TVアニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」の続編として、2025年1月から3月にかけて放送されたTVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」。テレビでの放送当時、その合間に流れるとあるCMが話題を呼んでいた。それは業界最大級の総合電子書籍ストア・コミックシーモアとのコラボCMだ。コラボCMは3本展開され、流れるたびアニメ本編との温度差に情緒をめちゃくちゃにされるファンが続出。ハッシュタグ「AveMujica」「アニメムジカ」が毎回トレンド入り、「コミックシーモア」も複数回トレンド入りを果たし、ほぼテレビでしか放送されなかったCMのため、ファンが自らその内容を拡散するなど、ちょっとしたムーブメントを巻き起こしていた。
コミックナタリーでは、コラボCM制作の中枢を担ったブシロードムーブの副社長・大貫佑介氏、ブシロード取締役の根本雄貴氏、サイバーエージェント(ABEMA)の企画プロデューサー・北本充氏、コミックシーモアのプロデューサー・坂元富士太氏にインタビュー。その制作秘話に迫った。またコラボCMとは別に、オリジナルCMとして注目を集めた劇中の企業・豊川グループのCMについても聞いているので、お見逃しなく。
取材 / はるのおと文 / カニミソ撮影 / 入江達也
コミックシーモア×「BanG Dream!」シリーズ コラボCM
コラボCMは「BanG Dream! Ave Mujica」の放送タイミングに合わせ、TypeA、TypeB、TypeCの全3本を放送。TypeA、TypeBは前作の「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」、TypeCは「BanG Dream! Ave Mujica」の印象的な場面と、キャストの新録ボイスを組み合わせてそれぞれ制作された。
TypeA
千早愛音が高松燈に、コミックシーモアはマンガ好きの強い味方であることをアピール。椎名立希はそれだけじゃないと反論。長崎そよも同意しながらきちんと調べたのかと愛音に問いかける。さらに無料作品もアニメ原作もたくさん読めると燈が畳みかけ、要楽奈が「おもしれー女♪」とつぶやく。
TypeB
MyGO!!!!!のライブ終了後、これから家に帰ってマンガを読もうと話す愛音。それを聞いたそよは、「なんでみんなコミックシーモア使ってるのっ!?」とキレる。そんなそよに対し、無料マンガやアニメ原作のマンガがたくさんあると説明する立希と愛音。燈はそのことを豊川祥子にも教えなきゃと心に誓う。祥子は「い、今すぐ要チェックですわ~~~~~っ!」と言いながらライブ会場を走り去る。
TypeC
祥子にコミックシーモアでマンガがたくさん読みたいと相談する若葉睦 / モーティス。祥子は業界最大級の作品数を誇るコミックシーモアにこれ以上何を求めるのかと問う。そこで突然、三角初華が祥子とたくさん無料作品が読みたい夢も叶うと言い、八幡海鈴は初華に何を言っているのかと冷静にツッコむ。その一方でにゃむちこと祐天寺にゃむはオススメ作品の動画をアップロード。最後は睦 / モーティスがズラッと並ぶシーンで締めくくられる。
従来の手法にとらわれない“エンタメコンテンツ”を目指した
──まずは皆さんがどのようなポジションの方々なのか、自己紹介をお願いできますか。
北本充 サイバーエージェントのインターネット広告事業本部 ABEMA&IP局で企画プロデューサーを務めています。広告主であるコミックシーモアさんとは、サービスの第一利用意向(※)の獲得を目的にさまざまな取り組みを行っています。
※「買うならコレ」「使うならコレ」と思ってもらえる、最有力候補を目指すこと。
大貫佑介 ブシロードの関連会社で、広告会社・イベント制作・声優事務所の機能を持つブシロードムーブで取締役副社長を務めています。「BanG Dream!」シリーズはもちろん、さまざまな作品の広告やCM、PV制作などのプロデュースを手がけています。
根本雄貴 ブシロードの取締役を務めながら、オリジナルIPである「BanG Dream!(バンドリ! )」の総合プロデューサーを担当しています。
坂元富士太 NTTソルマーレが展開する電子書籍事業・コミックシーモアのブランディングチームでテレビCMやWebCMの担当をしています。
──ありがとうございます。ではコラボCMが放送されるに至った経緯からお伺いしたいと思います。発起人はどなただったのでしょうか。
北本 発起人は私と大貫さんですね。コミックシーモアさんとサイバーエージェントの取り組みにおいては現在、特にアニメ視聴者に焦点を当てた戦略を展開しています。その中でも濃いアニメ視聴者……“コアなアニメファン”へのアプローチを強化した場合に、どういう効果が得られるのかを検証したいと考えました。じゃあコアなアニメファン層はどこにいるのか、という話になったときに「BanG Dream! Ave Mujica」に行きつきまして。もともと別プロジェクトでつながりがあったブシロードムーブの大貫さんに相談し、根本さんにコラボCMの企画を通していただいて実施に至りました。
──行きついた先が「BanG Dream! Ave Mujica」だったのには、何か理由が?
北本 「ぼっち・ざ・ろっく!」「ガールズバンドクライ」のヒットを受け、今、ガールズバンドアニメというジャンルが相当来ているのを肌で感じていて。まさにその流れの延長線上に「BanG Dream!」シリーズの新作アニメ「Ave Mujica」があったので、おそらく放送が始まる1月から3月にかけて、大きなムーブメントが起こるんだろうなと。その絶好の機会に仕掛けたいと思い、選定させていただきました。あとは僕が「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」がめちゃくちゃ好きだったっていうのもあるんですけど(笑)。
──大貫さんは北本さんからこの企画の話を聞いたとき、どんな感想を抱きましたか?
大貫 ブシロードとしては「BanG Dream!」というIP……今回でいうと「Ave Mujica」になるのですが、同作が1月からアニメ放送されるにあたり、まずどのように盛り上げるかが重要なテーマでした。「Ave Mujica」独自の広告展開も当然予定していましたが、単に広告を打つだけではユーザーの興味を引きにくいのではないか、という課題があり、やるなら踏み込んでやりたいと思っていました。そんなとき今回のお話をいただいて。実施するならば従来の手法にとらわれず、どうすれば広告自体が話題となり、コンテンツとしてユーザーに受け入れられるかを主眼として考えていましたね。
北本 同じく広告クリエイティブは“エンタメコンテンツ”にしていかないと効果が出にくいのではないかと考えていました。その仮説のもと、コミックシーモアさんにも事前に「Ave Mujica」と組んだユニークな広告クリエイティブを仕掛けさせていただけないですかと相談していたので、そこはブシロードさんと完全に考えが一致していました。
──コミックシーモアの場合、タレントを起用したCMがテレビでよく流れているイメージもありますが、坂元さんは今回のお話を聞いてどう思われましたか。
坂元 もちろん「BanG Dream!」というIPが持つ影響力の大きさは認識していたので、実現できるのならぜひお願いしたいと。アニメの視聴者って、マンガ・電子コミックを読んでる方が非常に多いので、電子書店と親和性が高いんですよね。コミックシーモアとしても、そういった方々へのアプローチは戦略の1つとしていて。これまでにも広告会社さんの協力のもと、アニメ風のオリジナルWebCMを制作・配信するといった試みを行ったことはありました。でも今回はテレビCMという枠組みの中で、既存の強力なIPとご一緒させていただくというところで、より発展的な取り組みになるなと思いました。
──根本さんは「BanG Dream!」の総合プロデューサーとして、どんなふうに関わられていたんですか?
根本 私は基本的に「いいんじゃない?」みたいな(笑)。
大貫・北本・坂元 (笑)。
──「BanG Dream!」でいうと、個人的には「It's MyGO!!!!!」放送後にTOKYO MXで流れていた、愛音が天気情報を伝えるコーナー“「バンドリ!」天気予報”も楽しく観ていたんですけど、ああいうふうにIPを使ってもらうことに対してすごく開放的なのかなと感じていました。
根本 そこに関しては、自分たちだけでできないけど他社さまと一緒に取り組むことで作れるものがあって、それで広がるなら必ずしも制限するものではないと思っています。
大貫 実はこの企画を最初に僕が「BanG Dream!」に提案したとき、アニメの制作サイドは、けっこう引き気味だったんですよ(笑)。彼らにはIPやコンテンツを守るという重要な使命があり、その役割に忠実に徹するのは当然のことで、そう反応するのもわかるんです。でも守りの視点だけが優先されると、ときにコンテンツの可能性を狭めてしまうことがある。今回こういう形でできたのは、クライアントであるコミックシーモアさんの理解と、最終的に根本と「BanG Dream!」チームのチームリーダーと直接話して、制作チームの皆さんにもご理解いただけた土壌があったからですね。
根本 少し話はずれますが、本来監修ってコンテンツにとって素晴らしいものを生み出してもらうために行うものだと考えていて。例えばグッズの監修が来たらよりよいグッズにするために監修しているわけじゃないですか。より価値をつけるためにフィードバックする。無難に作って中途半端にはしたくないですし、自分たちの広告だけやってもお客さまは見飽きてしまうと思うので。
あくまで1.5次創作、雑感を意識
──コラボCMは、1、2本目は「It's MyGO!!!!!」、3本目は「Ave Mujica」を題材に合計3本ありました。1月から3月にかけて、1本ずつ流れていましたが、いつくらいから制作がスタートしたんですか?
北本 そうですね。2024年の9、10月ぐらいかな?
──制作期間が短いように感じるのですが、CMってそのくらいのスパンで作れるものなんですか?
大貫 今回の場合はなんですけど、「It's MyGO!!!!!」はすでに放送されていたし、「Ave Mujica」も本編映像が1年くらい前から完成していたんですね。CMの映像は既存のものを使用する形なので新しく映像を作る必要がないし、美味しいシーンを制限なくちゃんと選べました。そもそも今回のCMの制作自体はブシロードムーブでしていますので、余計な手間がかからないというか。普通CMを作るときってバッファを取るんですけど、当社はやろうとなったら早いので、そのくらいの期間でも全然いけました。
──CM内容については、どなたが中心になって決められていったんですか?
大貫 基本的には僕と北本さんで話し合ってという感じです。
北本 段階的にエッジをつけていかないと既存ファンの方がびっくりするというか。急にグっと入っても、多分輪に入れてもらえないんだろうなと考えて、1本目は比較的オーソドックスに行かせていただきました。
──2本目では、「It's MyGO!!!!!」第7話で演奏する予定がなかったCRYCHICの楽曲「春日影」を演奏したことで、そよが「なんで春日影やったの!?」って、自身のバンドのMyGO!!!!!メンバーにキレるシーンが使われていました。いじりにいじられたあの場面を奇をてらわずに使うんだって、僕はすごく感心したんですけど。
北本 「It's MyGO!!!!!」の映像を使うならあそこは使いたいなって思っていたんですけど、こういうセリフの構成でいけませんかねって提出したときに、まさかそこも含めて全部ご了承いただけるとは思ってなくて(笑)。そこは感謝ですね。
──「Ave Mujica」本編映像を使用した、3本目のTypeCでも睦 / モーティスがズラッと並んでいるあのシーンが使われていて、ファンの間で話題になっていました。
北本 3本目で使う映像は放送が始まってからの「Ave Mujica」の勢いと、1・2本目のCMを観たユーザーさんのリアクションみたいなところも見つつ、丁寧に設計したというか。
大貫 「BanG Dream!」ではリアルタイムでの“今ここ感”みたいな部分を常に追っているので、なるべく古臭くならないようギリギリのタイミングでシーンを選定していました。3本目に使用したモーティスのシーンも、よくも悪くも皆さまに受け入れていただいた。さまざまな反応がありましたが、反応をしてもらえるということが評価だと思っているので。
──坂元さんのほうから「こうしてほしい」という要望はあったりしたんですか?
坂元 ほぼないですね。普通の仕事ですと「こういう宣伝文句を入れたい」とか、そういう意見が出たりするんですけど、コラボCMって、制作側の意図を最大限汲む方が結果的に絶対いいものになると思うので。そこにこっち側の思惑が入りすぎるとアンバランスになりますが、北本さんと日頃いろんなタイアップをしている中での信頼関係がありますので、そこはもう信じての判断でしたね。1点だけ、2本目のラスト「要チェックですわ~~~~~っ!」は最初「会員登録急がなきゃですわ~~~~~っ!」でご提案いただいていたのですが、マンガの無料試し読みなどは会員登録せずともどなたでも気軽に楽しんでいただきたいので、セリフの差し替えをしていただきました。
──映像はすでにある素材を使って作られていましたが、声優さんの音声だけは新規で録ったものなんですよね。声優さんの反応はいかがでしたか。
根本 どうでした? 収録の雰囲気。「何ですか? これ」ってなりませんでした?(笑)
大貫 声優さん側は喜んでいましたね。楽しんでやってくださってたと思いますし。僕たちとしてはなるべくこう……雑に作りたくて、雑コラとかのトンマナで作っていって。完成度を上げすぎてしまうと没入感が出てきてアニメ視聴時の余韻を壊しすぎてしまいますし、完成されすぎててもちょっとあれなので。楽しんでもらうためにも雑感みたいなのは一応意識してやってもらってました。あくまで1.5次創作です(笑)。
──ほかに狙った……この辺を雑にしましたみたいな部分ってあったりしますか?
大貫 2本目の、祥子が最後に「要チェックですわ~~~~~っ!」って言って去るシーンでの音割れですね。あのシーンは、割れてたほうが叫びっぽいじゃないですか。シチュエーションにちゃんと合わせるんだったら叫びながら外に走って行っているわけだから、本当は音をフェードアウトさせなきゃいけないんですよ。そんなことしたらちゃんと作ってるってなっちゃう(笑)。
坂元 ああ、そういう意図があったんですね。
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