累計800万部を超えるヒット作「明日、私は誰かのカノジョ」を発表したをのひなおが、最新作としてサイコミで連載している「パーフェクト グリッター」。その単行本の1巻が、4月30日に小学館より発売された。生きづらさを感じる現代の女性たちを描いたオムニバス「明日カノ」から一変、「パーフェクト グリッター」では、2人の女子の出会いから始まるサスペンスが展開されている。
コミックナタリーでは単行本1巻の発売を記念し、をのとドラマ版「明日カノ」で“ゆあてゃ”ことゆあを演じた齊藤なぎさとの対談をセッティング。ドラマの出演が決まる前から「明日カノ」のファンで、「パーフェクト グリッター」もすでに熱心な読者だという齊藤が、をのの作品の魅力について愛情たっぷりに語った。また、をの作品の特徴であるリアルな人物描写や、「パーフェクト グリッター」でも描かれている同性同士の“憧れ”についても2人に話を聞いた。
取材・文 / 熊瀬哲子撮影 / 宇佐美亮
「パーフェクト グリッター」作品紹介
SNSでの数少ない「いいね」を糧に、代わり映えのない日々を過ごしているモモ。ある日モモは、SNSでフォローしている憧れの女の子・イチカからDMが届いたことをきっかけに、彼女と渋谷で対面する。イチカとつながったことで世界が色づくモモだったが、ある日を境にイチカは姿を消してしまう。イチカに何があったのか? イチカはどこにいるのか? モモはイチカを求め、謎を追うことになる。
「明日カノ」のドラマがあったから今の自分がある(齊藤)
──おふたりは「明日カノ」のドラマ撮影のときに何度かお会いされたんですよね? こうやって面と向かって対談するのは……。
をのひなお 初めてです。
齊藤なぎさ めっちゃうれしいです!
──先ほど行った写真撮影のときから、をのさんがすごく緊張されているのが伝わってきます(笑)。
をの かわいすぎてちょっと直視できないですね……(手で顔を隠す)。
齊藤 かわいい!(笑)
をの 最近も齊藤さんが出演している「パラレル夫婦 死んだ“僕と妻”の真実」を観ていて、かわいいなって思ってたんですけど、実物はもっともっとかわいいですね……。
齊藤 うれしい! ありがとうございます!
──齊藤さんはドラマ版の「明日カノ」でゆあ役を演じられましたが、出演のオファーが来る前から原作を読んでいたんですよね?(参照:ドラマ「明日カノ」ヒロイン役に吉川愛、横田真悠、齊藤なぎさ、箭内夢菜、宇垣美里)
齊藤 そうなんです! 「明日カノ」も大好きすぎて一生語れるくらいなんですけど、今回の「パーフェクト グリッター」も、対談のお話をいただく前から読んでいて。連載前にXでモモちゃんとイチカちゃんの絵を出されていたじゃないですか? あのときからずっと楽しみにしてたんです。
をの まさかその頃から!
齊藤 そうなんです! 「明日カノ」のときからいろんな女の子1人ひとりの人生をすっごくリアルに描かれていて、こんなマンガ家さんほかにいない!と思っていて。すごく尊敬しています。どうやって作品を描かれてるんだろうってずっと気になっていたので、今日ちゃんとお話しできるのがすごくうれしいです。
をの ありがとうございます、私もです。
齊藤 をの先生に感謝したいのが、最近私を知ってくださったという方で、ゆあちゃんがきっかけだと言ってくださる方が、もう7、8割とかで。
をの え、そんなにですか?
齊藤 そうなんですよ。「ゆあで知りました」とか「『明日カノ』観てました」って言ってもらえることがすごく多くて。をの先生の描く作品に、実写化で携わらせていただけたからこそ今の自分があると思っているので、本当に感謝です。
をの ええ、そんなそんな……。うれしいです。
齊藤 本当に感謝でいっぱいですし、私がをの先生の作品で好きなところは……(をのと目が合い)やっぱり、すごい緊張しますね(笑)。
をの あはは(笑)。
説得力をもって、視聴者にゆあというキャラを示してくれた(をの)
──改めて齊藤さんから見た「明日カノ」の魅力を教えてもらえますか?
齊藤 私もそうだし、みんなもそうだと思うんですけど、人生って楽しいことだけじゃない。キラキラして見える世界の中にも、それぞれ抱えているものがたくさんあって、1人ひとりに悩みがある。「明日カノ」はそこがリアルに描かれていて、最後もきれいにハッピーエンドといかないところが、めちゃくちゃ好きなんです。ゆあてゃだったら、夜の世界から足を洗って昼の世界に行くでもなく、ずっとホストに通い続けるところが、リアルな人生だなと思うんですよね。あとはマンガの中に出てくるSNSとか掲示板のシーンとかも「これ見たことある!」っていうのがたくさん出てきて。友達とも「これあるよね」ってシェアして楽しめるというか。人生で一番共感したマンガです。
をの うれしい……ありがとうございます。私はドラマの(ゆあの高校生時代を描いた)特別編の後編がすごく好きなんですけど。
齊藤 私も好きです!
をの 後編では原作にないシーンも演じていただいたじゃないですか。齊藤さんはゆあとはまったく違う人生を歩んできているのに、ドラマではそこにゆあが生きていて、よりゆあというキャラクターを感じることができた。齊藤さんが説得力をもって、ゆあというキャラを示してくれたと思っています。後編で「みんな嘘ばっか!」って言った後に、歌舞伎町に行くシーンがありますよね。あそこですごい鳥肌が立って。目で、表情で見せる。これが俳優さんなんだなと思って……また緊張してきた(笑)。私も本当に尊敬しています。演じていただいて、ありがとうございました。
齊藤 ありがとうございます……! 私、ゆあのおばあちゃんが亡くなるところが、マンガで何回読んでも泣いちゃって。ドラマの撮影のときも、本当にしんどくなるくらいだったんです。そこまで入り込める作品だからこそ、できた演技だったなと思います。
──今でこそ齊藤さんは俳優としてたくさんの作品で活躍されていますが、「明日カノ」への出演が発表されたときは=LOVEのメンバーだったので、ビジュアルからなんて完璧なキャスティングなんだろうと思いながらも、アイドルとしてこの作品に挑戦されることに驚きもありました。勝手ながら、その後の俳優としての活動に、いろいろと向き合うきっかけになった作品なのかなと想像したのですが。
齊藤 そうですね。シーズン1のときはまだ=LOVEのメンバーだったんですけど、特別編は=LOVEを卒業して最初に撮影した作品だったんです。俳優として、こんなふうに役に入り込めるんだなって経験をできたのが「明日カノ」だったので、お芝居をもっともっとやりたいなって思うきっかけになった作品でしたね。
をの ゆあは普段の齊藤さんからすると真逆のキャラだったと思うんですが、すごく説得力があったので、読者さんもみんな「ゆあだ」と言っていて。大成功のドラマだったと思います。
齊藤 うわあ、うれしいです……!
「どういうこと?」だらけで気になることばかり(齊藤)
──そんな「明日カノ」を経て、をのさんの最新作として発表されているのが「パーフェクト グリッター」です。まず齊藤さんに作品に対する率直なご感想を伺いたいのですが……。
齊藤 もう、ずっと気になってて! 続きが! どうしたらいいんですか?(笑)
──めちゃくちゃわかります。(取材時点ではサイコミで第17話まで公開されていた)この最後のおじさんはなんなんだ?と……。続きが早く読みたくて仕方ないです。
齊藤 本当にヤバいです! 私、イチカのことがすごく好きなんです。イチカみたいな子が現実にいたら、絶対好きになっちゃう。
をの そう言ってもらいたくて描いたキャラなのでうれしいです。
齊藤 お話で言うと、まだ全貌が明らかになってないので、「どういうこと?」だらけで。モモみたいにイチカに“育てられた”女の子が何人かいるみたいだし、その理由って何?って思いますし。イチカは今どこにいるの? モモちゃんはこれからどうなっちゃうの?って気になることばかり。あとは最近出てきた男の子がいるじゃないですか。
をの あの怪しい……。
齊藤 そう! タイキくん。あの人は何!?っていう。あとはヤナちゃんも気になる。
──タイキはヤナが紹介してくれた、イチカの情報を持っているかもしれない男で、ヤナはそれこそ、モモより前にイチカに“育てられた”女ですね。
齊藤 でも、ヤナちゃんはいい子なのかなって。あんま悪い子ではなさそうだなって思っているんですけど……。あと私、(サイコミの連載ページの)コメント欄を見るのもめっちゃ好きなんですよ。
をの ありがとうございます、そこまで楽しんでいただいている!(笑)
齊藤 あそこで考察している人がいるから、コメント欄を読んでからもう1回読み直すと「あ、これはこういうことなんだ!」って、発見があって楽しいんです。あとは本当に1人ひとりのキャラクターが丁寧に描かれているので、「女の子ってこういうところあるよね」って刺さるところが多くて。
──「明日カノ」のときからそうですが、今回もキャラクターの言動や描写がすごくリアルですよね。ヤナの先輩のSNSのフォロワーが増え始めて、ヤナが複雑な気持ちになっていくところとか。
齊藤 そう! めっちゃ思いました。ヤナちゃんが劣等感を抱く感じもそうですし、あの先輩がリアルだなって。
──SNSで「まだ言えないけど、みんながびっくりするような人と仕事してる」みたいな匂わせるようなことを書いてマウントを取ってるところも、なんだかよく見る光景だなと思いました。
齊藤 そんな先輩も、それに影響を受けたヤナちゃんも、承認欲求がどんどん増してくるところが心に来ますよね。しかもイチカはそんなヤナちゃんを救って、依存させたわけじゃないですか。だけどヤナちゃんはどうしてイチカと離れたんだろうとか、そもそもイチカの“あの動画”はフェイク動画なのか?とか、気になるところばっかりです。
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考察が好きなのかも。今気づきました(をの)