アニメ「前橋ウィッチーズ」TORIENAインタビュー|待望の初TVアニメ仕事でつんく♂と共作、“第一印象”をぶつけたOP作曲秘話を語る

4月から放送中の「前橋ウィッチーズ」は群馬県前橋市を舞台にしたオリジナルアニメ。地元の女子高生5人が魔女を目指しながら、魔法の花屋を訪れるお客さんの悩み、そして自身が抱える悩みとも向き合う中で、成長していく姿が描かれる。魔女見習いの5人を演じる春日さくら、咲川ひなの、本村玲奈、三波春香、百瀬帆南はアイドルグループ・前橋ウィッチーズとして活動中。オープニングテーマ「スゴすぎ前橋ウィッチーズ!」、エンディングテーマ「それぞれのドア」はともに彼女たちが歌唱している。

コミックナタリーでは「スゴすぎ前橋ウィッチーズ!」の作曲を務めたTORIENAへのインタビューを実施。「ずっとやりたかった」というTVアニメ仕事への思いや、影響を受けていたという作詞のつんく♂との共作への喜び、前橋ウィッチーズへの愛を語ってくれた。

なお、ナタリーでは「前橋ウィッチーズ」をもっと楽しめる特設サイト「前橋ナタリー」を展開中。「前橋ウィッチーズ」の最新ニュース、スタッフ・著名人へのインタビューや、作品の舞台・前橋市をより楽しめるコラムなどを掲載しているので、あわせて楽しんでほしい。

取材・文 / 平賀哲雄撮影 / 武田真和

これをやるために私は生まれてきたのかもしれない!

──オープニングテーマ「スゴすぎ前橋ウィッチーズ!」の作曲を手がけられた方がどんなアーティストなのか。まずそこから伺っていきたいのですが、ご自身ではTORIENAをどんな表現者だと捉えていますか?

この言い方はあんまり好きじゃないんですけど、マルチクリエイター的な感じなのかなって。音楽をメインで作っていますけど、自分でデザインしたりとか、最近だと3Dモデルを作っていたりもして。そもそもつくることが好きなので、クリエイター寄りだと思います。音楽ジャンル的には、もともとチップチューンというゲーム機でピコピコした音楽を作っていたし、カワイイフィーチャーベースの文化に混ざって表現していたときもあったので、世間的にはそっちのイメージも強いと思います。ただ、5年前ぐらいからハードテクノ系のジャンルにがっつり傾倒していって、最近はシューゲイザーも自分の作品に混ぜたりして、自分の好きなことをひたすらやっているので、ジャンルレスな感じでもあるのかなと。

「スゴすぎ前橋ウィッチーズ! / それぞれのドア」 オープニング盤のジャケット。

「スゴすぎ前橋ウィッチーズ! / それぞれのドア」 オープニング盤のジャケット。

──チップチューンに惹かれたのは、どんな理由や経緯があったんでしょう?

高校3年生のときに初めてテクノっぽい感じのクラブイベントに行ったんですよ。で、それまでヘッドフォンでしか音楽を聴いていなかったんですけど、大きいスピーカーでテクノを聴いたら、自分の中ですごい稲妻が走って「これをやるために私は生まれてきたのかもしれない!」と思って。高校を卒業するまでバイトでお金を貯めて、最初はCubase(※音楽制作ソフト)を使ってテクノをやっていました。そんな中で出会えた友達から「チップチューンって知ってる?」と言われて調べたら、私の中での印象としてはゲーム音楽というよりミニマルテクノに近いと思ったんですよ。それで面白いと思ってチップチューンを作り続けていたら、いろんな人が聴いてくれるようになりました。当時、女子大生で、若い女の子がゲームボーイを持って曲を作っているというキャッチーさもあったと思うんですけどね。

TORIENA

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──その結果、TORIENAさん自身も多くのゲームミュージックの制作を依頼されるようになっていきましたよね。

ゲーム自体をすごくやるほうではなかったんですけど、ゲーム音楽を創ることにはたぶん向いていて。なので、すごく楽しいなと思いながら制作していました。あと、楽曲を提供して、それが実際にゲームの中で流れてくると「おお!」みたいな(笑)、なんとも言えない感動がありましたね。活動歴が長くなってくると「10年前にあのゲームでTORIENAさんの曲を聴いていました」みたいな人が私のライブに来てくれることもあるから、それは本当にうれしいです。

アニメは好きです。小学3年生ぐらいで「デ・ジ・キャラット」に出会って

──そんなTORIENAさんから見て、今のアニメやゲームといった世界で評価されている日本のサブカルチャーシーンはどんなふうに映っていますか?

私は今みたいに盛り上がる前からずっと、いわゆるサブカルチャーは大好きで。ひと昔前は「オタクって……」みたいな感じだったけど、今はいい時代になったなと思いますね。そういうカルチャーを「好き」と言ってもヘンな目で見られないというか、引かれない。市場が大きくなったことで、そのシーンのクリエイターも生活しやすくなったんじゃないかなと思います。かつては専門的な会社に勤めていないと出来なかったことが、私みたいなフリーランスでもできるようになっているし、一線のクリエイターとして活躍できるようになったと思うので。でも、それゆえに躍起になって「人気を集めよう!」みたいな感じでバズを狙いすぎて、作品の濃度が薄くなっていくことを危険視はしています。消費されるスピードも速くなっていますし。

──ムーブメントが起きると、そういう問題も出てきますよね。

ゲームもアニメも音楽も1日でパッとできるわけじゃないし、長い歳月をかけていろいろ考えながら制作して完成するわけじゃないですか。でも、今はスピードを求められた結果、粗雑になってしまうケースも増えていると思うんですよね。すべてがそうなっているわけじゃないですけど、そういう部分もあるよなって。でも、その中で「クリエイターとして何を大事にするべきか」をよく考えるんですけど、やっぱり目先のバズとかじゃなくて、それこそ「10年前にあのゲームの音楽を聴いてファンになりました」みたいな人が出てくるような、ちゃんと自分の「好き」を貫いた質量のある作品を作っていきたいなと思います。

──そんなTORIENAさんとアニメの関係性についても掘り下げていきたいのですが、そもそもアニメは好きでした?

アニメは好きです。小学3年生ぐらいで「デ・ジ・キャラット」に出会って「絵、かわいい」みたいな。そこから萌えアニメ系に傾倒していって、ブロッコリー(※「デ・ジ・キャラット」の企画を展開する会社)系のコンテンツが好きになっていきました。その後に「プリンセスチュチュ」というアニメが好きになって。あとは、ちょっとグロ系にも興味が出てきて「エルフェンリート」とか「撲殺天使ドクロちゃん」とか、女の子はかわいいのにギャップがあるようなアニメにめっちゃハマりました。で、ファンサイトを回ったり、個人で描いているお絵描き掲示板とか見たりしながら満喫していました(笑)。

TORIENA

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──ちゃんとオタクだったんですね(笑)。

お絵描き掲示板でキリ番報告とかしていました(笑)。当時はちゃんとネチケットがあったじゃないですか。まだ小学生だったから拙いコミュニケーションで「そういう言い回しはよくないんじゃないかな。敬語使ったほうがいいよ」ってネット上でお姉さん方に怒られて学んだり(笑)。あと、オンリーイベントとかに行って、同人誌を買ったりもしていました。イベントに参加しているお姉さんたちの捌きっぷりを見ては「カッコいい!」と思ったり。そこで自分の「好き」を表現している人たちに憧れを持つようになったんです。チップチューンのシーンもオタク文化と密接なので、そういうDIY精神を持った人たちが多かったから、すごく居心地よかったんですよ。だからハマった部分もあると思いますね。

「前橋ウィッチーズ」はリアルとファンタジーのバランスが見事

──そんなバックボーンもあった中で、「スゴすぎ前橋ウィッチーズ!」を今回手がけることになったわけですが、どういった経緯で作曲することになったんでしょう?

「こういう企画のコンペがあるんですけど、応募してみませんか?」とご提案いただいて参加しました。私はずっとTVアニメの仕事もやりたいと思っていたんですけど、フリーランスってあんまりコンペの話が回ってこないんですよ。だから、これはチャンスだなと。それで応募したらありがたいことに気に入ってくださって。「前橋ウィッチーズ」は私の好きな魔法少女ものだし、キャラクターのイラストや設定などを見て「自分と相性いいかも」と思っていたので、そこからイメージする通りのファーストインプレッションでダイレクトに曲を作ったら、初めてアニメのテーマ曲を担当させていただけることになったんです。

オリジナルアニメ「前橋ウィッチーズ」キービジュアル

オリジナルアニメ「前橋ウィッチーズ」キービジュアル

──アニメ「前橋ウィッチーズ」を実際に観てみて、どんな印象を受けましたか?

自分は今32歳なんですけど、そんな私が子供の頃に観ていた女児アニメ感もありつつ、現代社会の風刺的な部分にも切り込んでいるから、私ぐらいの年代の人にもめっちゃ刺さるんじゃないかなって思いました。アニメが放送されている22時から23時くらいって、仕事で疲れて帰ってきて、化粧落としたりとかしてテレビ点ける時間帯じゃないですか。で、お酒を飲んだりしながら観て「あるある」と共感したり、同時に昔の自分のトキメキポイントみたいなモノが随所にちりばめられているから、それに癒されつつ……今を生きているリアルタイムの自分も、インナーチャイルドというか、心の中に残っている子供の自分も、どっちの自分も同時に癒される感覚があって。だから、すごいアニメだなと思いました。

5人の魔女見習いの内の1人、新里アズ。太っている自分が嫌いで、魔法で理想の自分になるために魔女を目指している。

5人の魔女見習いの内の1人、新里アズ。太っている自分が嫌いで、魔法で理想の自分になるために魔女を目指している。

──例えば、太っている自分を隠す為に魔女見習いになった女の子がいて、いわゆるルッキズム問題を題材にしていたり。それ以降もさまざまな社会風刺が組み込まれたストーリーになっているから共感性も高いし、それでもいわゆる魔法少女ものの世界観は崩れてないから癒されるし、元気ももらえますよね。

ナチュラルですよね。社会風刺的な部分も誰もが抱えているような悩みとして描いているし、わざとらしさや取って付けた感じがないから「こういうこともあるよね」って共感できる。でも、普通はわざわざアニメにしないところを突いてくるから、ちゃんと刺さってくる。だから感情移入しやすいんですよね。それこそ疲れてくたっとソファとかで観ているときにスーッと入ってくるモノがあって、そこからいろんな気持ちが溢れてきたりするアニメだと思います。

──前橋ウィッチーズのメンバーたち(赤城ユイナ、新里アズ、上泉マイ、北原キョウカ、三俣チョコ)にはどんな印象を持たれていますか?

5人の魔女見習いの内の1人、三俣チョコ。自由奔放に振る舞う明るくムードメーカー的な存在で、人一倍テンションが高い女の子。一方で、なぜかときおり電池が切れたようにボンヤリしていることも。

5人の魔女見習いの内の1人、三俣チョコ。自由奔放に振る舞う明るくムードメーカー的な存在で、人一倍テンションが高い女の子。一方で、なぜかときおり電池が切れたようにボンヤリしていることも。

自分の素の部分にすごく近いのは、アズアズ(新里アズ)。でも、キャラ的に好きなのは、チョコちゃん(三俣チョコ)です。人間ってすごく多面的じゃないですか。一部分を切り取って人の性格とかキャラクターとかって決めつけられない。ほかのメンバーもそうなんですけど、そこの描かれ方がアズアズやチョコちゃんは顕著だなと思っていて。「前橋ウィッチーズ」はそこもリアルですよね。で、そのリアルとファンタジーのバランスが見事なんですよ。リアルだけだと娯楽として成立しづらいし、ファンタジーだけだと自分と切り離して楽しむことになるけど、そこのバランス感やフィット感が本当によくできているなと思います。あんまりないですよね、こういうアニメ作品って。