第2回コミナタ漫研レポート(ゲスト:水城せとな)【3/5】

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世界観は、大道具と小道具によって立ち上げられる

唐木 現実を受け入れて、充実した生き方をしていれば、たとえ死のうともそのキャラクターは幸せ、と。ではそんな「ガンスリ」世界を魅力的にしている、鍵となる要素を教えてもらえたらと思うんですけど。

水城 幼女と銃以外にね(笑)。

唐木 (笑)。しばしば魅力的な作品には世界観がある、なんて言われますけど、「ガンスリ」の世界観はどこから生まれてるのかをお聞きしたいですね。

水城 私の持論なんですが、世界観というのは大道具と小道具によって立ち上がると考えています。「ガンスリ」でいうと、舞台となるイタリアやテロと戦ってる組織、そのあたりが大道具。

唐木 舞台装置ってことですね。

水城 そうです。そして大道具とは一見親和性の低いアクセントになるもののことを、小道具と呼ぶのかなって思うんです。「ガンスリ」では物騒な大道具が並べられた中に、アマティのバイオリンであったり、シュタイフのテディベア、アンティークの万華鏡といった、テロ戦争という大筋には一見ふさわしくない、非常に可愛らしいガーリーなアイテムが出てきます。

アマティのバイオリン

アマティのバイオリン[拡大]


唐木 スクリーンにはアマティのバイオリンを映してみました。ガンアクションなのにこういったかわゆいアイテムが出てくるのが、小道具が効いているということでしょうか。

水城  これが無かったらまたぜんぜん違うものになっているかなって。小さなものだけど、そういう小さなものこそ、世界観の色付けに影響を及ぼすと思うんですよね。

唐木 なるほど、小道具がスパイスやアクセントになる。ほかにももう少しサンプルを示してもらえますか。

水城 すごく分かりやすい例だと思うんですけど、サブテキストに挙げた「さよなら絶望先生」の話をしたいな、と。

「さよなら絶望先生」

「さよなら絶望先生」[拡大]


唐木 これも意外な指定でした。

水城 もう私、大好きで! ちゃんと毎巻単行本を買って、読んでる作品なんです。

唐木 「絶望先生」は学園ものですよね。主人公は超ネガティブな教師で、日々の小さいことからたまに大きなことまで、愚痴ったり絶望したりしている作品です。大道具にあたるのは、現代の学校。

水城 そうです、そこで小道具と言えるのが、和服だと思うんです。別に絶望先生が和服で学校に来なきゃいけない必然性はなんて一切ないんですよ。女子生徒もみんな普通の制服だし。でもそんなネガティブ教師に和服を着せてみたというのが、久米田先生の大発明だと思います。もし絶望先生が和服を着てなかったら、私はこの作品を読んでなかったかもしれない。

唐木 和服を着てない絶望先生なんて、もはや想像できないですよね。これでジャージ着てたら、ふつうに学園ものですよ。

水城 世界観がぜんぜん変わっちゃいます!

唐木 単行本の装丁ひとつとっても、ロゴやカバーの紙質まで、和服からインスパイアを受けた要素がふんだんに盛り込まれている。

「さよなら絶望先生」23巻

「さよなら絶望先生」23巻[拡大]

水城 もし和服を着てなかったら、そういうパッケージもすべて無かったと思うんですよね。和服が入ったことで、「絶望先生」という作品の世界観が、細部まで一気に決まってくる。

結末が分かっているタイプの物語は、何度読んでも楽しめる

唐木 それでは今度は、ストーリーの語り口の話をしましょう。先ほども触れましたが「ガンスリ」の義体は、せいぜい3年しか生きられない。だからどうしても死に向かっているという、あらかた結末が分かっている話なわけです。

水城 はい。義体たちがどう生きてどのように死ぬのかっていうのを、読者みんなで見守る話ですね。

唐木 行き着く先がわかっていて、過程を見守るタイプの物語。ほかにそういった作品ってありますか?

水城 「NANA」とかですかね。みんな、レンが死ぬんだって分かって読んでましたよね。

唐木 分かっていましたね(笑)。なのに延々引っぱられ続けました。

水城 でも結論が分かっていながらそれを待ち続けて読むってのも、面白いじゃないですか。結末までどういくの? ってけっこうみんな好きなんじゃないかと思うんですよ。私は「刑事コロンボ」が大好きで。

唐木 「刑事コロンボ」は1時間ドラマですが、最初の5分で犯人が分かります。なにしろ毎回、犯行シーンから始まるんですから。

水城 「古畑任三郎」もそうですね。犯人探しの話じゃない。犯人は分かってる上で、コロンボはどうやってこの犯人を追いつめるの?っていうのを楽しむわけですよ。

唐木 水城さんの作品の中で、そういうスタイルのものってあります?

水城 「放課後保健室」はそうかもしれないですね。当然読者の皆さんは卒業して終わるの分かってるよねって思って描いてました。月刊誌連載に向いてるやり方かもしれないですね。週刊誌だと、気持ちを引きつけるひっかけが毎週必要で、ちょっと難しいのかなと。

唐木 よくネタバレ禁止! とかいいますけど、こういうスタイルの作品はある意味ネタがバレているわけですから、結末を知った後も楽しめますよね。

水城 結末まで読んでそれきりではなく、何度でも楽しめます。読み返すと、いろんな伏線に気がつくと思うんです。

唐木 伏線、いいですね。ひとつ、「ガンスリ」の伏線のサンプルを持ってきました。

リコの抱き枕

リコの抱き枕[拡大]


水城 12巻に出てくる、リコの抱き枕ですね。担当官のジャンさんがくれたものなんですけど、プレゼントする場面は描かれてなくて、さらっと出てくる。

唐木 これの伏線となるエピソードというと?

水城 私が深読みし過ぎかもしれないんですけど、1巻でリコが捜査員に説明をしてるんですよ。「ヘンリエッタやトリエラは色々物を増やします。担当官の人が何かくれたりするみたい。私には良く分かりませんけど」と。つまりこの時点ではリコはジャンさんから何かをプレゼントされたことがない、ということが読み取れると思うんですが、12巻では抱き枕をもらっている。

「ヘンリエッタやトリエラは色々物を増やします。担当官の人が何かくれたりする人みたい。私には良く分かりませんけど」

「ヘンリエッタやトリエラは色々物を増やします。担当官の人が何かくれたりする人みたい。私には良く分かりませんけど」[拡大]


唐木 ジャンとリコとの関係に変化が生じている?

水城 ジャンさんの心境の変化ですかね。12巻でジャンさんは家族の仇敵に迫りつつあるんですが、そうした状況下での変化が生じてきたのかなって私は思うんですよ。さかのぼると、彼にはテロで殺されてしまったエンリカちゃんっていう妹がいて、彼女が抱き枕を抱えてゴロゴロしている場面があったんですよね……。

唐木 深読み、しますねー!

水城 しますよ! 好きで読んでるんで! 意味なくジャンさんが抱き枕をくれたんだよ、って出てくるわけがないんで、絶対に意味が込められてると思うんです、抱き枕というアイテム自体にも。それに私、ジャン×リコがすっごい好きなんで。

唐木 ペアの中では、ジャン×リコ萌えなんですね。

水城 ジャンさんは義体を「容赦なく道具として扱う」っていうスタンスがブレないんですよ。なのに義体の中で、リコがいちばん幸せそうなんですよね。彼女は生まれつき身体の一部が麻痺していた。それが義体の身体を与えられて毎日生きていることが幸せだし、それ以上求めてない。あと条件付けが最初にがっちり施されているので。

唐木 洗脳の度合いが強い。

水城 らしいんですよね。担当官が義体をどんな風に可愛がったとしても、対テロ戦の道具に使うってことは変わらない。ならば迷ったり悩んだりすることのないよう、って。だからジャンさんは冷酷に見えるけど実は優しくて、ふとした瞬間のリコのケアも怠らないんですよ。ぼーっと遠くを見ていると引き寄せたりとか、いつもちゃんと見てるんですよね。私も誰かの道具になって、そんな扱われ方されてみたいです!

唐木 あはは。首根っこ掴まれてペン入れさせられて?

水城 マンガを描く道具にさせられて。

唐木 産む機械ならぬ、描く機械……。問題発言になるんで、この話このへんでやめておきましょう(笑)。(つづく)

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舞茸 @__Maitake

コミックナタリー - 第2回コミナタ漫研レポート(ゲスト:水城せとな)【3/5】 http://t.co/m8pRSU7UK9とっても良い記事

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