アニメスタジオクロニクル No.2 WIT STUDIO 中武哲也

アニメスタジオクロニクル No.2 [バックナンバー]

WIT STUDIO 中武哲也(共同創設者 / 取締役)

「進撃の巨人」で定まったスタジオの路線、「SPY×FAMILY」で広がった仕事の幅

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「SPY×FAMILY」で芽生えたCloverWorksという制作会社との仲間意識

こうして会社として盤石な体制を作り上げる中で、ターニングポイントになった作品を聞いてみた。すると中武氏が挙げたのは「進撃の巨人」と「SPY×FAMILY」の2作だった。

「『進撃の巨人』でスタジオの仕事の路線が定まり、それから10年経って『SPY×FAMILY』が仕事の幅を広げてくれました。それに、10年の間にスタジオの中心メンバーに家族ができたり子供が生まれたりして、かねてより『お父さん、お母さん、子供たちにも観てもらえるアニメーションを作りたい』という願いがあったんです。そこで奇跡のような『SPY×FAMILY』という原作と出会えた。アニメ化を任せてもらえて、しかもヒットしたので幸せなことです」

中武氏がターニングポイントとして挙げた「SPY×FAMILY」はWIT STUDIOとCloverWorksとの共同で制作されている。彼はこの試みが同社にとっても、アニメ業界的にもエポックメイキングだったと強調する。

「CloverWorksとの共同制作は新しい取り組みでした。現在、TVアニメをコンスタントに作り続けることは非常に難しい状況になっていますが、毎年『SPY×FAMILY』を世の中に送り出すことができるのは、ひとえにCloverWorksとの協業でできたから。そのおかげで2023年にTVシリーズのSeason 2と映画をお届けできるように、みんなに楽しんでもらう期間が増やせています。

「SPY×FAMILY」第2クールキービジュアル (c)遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会

「SPY×FAMILY」第2クールキービジュアル (c)遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会

かつてうちとCloverWorks、コミックス・ウェーブ・フィルム、MAPPAの4社でやっていた『アニスタ』というイベントがあり、そこでCloverWorksのプロデューサー・福島祐一さんと親しくなったのがこの試みのきっかけです。そしてCloverWorksの清水暁社長が大きな調整をしてくださって、一緒に『SPY×FAMILY』を作れることになりました。こうした体制を作れたのは、業界的にも革新的だったはずです。

今後は、こうした戦略的な動きやどういうビジネスを思い描くかがアニメスタジオにとって一層大切になるはずです。限られた社内のリソースをどういう形で割り振るか。その判断によって5年後、10年後の展開が大きく変わるでしょうから、そこは経営チームで毎週相談しています」

全25話のうち奇数話をWIT STUDIO、偶数話をCloverWorksが作成し、高いクオリティを保ちつつ制作された「SPY×FAMILY」は、多くの読者がご存知の通り大ヒット。その連携の秘訣は、密なコミュニケーションにあった。

「CloverWorksとはめちゃくちゃコミュニケーションを取っています。向こうのデスクさんや設定制作さんが語る悩みを聞いたりそれを解消することも(笑)。それはお互い様で、おかげで制作上のリスクを分散できました。共同プロジェクトなので、CloverWorksはもはや仲間です。その一方で別の意識もあって、TVシリーズで特に見どころのある話数が送り出せたのもCloverWorksさんと一緒にやれたから。お互いに、相手がいい話数を出してきたら、もう一方が『もっといい話数を作ってやるぞ』みたいになるわけですよ(笑)。口には出さないけど競い合っていた気がします。」

中武哲也

中武哲也

他社との連携という面では、少し違った試みになるが「進撃の巨人」も同様だろう。WIT STUDIOは「Season 3」までを制作し、同作の大きな転換点となるマーレ編以降を描く「The Final Season」をMAPPAが制作することになった。

「MAPPAには設定なども含めて資料を全部渡し、スタッフ同士の交流会みたいなこともやりました。そこでは悩みごとを聞いたり、聞いてもらったりして(笑)。我々としても『進撃の巨人』が高いクオリティでいい着地をするのが幸せなことに決まってますから。画面に対するアプローチは会社によってかなり違うので、結果的にはそれぞれの味わいが出てよかったと思います」

スタジオ内で良質なアニメーションが生み出せる環境作り

WIT STUDIOと言えば多くのアニメファンが思い浮かぶのが作画の充実ぶりだろう。同社はその武器を伸ばそうといくつかの試みを行っている。その1つが2021年から開始したアニメーター育成プログラム・WITアニメーター塾だ。

「アニメ業界で、育成に集中してくれる現役のアニメーターはすごく貴重です。WIT STUDIOだとこれまで作画監督として『進撃の巨人』なども死ぬほど支えてくれた手塚響平さんというアニメーターがいて、彼が教育に専念すると言ってくれたことでこのプロジェクトを始めることに踏み切れました。

WITアニメーター塾では書類審査や面接を経て、真面目で一定以上の速度を出せそうなアニメーターになりそうな方を対象にWIT STUDIOがお金を支払い、研修してもらっています。まずは動画研修としてササユリ動画研修所の舘野仁美さんが動画を教えてくださるんですが、研修という短い期間でプロのアニメーターになるためのイロハを学ぶわけですから、なかなかシビアです。そこを乗り越えて手塚さんによる原画指導を受け、ようやく育った人材が現場に投入され始めたのが今年の1月でした。

現在は6人が現場に入っており、『SPY×FAMILY』にも参加してもらっています。まだフリーのアニメーターさんに協力してもらうことも多いですが、今後はよりスタジオ内で良質なアニメーションが生み出せる環境にするため、5年後には社内アニメーターが50人以上、10年後には100人以上増えている想定で育成していきます」

新人育成を目的としたWITアニメーター塾だけでなく、既存のスタッフの飽くなき挑戦も見逃せない。彼らは現行シリーズ作品やその他のさまざまな映像作品などで映像的実験を繰り返している。

「例えば今年の3月に公開された『TOHO animation ミュージックフィルムズ』の『COLORs』には実験要素も多分に盛り込まれています。荒木監督のこれまで蓄えてきたアイデアがありつつ、彼がこれまでと違うスタッフとフィルムを作ったらどうなるかというチャレンジもしていて。そのおかげでこれまでのWITでは出なかった画面設計に仕上がっていると思います。ほかのスタッフも含め、こういった映像的な技術革新や試行錯誤はこれからもどんどんやっていきます」

アニメ会社がオリジナルストーリーを生み出すため…Webtoonを制作中

今やWIT STUDIOは業界屈指で注目を浴びるアニメスタジオの1つとなっているが、設立11年目を迎えても成長/挑戦しようとする心を忘れていないようだ。そういった意味で近年の印象的な作品を聞いてみた。

「『子供向けのアニメを作りたい』という願いが叶ったという点では『おにぱん!』もそうでした。『王様ランキング』もそうです。僕は制作進行時代に毎週号泣できる映画を映画館に観に行って気晴らししていたんですけど、あれはまさにあの頃の僕が『こういうアニメを作りたい』と願っていたアニメ作品でした。

ただ、1作品だけ挙げるとすれば『バブル』かな。『バブル』は川村元気さんという稀代の映画プロデューサーと仕事をして、スタジオに映画制作のノウハウが溜まったと感じたし、さらに映像面のテクノロジーも進化ができた。そういったポイントにおいて素晴らしい仕事できましたし、今後に非常に活きる仕事でした」

「バブル」キービジュアル。6月21日(水)にBlu-ray / DVDがリリース。現在予約を受付中。 (c)2022「バブル」製作委員会

「バブル」キービジュアル。6月21日(水)にBlu-ray / DVDがリリース。現在予約を受付中。 (c)2022「バブル」製作委員会

WIT STUDIOは作品単位だけでなく、会社としても挑戦を続けようとしている。2020年には「PUI PUI モルカー」で知られる見里朝希を迎えてストップモーションスタジオを発足させた。最後にここから先の10年の展望を聞いてみると、これまで築いてきたアニメスタジオ・WIT STUDIOのイメージからは少し離れた、意外な回答があった。同社の変化は、今後もまだまだ続きそうだ。

「これまで一緒にアニメを作り続けてきた監督やアニメーターたちと、みんなが見たことがないような新しく高品質なアニメを作るというのはこれまでと変わらずやっていくとして。10年というスパンだと、社長の和田がProduction I.Gの社長にも就任したことが、WIT STUDIOにも影響が出そうです。WIT STUDIOにはCGチームや撮影チームのリソースがないため、そこでProduction I.Gとリソースを共有しながら映像制作をすることになるでしょうし、グループ全体で相乗効果を生み出しながら効果的にアニメ制作を進めたいです。

中武哲也

中武哲也

あとWIT STUDIO単体では現在Webtoonの開発もやっていて、2023年にリリースする予定です。弊社はこれまでマンガの制作経験などはないですが、WITで面白い作品を作りたくって。アニメは1つタイトルを制作するとなるとコストが大きく、伴ってマーケティングの規模も拡大していきます。なので、アニメスタジオ主体でオリジナルストーリー作品を開発できない。その点、Webtoonは海外に比べてまだ普及していない日本ではこれから盛り上がるはずだし、制作工程が割とアニメに近くて親和性があり、参入しやすいと考えました。ストーリー作成のノウハウを蓄積するという点だけでも充分なメリットがあるでしょうけど、もちろん皆さんに楽しんでいただくのが前提です。制作ラインを整備して、ある程度年数が経ったらコンスタントに作品を作っていきたいですね」

中武哲也(ナカタケテツヤ)

1979年11月16日生まれ、茨城県出身。WIT STUDIO取締役。2000年にアミューズメントメディア総合学院を卒業後、株式会社Production I.Gに入社。2012年に和田丈嗣らと、Production I.G のスタッフとともに独立し、WIT STUDIOを設立する。また2022年5月30日に、株式会社JOENの代表取締役に就任している。

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#アニメスタジオクロニクル 第2回
コミックナタリー × WIT STUDIO

コミックナタリーさん@comic_natalie にお声がけいただき素敵な企画に参加させて頂きました👏
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#WIT_STUDIO https://t.co/Sbi5GKwnoR

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