藤まこ
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押井守さんと同じ誕生日なのを思い出した。 https://t.co/GVHuJ7Rf9q