2024年に20周年を迎えたNoism Company Niigataが、12月から2025年2月にかけて「円環」で4都市ツアーを繰り広げる。「円環」は、近藤良平の演出振付による新作「にんげんしかく」と、金森穣演出振付による新作「Suspended Garden-宙吊りの庭」&レパートリー作品「過ぎゆく時の中で」のトリプルビル。そして「Suspended Garden-宙吊りの庭」には、Noismの元メンバーである宮河愛一郎と中川賢が出演する。
ステージナタリーでは、現在のNoismを金森と共に牽引する、国際活動部門芸術監督の井関佐和子、地域活動部門芸術監督の山田勇気、そして宮河、中川の座談会を実施。さらに近藤と金森に、それぞれの作品についての手応えやトリプルビルの魅力について聞いた。
なお日本初の公共劇場専属舞踊団であるNoismには現在、プロフェッショナル選抜カンパニーであるNoism0、プロフェッショナルカンパニーNoism1、研修生カンパニーNoism2と3つのカンパニーがあり、Noism0は金森と井関、山田の3人で構成されている。
取材・文 / 熊井玲撮影 / 遠藤龍
時は巡る…「円環」に井関佐和子が込めた思い
──まずは井関さんに、「円環」というタイトルについてお伺いします。Noismというと、直線的な、前進し続けるイメージがあったので、今作のタイトルを新鮮に感じました。タイトルにはどのような思いをこめられたのでしょうか?
井関佐和子 確かにNoismって直線的なイメージがあると思います。ただ今回私が考えていたのは、近藤良平さんとサトシ(中川賢)、アイチ(宮河愛一郎)が戻ってくるということなんですね。しかも、ただ単純にゲストとしてやって来るというよりも、すごくいろいろな点を通って、円を描いて戻ってきた感じがするんです。(金森)穣さんは、時間は真っ直ぐに進んでいるイメージだそうですが、私は時間が常に“円”に感じられます。そういったこともあり、また円環という言葉も字面も好きだったので、今回「円環」というタイトルにしました。でもこのタイトルをつけた瞬間から、これで終わりたくないとも思っていて。一周一周の繰り返し、堂々巡りするんじゃなく、次の円に進んでいくものにしたいなと……あ、だったら「♾️」のマークにすれば良かったのかな?(笑)
一同 あははは!
──今回はトリプルビルということで、近藤良平さんが演出振付を手がけるNoism1の新作「にんげんしかく」と、金森穣さん演出振付によるNoism0の新作「Suspended Garden-宙吊りの庭」、レパートリー作品である「過ぎゆく時の中で」が金森さんとNoism1の共演で上演されます。近藤さんは2005年の「犬的人生」以来19年ぶりにゲスト振付家としてNoismに参加します。また新作「Suspended Garden-宙吊りの庭」では金森さんと5度目のコラボレーションとなるパリ生まれ、ベトナム人作曲家のトン・タッ・アンさんが音楽を手がけます。「過ぎゆく時の中で」は2021年に「TOKYO MET SaLaD MUSIC FESTIVAL 2021 [サラダ音楽祭]」で上演された作品です。“三本の矢”ではないですが、Noismの今を表すのにぴったりなバランスの3作なのではないでしょうか?
井関 ゲストの方をお呼びするとき、最近はダブルビルのことも多いのですが、今回はまず近藤さんとアイチ、サトシを呼びたいという思いが強かったので、それを踏まえてトリプルビルにしました。というのも、これは私が振付家じゃないからできたことかもしれないのですが、金森穣のテイスト、近藤良平のテイストを2つ並べて提示することはしたくなかったんです。穣さんと良平さんはタイプが真逆だとよく言われますが、私は方向性ややり方が違うだけ、と思っているので、ダブルビルにすることでそれを強調してしまいたくはないと思ったんです。そこで、「過ぎゆく時の中で」を入れてバランスを取りました。
──宮河さんと中川さんをゲストに、というアイデアは企画の最初からお持ちだったのですね。
井関 この数年、2人に会うたびに私は、サトシにもアイチにも「また踊りたいね」という話をしていました。ただ、最初は個人的な感覚でそう思っていただけなんですけど、2022年にNoism国際活動部門芸術監督になってからは一歩引いて考えるようになり、個人的な感情とは別の目線で、Noismの状況や彼らの舞踊家としての立場や年齢的なことを考えて、「今だな!」という感じがしたのでオファーしました。
──最初からお二人一緒に、の予定だったのですか?
井関 スケジュールがうまくあえばと思っていましたが、そこにこだわっていたわけではありません。ただ改めて考えると、Noism0は私と(山田)勇気と穣さんの3人でやってきたので、ここに誰か1人だけを入れるのはちょっと違うかな、だったら2人がいいんじゃないかなと思ってはいました。それに、どっちかだけ呼んじゃうと、どっちかが嫉妬しちゃうかもしれないし(笑)。
一同 あははは!
──山田さんはこのアイデアを聞いてどうお感じになりましたか?
井関 ……実はあまり事前に話してなかったんですよね、プレゼント的に。
山田勇気 うれしいなと思いましたが、同時にどうなるのかなとも考えていました。僕は2人とそんなによく会っていたわけではなかったし、自分は新潟でずっとやってきたけれど2人はこれまでいろいろなことをやっているので、久しぶりに一緒にできるのはうれしいけど、どういうふうになるのかなって。ワクワクと、想像できない部分のドキドキと……いろいろな気持ちがありました。
──ゲストのお二人は、井関さんのオファーをどう感じましたか?
中川賢 俺はうれしかったです。
宮河愛一郎 僕は11年ぶりですからね……Noismをやめた人が帰ってくるというパターンを僕は知らないから、すごいことが起きたなという気持ちはありました。
井関 振付で帰ってくる人は時々いるけど。
宮河 出演で帰ることはまずないと思っていたから、最初はあまり現実味を感じなかったです。
中川 海外のカンパニーだと、もともといたメンバーがゲスト出演するっていうことはよくあって、そういう関係ってすごくいいなと思ってた。
宮河 うん。だから今回、自分もそういうことができるのはちょっとうれしかったですね。
──オファーの時点で、新作であることや金森さんの振付だということは決まっていたのですか?
井関 いえ、決まっていませんでした。確かに、彼らが出た過去の作品の再演に出てもらうっていうのも良かったかもしれないけれど、今回は穣さんに、今の彼らと向き合ってみてほしかったということがあります。今の2人だとまた全然深みが違うはずなので、そこに金森穣がどういう演出、振付をしていくのかをちょっと見てみたかった。
──金森さんは、4人の新作を振り付けることは、すっとお引き受けになりましたか?
井関 私が国際活動部門の芸術監督になってからは、「言われればなんでもやります」と、言ってくれているので。もちろん、穣さんがやりたいことについては日々聞いていますが、「決めてくれたら考える」と言ってくれています。ちなみに穣さんにも入ってもらって5人で踊るのも良かったんですが、「さすがにこの4人を扱うのに、俺は出られない」と言うので、4人になりました。内容については、最近はあまり前もって知っていると面白くないと思っているので、稽古初日、みんなと一緒に作品の説明を聞きました。もっと踊らない作品になるかなと思っていたら、すごい踊ることになっていて(笑)。
宮河 僕ももっと演劇的な作品になるのかなと思っていて、それで僕を呼んでくれたのかなという思いはあったんだけど……違ったね。ただ最初のうち、穣さんも方向性を探っている感じじゃなかったですか?
井関 確かに、あまり最初から決め込まず、まずは4人がスタジオに入ってからどう向き合うのか、様子を見てましたよね。そうしたらみんな、思いのほか動けたから。
中川 みんなすごい踊ってますよ!
一同 あははは!
リラックスして向き合える稽古場
──先日の会見(参照:Noismトリプルビル「円環」近藤良平は新作でダンボール使用、50歳金森穣はNoism1との共演に期待)で、井関さんが「久しぶりに一緒に踊ってみたら、すっとなじんだ」とお話しされていました。皆さんは、お互いの“変わったところ、変わってないところ”をどんな風に感じましたか?
山田 さっき僕は、“いろいろな気持ちがあった”と言いましたが、稽古が始まってみたら、2人とも中身は全然変わらないし、クリエーションの深いところからわかり合えたので、齟齬みたいなものは全然なかったです。
宮河 でもまあ、容姿はね、確実に変わって。
一同 あははは!
宮河 シワが増えたし、目がもっと強かったということはありますが、でもお互いの目の奥を見ていると、サトシが俺を見ている目は昔と変わってないなって感じるんです。また自分自身も、佐和子と踊っていると25歳とか30歳のときの自分に戻っているような感じになるのが面白くて。いろいろな経験を重ねる中で背負っているものはあるんだけれど、ここにきてそれを脱いでる……というより、芯の部分がペコって顔を出すような気がしています。
中川 俺もほとんど変わってないなあと思うし、リハーサルでやり取りしてることは昔とまったく変わらないなあと思う。でもみんな肩の荷が下りてるというか、いい意味でリラックスしている感じはします。あの頃の「こうやらなきゃ!」と奥歯を噛み締めてやっている感じは今はない。そこは変わったのかな。
井関 確かに力は抜けてるかも。
山田 そんな感じはありますね。
宮河 2・3カ月するとまたいなくなる、ということも影響してるとは思う。前だったら、1つの作品に出ているときに先のことや終わりは考えずにやっていたけれど「あと3カ月しかない」と思うとシンデレラ状態というか、0時になったらオッサンに戻る、みたいな悲しさが常にあるんですけど(笑)、でも終わりがあるからこそのリラックスもある気がします。
井関 実は私も今朝、クラスをしながら考えていたんだけど、数カ月後、2人がいなくなったとき、昔だったらロスになると思うけど、今は「きっとまた時が巡ってくる」と思えるだろうなって。
山田 うんうん。
井関 もしね、もう少し若いときに一緒にやることにしていたら、逆に張り切っちゃったかもしれない。でも今は張り切ってても、“見失わない”よね。
中川 確かに前は夢中だった。
井関 でも今は、そんなみんなのベクトルが円環するっていうか……。
山田 そういう気はするね。
宮河 今の佐和子の話を聞いていると、例えば僕たちの活動をずっと見ていたとか、僕たちを呼ぶタイミングを待っていたとか、この4人に振り付ける穣さんを見てみたいとか、佐和子の視野がすごい広くなったよね。もともとそうだったのかな? それとも立場が変わったり、ほかのダンサーたちと年齢の差が出てきたことが関係しているのかな。
井関 どうかな。でもみんなとは、つらかったり楽しかった過去がいろいろあったうえで今、お互いをリスペクトし合っているからじゃないかな。
──宮河さん、中川さんは今、実家に戻ってきたような感覚や同窓会のような懐かしさを感じていますか?
中川 俺の場合は……これまでの延長線上にある感覚かも。
山田 すごくわかるな。
中川 俺はNoismを辞めて5年経つんだけど、その後、東京でダンスをやってきて、でもそこからずっと地続きで今がある感じがする。だから、Noismに戻ったらもっと特別な感じがするんじゃないかと思っていたんですけど、クラスとかも普通に気持ちよくできたし、意外にすっとなじみました。
宮河 僕も「ああ、これだったのか! マッチした!」みたいな感覚はありますね(笑)。Noismで学んだことはめちゃくちゃ多いし、今その経験をベースに仕事している思いがあるので、Noismの血がめちゃめちゃ強く流れていると思います。しかも今、なぜだか身体も軽くなってきて!
井関 え、疲れないの?
宮河 それが疲れないんだよねー。
井関 2人が戻ってきてから私、すごくしんどい。これまでちゃんと動けて……
山田 なかったのかも(笑)。
一同 あははは!
──会見で金森さんが、すぐ作品が出来上がってしまったとお話しされていましたが、稽古ではさらに踊り込んでいるのですね。
一同 (うなずく)。
井関 私たち4人で踊っていると、お客さんからは絶対にわからないだろうなというような細部を、いつまでもいつまでも研磨している感じなんですよ。1つのシーンが1つの作品かなと思うくらい、ずっと同じことをやっていて。
宮河 で、そのシーンを穣さんに見せると、アイデアが湧いて、穣さんがすぐ変えたくなっちゃう。だから僕らもどんどん変更点をメモらなきゃいけなくて……。
山田 見せるたび、どんどん変わるからね(笑)。
中川 前は、自分たちも自信を持ってシーンを提示しているという気持ちが強かったから、出来上がったピースを穣さんに「違う」って言われると、「うっ」ってなることもあったんですけど……。
井関 今は「こっちのほうが良くなるでしょ?」と言われて「確かにそうしたほうが良くなる。そっちがいいですね」と受け止められるようになった。みんなが納得して飲み込むから、穣さんのイメージもさらに膨らんで、また新しいことをやらないといけなくなるんだけど(笑)。でも今は本当にクリエイティブな時間が過ごせているなと思う。
次のページ »
Suspended Gardenはどういう場所か