「谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー」の単行本発売を記念したトークイベントが、去る11月18日に東京・読売新聞東京本社にて開催され、
「マンガアンソロジー谷崎万華鏡」は文豪・谷崎潤一郎の生誕130周年を記念し、中央公論新社の公式サイトにて展開されていた連載シリーズ。近藤と山口をはじめ、
「陰翳礼讃」を教科書で読んで以来、谷崎作品には触れてこなかったと言う山口。今回の企画で谷崎作品を読み、「噂に聞いている通りだなというのはよくわかりました。ただ噂に聞いている以上に常識人が見え隠れした」と述懐する。また高野文子が企画に参加した際に「(谷崎の小説は)体に合いません」とコメントしたことに触れ、「読んでみると確かに頷けなくもない」と共感しながらも、「あまり読んでいて楽しい気分にはならないんだけど、中毒性がある。いい人が出てこない、感情移入できる人が出てこない話は途中から楽しくなってくるんですよね」と感想を述べた。
「なんとなくタイトルに惹かれて『痴人の愛』や『刺青』を読んで、『合わない』と思ったんです」と、これまで抱いていた谷崎作品への印象を明かした近藤。今企画で「夢の浮橋」を選んだ理由を聞かれると、「(企画に参加するにあたり)初期作品から読んでいこうと思って読み始めたら、やっぱり全然好きじゃないなと(笑)。選べないなと思っていたんですけど、晩年の作品に差し掛かったら、『夢の浮橋』はそれまでと作品の雰囲気が違ったんです。そこから『台所太平記』『瘋癲老人日記』とかも読んでみたら、その辺りの作品は全部好きでした」と好意を示し、「その中でも何度読んでもよくわからないな、何回も読みたいな、と思った『夢の浮橋』を選びました」と理由を述べた。
司会に「(近藤が好む谷崎作品は)全部70歳を超えてからの作品ですよね」と触れられると、近藤は「噂によると、その頃の谷崎は奥さんの連れ子の妻(渡辺千萬子)が好きだったんですよね。その方が随分作品に影響を与えていたんじゃないかと。千萬子さんが素敵な方だったのかなと思いました」と想像を膨らませた。
今回が初めて本格的なマンガの執筆となった山口は、「ちょっと舐めてたところがあり、えらい目に合いました」と苦笑い。「台所太平記」をユーモアたっぷりに、ダイジェスト形式で描いた山口だが、「まずネームができないわけですね。小説を縮めるというのに、どこを切っていいかがわからない。そこにまず四苦八苦した」と思い返す。「マンガ家さんによって『ネーム』と呼んでいるものが結構違う」と語る近藤は、「私が『ネーム』と言って渡すのは、いつも文章(プロット、あらすじ)だけなんです」と説明。担当編集を務めた司会が「確かに近藤さんから『ネームをお送りします』といって短い小説のような文章が届いたんですけど、それがとっても素敵だったんです」とエピソードを明かした。
少ない情報のみ描かれた下描きからペン入れを行うという山口に、下描きを見た近藤は「あの状態でペン入れができるって、素晴らしいと思いました。私には絶対無理です」とコメント。山口は「(NHK Eテレで放送されているドキュメンタリー番組)『浦沢直樹の漫勉』を観てビックリしたのが、みんな『もうそれで出せばいいのに』っていうくらい下描きをするんですよね。僕は(普段は)和紙に描くものですから、消しゴムなんてかけたらイチコロ。だからなるべく下描きをしないようにしているので、『あんなに書くんだ!』というのが新鮮で」と、制作環境の違いから生まれた驚きを語る。今回の企画では「きっちり描くと勢いのない線になってしまうから、多少絵が歪んでも、勢いを感じてもらえればいいかなと思った」と、普段の制作と近い形で執筆したことを明かした。
なお「マンガアンソロジー谷崎万華鏡」の刊行を記念し、11名の作家による原画、パネルを並べた展示イベントが、東京と京都にて順次展開。11月26日、27日には東京・東中野のaptpにて、11月29日から12月5日までの期間は京都・誠光社にて、12月8日から25日までの期間は東京・荻窪のTitleにて実施される。一部作品は会場ごとに展示替えが行われ、いずれの会場でも書籍、グッズの販売を予定している。
「谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー」
収録作品
山口晃「台所太平記」
今日マチ子「痴人の愛」
「谷崎万華鏡」原画・パネル展
日時:2016年11月26日(土)、27日(日)
会場:aptp
住所:東京都中野区東中野3-16-14 5階
日時:2016年11月29日(火)~12月5日(月)
会場:誠光社
住所:京都市上京区中町通丸太町上ル俵屋町437
日時:2016年12月8日(木)~25日(日)
会場:Title
住所:東京都杉並区桃井1-5-2
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