第2回コミナタ漫研レポート(ゲスト:水城せとな)【2/5】

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絵や話と違い、セリフで好みは分かれない

唐木 実際女性の読者、多そうですよね、ネット上の感想とか見てると。では次のお気に入りポイント行きましょう。もう1つは、「セリフの魅力」であると。これはどういうことですか。

水城 魅力的なセリフって、なくても話は成り立ちますけど、あることで作品がぐっと面白くなるんですよね。例えばこのセリフ。

「『汝の隣人を愛せ』ってあんたらの神様は言ったんじゃなかったの?」

「『汝の隣人を愛せ』ってあんたらの神様は言ったんじゃなかったの?」[拡大]


水城 テロとの戦いに向けて、えげつない内容の作戦会議が行われています。そこで聖書の言葉を盛り込んだこのひと言。「『汝の隣人を愛せ』ってあんたらの神様は言ったんじゃなかったの?」

唐木 この問いかけた人は、おそらくイスラム教徒なんですよね。

水城 そうですね。それに対して、おそらくクリスチャンであろう女性が「相手も愛してくれるとは限らないもの」って答える。悲惨だったり緊迫した場面でも、みんな知的なジョークを言うんです。

唐木 僕がしびれたのはこのシーンですね。

「あれも近所の子か?」

「あれも近所の子か?」[拡大]

唐木 テロリストのアジトに近所の女の子が訪ねてくるんですが、暗殺者と間違われて監禁されてしまう。それをピーノという殺し屋が解放してあげるんですが、そのすぐ後に、本当の暗殺者トリエラが銃を持って突入してきて。そしたら仲間がこう言うんです、「あれも近所の子か?」。んなわけないだろ! と(笑)。ウィットに富んでますよね。

水城 あははは。最高ですよね。私もこれ大好きです。

唐木 こうした、大人が読んでもニヤリとさせられるセリフが多いんですよね。こういった魅力があるセリフは、作品にどのような効果をもたらすと思いますか?

水城 あのですね、絵って、どうしても好みがあるじゃないですか。誰もが好きな絵ってなかなかないんです。

唐木 ああ。たとえば劇画調が好きな人もいれば、萌え絵が好きな人もいて、逆にそれぞれが苦手な人もいる。

水城 ストーリーについても、ファンタジー読みませんとかSF苦手とか、あると思うんですよ。でもセリフについては、あまり好みがないのかな、と。セリフのせいで食わず嫌いされるとか、私はあの手のセリフがいやだとか、そういう意見ってあまり聞かないなって思って。

唐木 確かに、セリフに関してはジャンルとか流派って存在しないですよね。

水城 だから比較的、人を選ばず楽しませる要素なんじゃないかと思うんですよ。

死んでおしまいでもハッピーエンドはあり得る

唐木 その発想は目から鱗でした。だからセリフ回しが魅力的な「ガンスリ」は、自分がハマると同時に多くの人にも勧められる、と。セリフも含めた話全体に流れているムードはどうですか。

水城 とにかく超展開がないのがいいですよね。義体は寿命が長くても3年くらいという設定。みんな無垢な子たちだし、読んでて「この子たち何も悪くないのに死ぬの?」っていう思いが湧き上がると思うんですけど、死ぬもんは死ぬんですよ。

唐木 そこはこう、残酷とは言わないけれども、突き放した態度なわけですね。

水城 ですね。でも「魔法のようなミラクルが起きて死ぬはずだった人が最終回でみんな助かった」みたいな展開しかハッピーエンドじゃないとしたら、それはそれで悲しいことだと思うんです。現実世界でも人間は死ぬけど、みんな幸せに人生終えたりするじゃないですか。

唐木 死ぬけど、ハッピーエンドということはぜんぜんあり得る。

水城 そう。むしろそのくらいどうしようもない状態をちゃんと描いてあるもののほうが、私は読んでて素直な気持ちになれるんです。「こんなことあるわけないじゃん!」ってイライラして終わるような話だったら、私がハッピーな気分になれないから、私にとってはハッピーエンドじゃないんですよ。終わるまでの過程で「こんないいことがあった」って思えれば、それで十分ハッピーエンド。「ガンスリ」はまだ終わってないですけど、私は十分ハッピーなお話だと思って読んでます。

唐木 ここで象徴的なシーンをひとつ。息が詰まる場面ですが。

ソードオフのエピソード

ソードオフのエピソード[拡大]


水城 トリエラという義体の子が愛用の銃を切り詰めるシーンですね。ウィンチェスターという銃に特別な愛着を抱いてるんだけど、この銃は少女が使うには銃身が長くて、戦闘中の取り回しが悪かった。愛着があるからトリエラは切りたくなかったんだけれど、「これで大怪我してちゃだめだもんね!」って、切るんです。「生きるために切る」っていう決意をする。

唐木 自分の愛着、ひいては自身の命よりもミッションの遂行、担当官の命を守ることを優先するっていう、覚悟を決めたんですね。こうした現実と正面から向き合う態度というのが、水城さんにとっては魅力的だと。

水城 はい。死への決意を固めた、トリエラの強さが垣間見えます。(つづく)

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第2回コミナタ漫研レポート(ゲスト:水城せとな)【2/5】 http://natalie.mu/comic/news/41882

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