月刊ドラゴンエイジ(KADOKAWA)で人気を博したガンアクションマンガ「ゼロイン」のいのうえ空が、同誌に帰還。待望のガンアクション新連載「異界撤退パラベラム」をスタートさせた。リア充高校生・日暮皇麻は帰宅中の電車で眠りこけ、気づくと異界の駅・簓木駅へ迷い込んでいた。現実世界で行方不明となっていた少女・まゆると出会った彼は、ともに現実世界への帰還を目指していく。オカルトやホラー、バトルロイヤルFPSといった要素を盛り込んだ“オカルティック異界ガンアクション”が展開される。
コミックナタリーでは1巻発売を記念し、ガンアクションマンガの名手・いのうえに、おすすめのガンアクションマンガ5作品を挙げてもらった。インタビューでは自身の作品にも多大な影響を与えたというこの5作品について話を聞いた。さらに代表作「ゼロイン」、最新作「異界撤退パラベラム」にも色濃く反映されている、いのうえが考える“ガンアクションの魅力”も語ってもらった。
取材・文 / 粕谷太智
いのうえ空が選ぶ影響を受けたガンアクションマンガ5選
- 「アップルシード」士郎正宗
- 「ギャロップ」BREN-303(伊藤明弘)
- 「GUNSMITH CATS」園田健一
- 「ニムロッド 吉原昌宏作品集2」吉原昌宏
- 「ハードロック」うちやましゅうぞう
ガンアクションはアクションよりも人間ドラマを見よ
──「異界撤退パラベラム」1巻の発売を記念して、いのうえ先生にガンアクションマンガの魅力を教えてもらおう、ということで事前に士郎正宗「アップルシード」、BREN-303(伊藤明弘)「ギャロップ」、園田健一「GUN SMITH CATS」、吉原昌宏「ニムロッド 吉原昌宏作品集2」、うちやましゅうぞう「ハードロック」の5作品を挙げていただきました。まずはいのうえ先生がどのようにガンアクションにハマっていったか教えてください。
中学3年生のときに観た「あぶない刑事」が最初ですね。当時通っていた塾の友達から面白いという話を聞いて、観てみようと思ったらもう最終回だったんです(笑)。でもその1回で心を掴まれました。それまでも拳銃をバンバン撃つような刑事もののドラマは観ていたんですが、派手な爆破やカースタントが中心の作品にはハマらなくて。「あぶない刑事」を観たときに拳銃を撃つしぐさとか、銃撃戦の駆け引きとか、ガンアクションにフォーカスした演出と、2人の刑事にスポットを当てたストーリーにグッと引き込まれたんです。その後に観たのが、僕の住んでいた和歌山でたまたま放送していた「特捜刑事マイアミ・バイス」。海外ドラマだと実銃のレプリカを改造して使っているので、その迫力に惹かれました。それからガンアクションに完全にハマるきっかけになったのが「リーサル・ウェポン」です。
──3作とも刑事のバディが活躍する作品というのが、いのうえ先生の代表作で同じくガンアクションかつ刑事ものの要素もある「ゼロイン」に共通していますね。直球な質問で恐縮ですが、いのうえ先生が考えるガンアクションの魅力とはなんですか?
ガンアクションというジャンルが確かに好きなんですが、僕が中でも好きなのは人間ドラマの部分なんです。例えば「リーサルウェポン」だったら、刑事部屋でのやり取りがすごく好きで。人間の部分が見えてからアクションがあるからこそ響くというか。
──ガンアクションが好きな方は、アクションを楽しんでいるものだと勝手に想像していました。今回いのうえ先生のおすすめのガンアクションマンガを事前に読ませていただいたんですが、キャラクターに魅力を感じるほど、その後の銃撃戦で「死なないでくれ!」とヒリヒリした感覚がありました。
そう! そこなんですよ。スポーツマンガでもキャラクターの掘り下げがあって試合に臨むから、そのスポーツ自体を深く理解していなくても試合が面白く感じるじゃないですか。ガンアクションも同じで、ドラマ部分でキャラクターのバックボーンを描いて、「もしかしてこのキャラ死ぬんじゃないか」と思わせる。そこから銃撃戦に突入するから、ハラハラして楽しいんです。だから変わった撃ち方とか派手なガンファイトがなくとも、ガンアクションは面白くなる。それがガンアクションの魅力なんですよ!
──ガンアクションがダイレクトな命のやり取りを描いているというのもハラハラ感を感じさせる要因になっていますよね。
そこがバトルマンガ、スポーツマンガと違うところで。バトルマンガって1発2発殴られても平気じゃないですか。でもガンアクションって、1発当たったら終わっちゃうんですよ。1発1発の重みが違いますよね。決着を着けるための必殺技もないので、どの1発で人が死ぬかわからないところもシビア。それもハラハラ感につながっている気がします。だから自分が描くときも、決着をつける1発にどう持っていくか、そこまでの流れはすごく悩みますし、そこがガンアクションならではの面白さでもありますね。
“心の友“との出会いでガンアクション沼へ
──ガンアクションの魅力を知って、自身でもすぐにマンガを描いたりされていたんですか?
ずっと絵が好きだったんですが、中学生の頃はアニメーターになろうと思っていたんです。そこから自分でストーリーも作りたいと思い始めて、高校ではマンガ研究部に入りました。ただ、当時は「ロードス島戦記」「スレイヤーズ」あたりが当たっていたファンタジーの全盛期で。僕もドラゴンマガジンを創刊号から読んでハガキ職人をしていたぐらいファンタジーも好きだったので、当時はファンタジーのマンガを多く描いていました。それで高校3年生になると、親には大学に進学するように言われたんですが、僕はマンガを続けたくて。入選したらマンガを続ける、ダメだったらがんばって勉強すると親を説得して、夏休みに1カ月かけてマンガを1本仕上げて賞に応募したんです。そのとき投稿した雑誌が月刊コミックコンプ(角川書店)でした。
──そのときから角川に縁があったんですね! 今こうしてマンガを続けているということは入選したんですよね。
はい。学校から帰ってきたら親が、角川の編集さんから電話があったよと喜んでくれて。マンガを続けることを応援してくれました。
──ちなみにどんな作品を応募されたんですか?
ファンタジーでしたね。コミックコンプに合わせた作風のコメディで、確か「隣のドワーフ殺人事件」というタイトルだったと思います。
──すごく内容が気になるタイトルです(笑)。どことなく刑事ものの匂いも感じますし。
探偵の住んでいるアパートの隣の部屋のドワーフが殺されてその事件を解決していくみたいな話だったと思います(笑)。その後もコミックコンプの次の賞に向けてマンガを作っていたので、しばらくはファンタジーを描いていました。
──そこからガンアクションに行くきっかけはなんだったのでしょう?
高校を卒業して、代々木アニメーション学院大阪校のマンガ科に進学したんです。そこでガンアクションが大好きな“心の友“に出会いました。その友達も「マイアミ・バイス」が好きで、ものすごく意気投合したんです。ガンアクションの新作映画が公開されたら一緒に観に行って、大阪のガンショップもよく一緒に周っていました。当時、和歌山の実家から大阪まで片道2時間以上かけて通っていたんですが、授業よりもその友達と話をすることが目的になっていましたね(笑)。それで、その友達がおすすめしてくれたのが「アップルシード」でした。
マンガを学んだ「アップルシード」「ギャロップ」「GUN SMITH CATS」
──今お名前が出た「アップルシード」は、いのうえ先生に事前に挙げていただいていた5作品のうちの1作ですが、どんなところに惹かれたんですか?
「アップルシード」はガンアクションではあるんですが、アクションの演出というよりかは全体の世界観を楽しんで読んでいました。でも士郎正宗さんのすごいところは、銃器のディテールにもこだわっているところなんです。さりげなく銃のグリップを変えるカスタムがしてあったり、コマの外に銃の説明とかうんちくが書かれていたり、そっちに当時の自分は興奮していました。僕のガンアクションマンガの土台を作ったのは「アップルシード」ですね。なので、デビュー作の「JAM!!」が「アップルシード」と同じコミックガイア(青心社)に掲載されたときは本当に光栄でしたね。その次に出会ったのが、BREN-303(伊藤明弘)さんの「ギャロップ」でした。
──「ギャロップ」も「アップルシード」と同じくSFの要素もある作品ですよね。かわいらしい造形の女性キャラがメインで話が進んでいくという点では、いのうえ先生の作品に通じるところも感じました。
「アップルシード」を軽いノリにしたような印象を受けてすごく作品に入りやすかったんです。それと「アップルシード」では作品の世界観を楽しんでいたんですが、「ギャロップ」ではガンアクションが僕のツボに入って。「自分でもガンアクションを描きたい!」と思わせてくれた作品です。それと同時期にハマったのが園田健一さんの「GUN SMITH CATS」です。
──「GUN SMITH CATS」は賞金稼ぎのラリー・ビンセントとミニー・メイの活躍を描く作品です。絵柄とは裏腹に大人な内容ですよね。舞台が海外ということもあり、海外ドラマのような雰囲気も感じます。
月刊アフタヌーン(講談社)で連載が始まったときには、専門学校の心の友にも「これは君の好みだね!」と言われたのを覚えてます(笑)。その言葉の通りとても影響を受けましたね。「ギャロップ」も「GUN SMITH CATS」も、よりキャラクターにスポットが当たっていて、そのニッチな世界観が僕が最初に好きになった「あぶない刑事」に近いものを感じたんだと思います。「GUN SMITH CATS」には「マイアミ・バイス」の血も感じて。僕が特に印象に残っているシーンは事件を解決するところで、ラリーがターゲットを撃ち殺した後に、寂しい顔を見せて物語が終わるんですよ。「マイアミ・バイス」でもよくやる演出で、後味悪い余韻がドラマをより引き立てるんですよね。
──この3作が先生のガンアクションマンガの礎を作った作品なんですね。
そうですね。「アップルシード」が土台なら、「ギャロップ」「GUN SMITH CATS」は僕のマンガの基本を形作った作品です。この2作を読んでガンアクションはこう描くんだというのを教わりました。