「カブリダニ」1巻

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「カブリダニ」読みやすさ抜群の“胸糞マンガ” 失った親友を救う復讐タイムリープ

PRオオゾネサトシ「カブリダニ」

警察官の佐藤は、あるとき13年前の高校時代にタイムリープする。その日は親友が自ら命を絶ってしまった日。佐藤はタイムリープした過去で、親友の死がいじめによるものだと知る。同じく時を越えてきた一丁の拳銃を握りしめた佐藤の心には、ある感情が芽生え始め……。オオゾネサトシが別冊少年チャンピオン(秋田書店)で連載中。「サイコ×パスト」の本田真吾も絶賛する復讐タイムリープだ。

/ ナカニシキュウ

オオゾネサトシ「カブリダニ」1巻
オオゾネサトシ「カブリダニ」1巻
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オオゾネサトシ「カブリダニ」3巻
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読みやすさ抜群の“胸糞マンガ”

オオゾネサトシ「カブリダニ」は、なんとも不思議な読み味を提供してくれる作品だ。基本的にはリアリスティックに描かれるスリリングな復讐サスペンスなのだが、どこか飄々とした浮遊感のようなものが作品全体を支配しており、「後味の悪いお話のはずなのに読後感が重苦しくない」という摩訶不思議な体験をさせてくれるのである。

「カブリダニ」より。警察官の佐藤がタイムリープした13年前のその日は、親友が自殺した日だった。

「カブリダニ」より。警察官の佐藤がタイムリープした13年前のその日は、親友が自殺した日だった。

作中にはとことん性根の腐った悪役キャラクターが多数登場したり、ドギツイ残酷な描写が要所要所に挟まれたりはするものの、前述した“浮遊感”のおかげで、読者はさほど心をかき乱されることなくスルスルと読み進めることができてしまう。この手の作品としては非常に珍しいケースであり、“読みやすい胸糞マンガ“という新たなジャンルを開拓しているとすら言えそうな気がしてくるほど。

その秘密は、独特かつ絶妙なキャラクター造形にある。詳しくは後述するが、キーワードは「目」だ。

心を乱されることなく純粋にストーリーを楽しめる

本作の主人公は、28歳の警察官・佐藤信太。ある日のパトロール中、凶悪犯の運転する暴走車に轢かれかけた彼は、手にしていた拳銃とともに13年前にタイムスリップ(※)してしまう。その日は、かつての親友・辻村正樹が自ら命を絶った当日だった。元の時間軸では「原因不明の自殺」と報道されていたが、実は壮絶ないじめが原因であったことを知った信太は、拳銃を握りしめて親友の仇討ちを決意する。

※作中で「タイムスリップ」の語が使われているためそれに準じているが、肉体的ではなく精神的な時間跳躍であることから厳密には「タイムリープ」に近い現象と言える。ただし拳銃が物質的に時間移動しているのは「タイムスリップ」的でもあるため、最終的には割とどちらでもよい。

「カブリダニ」より。一丁の拳銃とともに13年前にタイムリープした主人公の佐藤。

「カブリダニ」より。一丁の拳銃とともに13年前にタイムリープした主人公の佐藤。

その過程で信太は、正樹が受けていたいじめ現場の見るに耐えない動画を目にすることになったり、更生させるべく説得を試みたいじめ加害者から口汚い暴言を吐かれたりと、物語は序盤からかなり胸糞悪い展開のオンパレードで進行していく。さらに、なかば成り行きで加害者の1人を銃殺してしまった信太は、その罪悪感から精神崩壊しかねない勢いで激しい慚愧の念にかられることにもなる。

「カブリダニ」より。いじめの加害者から暴言を吐かれる佐藤。

「カブリダニ」より。いじめの加害者から暴言を吐かれる佐藤。

このように、描かれる状況はことごとくハードかつ心苦しいものばかりで、本来であれば目を背けたくなるシーンだらけと言ってもいいほど。しかしながら冒頭で述べたように、本作はなぜだかストレスなく読み進めることができてしまう。そのおかげで読者は、クライムサスペンスとしてのスリリングなストーリー展開や、一丁の拳銃というキーアイテムを軸に繰り広げられる戦略性の妙、次第に冷酷な殺人マシーンと化していく信太のダークヒーロー的な魅力などを、心を乱されることなく純粋に楽しむことが許されるのである。

独特の浮遊感を生み出す「目」の描写

オオゾネの画風は、人物・背景を問わずリアリスティックな劇画系タッチが基調。その一方で人物の目だけはデフォルメ度合いが非常に高く、リアルとは程遠いサイズ感など“マンガ的”な作法を大胆に取り入れている。

「カブリダニ」より。

「カブリダニ」より。

目以外の要素が極めて写実的に描かれるがゆえに、明確にフェイクであることを強く主張する目が異質な存在として際立ち、あたかも血の通わない人形が役を演じているかのような独特の“浮遊感”を生んでいる。全体的には徹底的にリアルな描写を追求しながらも、常に読者を「この物語はフィクションですよ」とサブリミナル的に突き放し続けることによって、読者が感情的に入り込みすぎて心がつらくなるサイクルからギリギリのところで救ってくれる構図が成り立っているものと推測できる。

それは言うなれば、ボーカロイド楽曲を聴くときの感覚にも近いものがある。生々しい負の感情を綴った歌詞を含む楽曲であっても、血の通わない合成音声で歌われることによってある種の“浮遊感”が生じ、ポップミュージックとしてギリギリ成立する。その現象と、メカニズムとしてはほぼ同一だ。

「カブリダニ」より。

「カブリダニ」より。

よって、この手の“胸糞系”作品が苦手な人や初めて読む人にとって、同ジャンルの入口として非常に適した作品になっていると言えるだろう。心を蝕まれる恐れに苛まれることなく、安心して絶望的復讐ストーリーの面白さだけに集中できる喜びをぜひ一度味わってみてほしい。

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「カブリダニ」第1話を試し読み!
©オオゾネサトシ(秋田書店) 

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