「よつばと!原画展」の魅力は、“描く”の前まで知れるところ
──現在「よつばと!原画展」が豊島区立トキワ荘マンガミュージアムで開催中です(※11月26日まで)。2019年の開催を皮切りに全国を巡回しているものとなりますが、鈴木さんはこちらに立ち上げから関わっていらっしゃるそうですね。そもそも、手塚プロダクションさんがどうして「よつばと!」の展示をやられているのか不思議に思っていたのですが、そのあたりから教えていただけますか。
国立の美術館から小さなギャラリーまで、何度も手塚の展示をやってきた経験があるので、そのノウハウを活かして、会場さんとのコーディネートだったり、施工会社さんとのやりとりだったり、あちこちのお手伝いをさせてもらってるんです。「よつばと!」もすごく素敵な作品だから展覧会をやりたいと社内で盛り上がり、よつばスタジオさんにお話を持ちかけてみたら「ぜひ」と言ってもらえまして。ところが、普通はこちらから展覧会の内容をご提案したりするところ、「やりたいことがある」とアイデアを出してくださったので、私たちはその思いを汲み上げる役割にシフトしました。ですので、「よつばと!原画展」はうちが全部企画したものではない、というのはお伝えしておきますね。
──その「やりたいこと」というのが、資料やネームまで見せる展示だった。
ええ、「マンガがどういうふうにできていくかを見せたい」とおっしゃっていて。何も描かれていない白い原稿用紙が、いろんな工程を経て、少しずつマンガの原稿になっていく。だから展示も、何も描かれていない白い原稿用紙から始まってるんです。私自身、マンガの裏側については知らないこともあったから、設営準備をしていてすごく面白かった。
──それはどんな部分ですか?
一番は資料ですね。一生懸命描いている姿だったら、手塚も映像が残っていますけど、作家さんには“描く”の前段階があるんですよね。
※石が登場するのは「よつばと!」15巻第100話。よつばたちが“いしひろい”に行くエピソードだ。
トキワ荘マンガミュージアムの展示では新コーナーに大行列
──「よつばと!原画展」はあちこち巡回されていますが、そのたびに少しずつバージョンアップされていますよね。描き下ろしイラストがあったり、展示が増えていたり。
毎回会場を見てどうするか考えてくださってます。だから毎回、少しずつ表情が違うんですよね。
──今回のトキワ荘マンガミュージアムの展示で、来場者の反響が大きいコーナーはどこですか?
今、頭に浮かんだのは、展示室の外に置いてある、よつばの顔を描けるコーナー。あのコーナーは今回の巡回で初めて加えたものなんですが、行列ができるくらい大人気です。みんな自分でも描いてみたいんだなって思いました。それから、2階の四畳半の部屋に置いてある等身大ダンボーもぜひ見てください。あれはあそこに置いただけなのに、めちゃくちゃハマっちゃって(笑)。言葉では説明しづらいんですが、妙なレトロ感、エモみがあって、きっと写真を撮りたくなると思います。どちらも原画の話じゃなくて申し訳ないんですが、でもマンガを楽しめてるなら、マンガの展覧会としては正解ですよね。エンタテインメントの部分と、美術的な部分の両方が合わさっているから、そういう意味で「よつばと!原画展」はバランスがいい展覧会と言えると思います。コンセプトもしっかりしていますしね。
──私が「よつばと!原画展」を初めて観たときは、原画がオモテからもウラからも観られるようになっていたのがとても新鮮でした。資料がずらーっと並んでいるのも圧巻でしたし、紹介されていた画材をメモして、近くの文房具店で同じペンを買って帰ったりもしました(笑)。
お話を伺っていても、とても楽しそうでいらっしゃる。それを感じられるのがいい展覧会だと思いますよね。原画をこれでもかと展示しているだけだと、きっとそうはならないですから。だから展示の仕方次第、伝え方次第だと思います。
──意外にほかの人とそういう話をしてこなかったかもしれません。自分の中で「ああ、よかった」という気持ちを抱えて帰ってはいるけど、誰かと「あの原画展、ここがよかったよね」と話し合う機会はなかなかなくって。
それはもったいない。同じ展示でも、人によって見る部分が違ったりしますから、きっと新しい発見がありますよ。それをわかっていただけてうれしいです。
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