山田南平の最新作「犬飼くんのシッポ-恋するMOON DOGスピンオフ-」は、満月を見ると犬の姿になってしまう女子高生・志保と、クールで怖がられているが、実は犬には激甘なクラスメイトの犬飼くんが織りなすラブコメディ。累計170万部を突破したヒット作「恋するMOON DOG」(以下「恋犬」)のスピンオフではあるものの、実は「恋犬」の初期構想として山田が温めていたもので、今作から読んでも違和感なく楽しめる内容になっている。
コミックナタリーでは「犬飼くんのシッポ」1巻の発売を記念して、山田と、山田作品の生粋のファンである声優・花澤香菜の対談をセッティング。「紅茶王子」「恋犬」など山田作品をたびたびテレビで紹介してきた花澤の熱くまっすぐな山田作品愛と、そんな花澤を前に山田が明かした物語の構想、犬を描くうえでのこだわりといった裏話を楽しんでほしい。
また花澤と同じく山田作品の大ファンである、声優の潘めぐみからもメッセージと山田への質問が到着。「ここからしか得られない愛おしさと健やかさが詰まってる」と太鼓判を押す「犬飼くんのシッポ」の魅力とは。
取材・文 / 小田真琴
ドキドキ×モフモフのラブコメディ
「犬飼くんのシッポ-恋するMOON DOGスピンオフ-」
満月を見ると“犬化”してしまうという秘密を持つ、高校2年生の尾上志保。ある日帰り道でうっかり犬の姿になってしまった志保は、クールで怖がられているクラスメイトの犬飼くんに、迷い犬と間違えられて保護される。犬化した志保を“シッポ”と呼んでかわいがり、教室では見られない甘い笑顔をたっぷり見せる犬飼くん。彼が気になり始めた志保は、志保=シッポであることは隠しながら犬飼くんに近付いていき……。秘密を抱えたドキドキのラブと、イケメン×モフモフのわんこの組み合わせにときめきが止まらない、山田南平の最新作だ。
山田南平作品は「私の中の少女がうれしがる」
──花澤さんは山田先生の大ファンなんですよね。コミックナタリーの「恋するMOON DOG」特集でもコメントをいただきましたが、対面するのは今日が初めてだとか。
花澤香菜 そうなんです。こんなふうにお話しできる日が来るとは思ってもいなくて、本当にドキドキしながら来ました!
山田南平 ありがとうございます。
──かなり年季の入ったファンでいらっしゃると伺っています。
花澤 中学生の頃に「紅茶王子」を読んだのが最初です。すっかりアッサムに恋してしまいまして、それまでは紅茶にいっさい興味がなかったんですが、マンガの影響ですっかり紅茶好きになってしまいました。母に「この紅茶を買って!」と頼んだり、紅茶売り場にアッサムがあるとそればかり選んだり、好みのタイプも、色気のある、ワイルドなキャラが好きになったり。先生の描く髪の毛の表現とか、ほかの作家さんにはない官能性や魅力がキラキラして見えて、すっかり虜になったんです。「紅茶王子」も母と一緒に読んでいたんですが、「恋犬」を「ホンマでっか!?TV」で紹介したときも母はすでに読んでいて。犬好きの母にとってはど真ん中だったみたいで、「よくぞ紹介した!」と褒められました(笑)。
──山田先生は花澤さんがファンだと知ったきっかけはなんでしたか?
山田 ハライチの岩井さんとやっていらっしゃったテレビ番組(「週刊まんが未知」)で花澤さんが「紅茶王子」を紹介してくれていたのがきっかけですね。花澤さんの出演作はよく拝見していたのでとてもうれしかったです。「アッサムが好き」とおっしゃっていたので、色紙に描いてお渡ししたのを覚えています。がんばってカラーで描きました(笑)。
花澤 これはもう“嬉死”してしまうんじゃないかというくらいめちゃくちゃうれしかったですね。いつも仕事前に見て、がんばろうって思っています。自分の思いを発信したら、先生にまで届いてしまうということに驚いたとともに、感激しました。家宝にしています!
──山田作品の魅力はどこにあると感じますか?
花澤 「紅茶王子」も「恋犬」も、「こんなことがあったらいいな」という乙女心をくすぐるというか、私の中の少女がうれしがるんですよね。そこには憧れがあるし、普通の恋愛ではなく、障害があるからこそ乗り越える姿に感動します。先生の絵も大好きで、眺めているだけで幸せですし、色気もすごい。鼻血が出そうなぐらいです(笑)。
山田 ありがとうございます(笑)。
──そう考えると「恋犬」はまさにご褒美のような作品でしたよね。
花澤 ご褒美がコンスタントにやってくるというか……(笑)。
山田 割とあえてストライクをはずすような恋愛ものばかりを描いてきたので、「たまにはストレートど真ん中を狙って」と編集部にリクエストされて描いたのが「恋犬」だったんですが、皆さんの反応を見て、がんばって狙ってよかったなと。
花澤 もうまんまとやられています!
人間には塩対応なのに犬には優しい、やっぱりときめいちゃう
──まずは今回の新作「犬飼くんのシッポ-恋するMOON DOGスピンオフ-」について聞かせてください。「恋犬」に登場する志保と犬飼くんの高校生時代の物語ですが、以前インタビューでお話いただいた通り、実は「恋犬」の最初の設定ではこの2人が主人公だったんですよね。
山田 そうなんです。犬になるのは女の子のほうで、主人公カップルは高校生同士という、その設定で70枚くらいネームを描きました。ただ「恋犬」は大人向け少女マンガ誌に載るものということで、編集長から「主人公たちを成人の設定にしてほしい」というリクエストがあって。志保と犬飼くんのお話もいずれ描きたいと思っていたので、「恋犬」が軌道に乗ったらまずは番外編か何かを描かせてもらって、さらに軌道に乗ったら本連載が終わった後に続編でやらせてもらえないかなと思って、ちょっと狙ってがんばっていたところはありました。
──この2人を描きたいという気持ちが強かったんですね。花澤さんは読者として「犬飼くんのシッポ」をどう感じましたか?
花澤 主人公の志保ちゃんがシッポの姿でいる場面が多いので、犬の目線で物語が進むというのが新鮮でした。普段人間として接している男の子を、犬目線で見るのが新鮮で! しかもその彼が人間には塩対応なのに犬に優しいって、もうやっぱときめいちゃうじゃないですか。「こうやってかわいがってもらえるんだ!」「シッポのようにかわいがられたいな」って、そういう興奮がありますよね(笑)。ちょっと覗き見している感覚というか、少々の罪悪感もありつつ。
山田 その反応はうれしいですね。罪悪感というのは考えたことなかったのですが、確かにありそうです。
花澤 まだ志保ちゃんは自分がシッポであることを内緒にしているので、今後犬飼くんに告白する瞬間が描かれるのが、すごく楽しみです! 絶対盛り上がると思うので。
山田 そうですね。がんばります!
──時系列的には「恋犬」よりも以前のお話で、ある意味私たちは2人の行く末を知ってしまっているわけですが、そのあたりは読んでいていかがですか?
花澤 うまくいくっていうのがわかってるから、安心して読めるっていうのもうれしいところだなって思います。あと、先生の作品って、基本的にあんまり意地悪な展開がないじゃないですか?
山田 確かにそうですね。
花澤 でも今回は、犬飼くんが人間相手にめちゃくちゃ塩対応してて……。舌打ちしたり、顔しかめたり、女の子相手にもけっこう厳しい態度とったりして。え、そんなに?っていう。
山田 そうなんです。だから毎回「これ大丈夫ですか?」って、担当さんに何度も確認しながらネームを作ってます(笑)。
花澤 担当さんはなんて言ってましたか?
山田 描いたものを見せたら、「次にデレが来るから大丈夫です!」って言ってもらえたので安心して描けました(笑)。
──花澤さん的には大丈夫ですか?
花澤 はい、むしろツンが強ければ強いほど、甘いときとのギャップにやられて、どんどん沼にハマっちゃうタイプなので、全然大丈夫です! むしろもっとやってほしいくらいです!
──今回はツンの限界に挑戦!と。読者の皆さんも、「先生ならそこまでひどいことはしないだろう」って思っている気がします。
山田 うーん、どうかな……。今やってるネームでも、「いや、それはさすがにひどくない?」っていう展開がちょいちょいあって……。毎回、「これ大丈夫かな……?」って思いながら描いてます。でもそのたびに「大丈夫です!」って言われるので、そのままやってます(笑)。
──ちなみに「恋犬」では主人公が成人でしたが、大人の恋愛と高校生の恋愛では、描き方も変わってきますよね。
山田 もともと「紅茶王子」とか「空色海岸」とか、高校生ものばかり描いていたので、そんなに違和感はなかったのですが、「恋犬」を経て改めて思ったのは、高校生の恋愛だと親が登場するのが早いんですよね。大人の恋愛では親やきょうだいが関わってくるのって、結婚するくらいのタイミングじゃないですか。でも高校生だと、付き合う前から親きょうだいががっつり関わってくる。描きながらそのことに気づきました。
──高校生の恋愛に大人の視点を挟むことによってどのような効果がありますか?
山田 今作でいえば志保のお母さんが恋愛に口出ししてきたり、協力してきたりと、ガンガン絡んでくるんです。私とうちの娘は、たまに愚痴とか聞くぐらいであんまりそういうのがないので、これはどうなのかなと思ったんですけど、でもよく考えたら私自身は母親に相談していたし、だいぶ絡んでもらっていたなっていうのを思い出しました。親子それぞれいろんなパターンがあるから、きっとこういう娘と母親もいるだろうなとは思っています。
花澤 すごくわかります。私もけっこう母や父に恋愛相談していました。
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志保のビジュアルは先に犬種=コーギーから考えた