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文学座2020特集 鄭義信×松本祐子×マキノノゾミ×西川信廣 座談会|相性がキモ!? 文学座が生み出す劇作家×演出家コンビの魅力

1937年、久保田万太郎、岸田國士、岩田豊雄(獅子文六)の3人の文学者によって創立された文学座は、同時代作家の書き下ろしや古典・現代の翻訳劇など、さまざまな芝居を感度高く取り入れ、発信してきた。ステージナタリーでは、2020年上演ラインナップの中から「五十四の瞳」を手がける鄭義信(作)×松本祐子(演出)、「昭和虞美人草」のマキノノゾミ(作)×西川信廣(演出)の2チームに注目。歴史ある豊かな文学座の土壌で名プロダクションを生み出してきた、演劇ファン垂涎の劇作家×演出家のタッグに創作の源を聞く。

また、文学座アトリエが2020年に創設70周年を迎えることを祝し、演出家・鵜山仁の指揮のもと、「岸田國士フェスティバル」が開催される。鵜山が岸田作品の魅力を掘り下げると共にフェスティバルにかける思いを文章で寄せた。

取材・文 / 大滝知里 撮影 / 川野結李歌

ネームバリューでは決まらない、文学座での上演には“うそプシス”が必要?

──マキノノゾミさんと西川信廣さんは6月に「昭和虞美人草」を、鄭義信さんと松本祐子さんは、11月に「五十四の瞳」を文学座本公演として上演されます。それぞれにチームとしてすでに何作も手がけられていますが、クリエーションの前にどんなお話をされたのか、企画の起こりを教えてください。

西川信廣 僕らの場合は、マキノさんから「こういうのを書きたい」と言うときと、僕から「こんなのはどう?」って言うときがあって。お互いにアイデアをぶつけて、最終的に違うものが出てきたり。最初は「飲もうよ」から始まるんだけど(笑)。

一同 (笑)。

マキノノゾミ まあまあ、基本は飲みですよね(笑)。

鄭義信 こっちも飲みです。

左から鄭義信、松本祐子、マキノノゾミ 、西川信廣。

松本祐子 「五十四の瞳」では、鄭さんに焼肉をおごってもらいながら話した記憶がございます(笑)。一昨年の暮れくらいかな。

西川 僕らも今回の作品について話した時期は「再びこの地を踏まず─異説・野口英世物語─」の再演(2018年)あたり。マキノさんがこの時期だったら書けるという情報を得て、すぐに話を持ちかけたんです(笑)。うちの劇団は若い人が出した企画も同等に平場で検討するから、企画を挙げるときはネームバリューではなく具体性が求められる。

──文学座は年度ごとのラインナップが決まるまでに、関門がいくつもあるとお聞きしたことがあります。

松本 エゴをぶつけ合いながら(笑)、プレゼンして企画チームを説得しなければならなくて。説得材料がないと鄭さんであれマキノさんであれ、「あいまいな話は信じられない」と言われてしまう。手数のかかる劇団なんです。

西川 実は、マキノさんが「『昭和虞美人草』を書きたい」と言ったときも、とりあえず企画会議に出してみたら、案の定「これじゃダメ」と返された。マキノさんに「もうちょっと構想を書いてくれる?」と無理やりお願いしたら説得力のある……。

マキノ あははは! 社内プレゼン用のエッセイを(笑)。

西川 A4で8枚くらいかな。でもそれがすごく面白くて、ラインナップに入ることができたんです。

 僕も“うそプシス”書きました(笑)。

書き下ろしを“嫁に出す”マキノ、脅されて書く鄭──劇作家と演出家の関係性もそれぞれ

──文学座では世相に斬り込む作品から心温まる群像劇まで多彩な作品が上演されていますが、劇団が好む劇作家の特徴はありますか。

西川 うちの財産演目「女の一生」「ふるあめりかに袖はぬらさじ」が良い例なんだけど、文学座って“中間文学劇団”だと思っているんだよね。文学性もあるけど演劇性もあって、単なるエンタテインメントにはとどまらない。そういう作品を書いてくれる人かなと思います。

マキノ 僕、昔言われたことあります、中間演劇って(笑)。

松本 初めて聞いた、その言葉。

マキノ 要するに芥川賞と直木賞の間みたいな、“どっちもある”っぽい感じが中間文学で。ということは、おお、文学座に合ってますね、僕!(笑)

一同 あははは!

松本 私はカテゴライズして考えたことはないかなあ。ただ、劇構造がしっかりしているものが多いので、そういう作品が好きなんだろうなと思います。

マキノ 文学座だから文学に関係していれば良いのかなって大ざっぱに考えてんだけど。

鄭義信
松本祐子

 えー、文学考えたことないよ(笑)。どちらかと言うと、松本祐子に引っ張られてる(笑)。最初に「冬のひまわり」(99年)を書いたときも、「文学座のアトリエ公演デビューなので素晴らしい作品を書いてもらわないと困ります」と言われて。「そんな注文付けられてもなあ」って(笑)。

松本 「私が演出家になれるかどうかはあなたの腕にかかっている」と言ったらしいんですけど、覚えてない(笑)。

マキノ 脅迫じゃないすか!

西川 あははは。

 ずっと脅迫され続けてやってますね。(松本から声がかかると)「来たか、また」っていう感じ。

マキノ 僕らはね、大人の関係だから。

西川 すごい大人の関係だよ、俺たち。

マキノ 金沢で一緒に温泉に入ったんですよ。たまたま。

松本 ええー?

西川 僕は劇団M.O.P.が好きだったから、いつかマキノさんに書いてほしいってずっと思ってたのね。でもマキノさんは頻繁に青年座に書いてたから、果たしてうちに書いてくれるかなと。そうしたら10年以上前に金沢で、地元の人が書いた戯曲をリーディング、本公演する戯曲賞があって、その審査・アドバイスするのがマキノさん、演出が僕という形でご一緒して、そのときに。

マキノ 竹久夢二ゆかりの湯涌温泉。「それはぜひ行っておかないとダメですね!」という話になって。

西川 そこでいろいろ芝居の話をしたんです。

松本 裸の付き合いだ(笑)。

「殿様と私」より。(撮影:飯田研紀)

西川 それから何年かして、2人で話をしたときに「王様と私」ってずいぶん東洋人を馬鹿にしてるなって話題になったんだよね。で、やり返してやろうと。

マキノ お話自体は良いのに“上から目線”だよなあと思って。なんでシャムの王様が英語しゃべんなきゃならないんだよ、と。

松本 あははは!

西川 そこで気が合って。舞台を日本に置き換えて、殿様がまったく英語を話せない、ディスコミュニケーションの「殿様と私」(07年)を書いてもらいました。

マキノ 西川さんとの仕事も、かつて一緒に温泉に入ったことがあったから実現したわけで。僕、すごく人見知りで、相手をちゃんと知らないと不安なんです。「殿様~」に出演された加藤武さんに、「自分の劇団があるのにほかに書き下ろすのはどんな感じ?」と聞かれて「娘を嫁に出す気分です」と(笑)。だから最初は、演出家がわからないとお断りしてました。今は積極的に新しい人と出会ったほうが良いなと思ってますけど。

ゼロベースから骨身を削って物語を書く、劇作家ってすごい!

──鄭さんはどんな気持ちで文学座、あるいは松本さんに作品を渡しているんですか。

 いやあ、出したら蹂躙じゅうりんされちゃうから(笑)。僕、外部への書き下ろしは、彼女と鈴木裕美さんくらいで。1度出したら人のものだと思っているので、あんまり干渉はしないし、何十稿も書くような映画の仕事もしていたから、書き換えるのは苦じゃないんです。

松本 鄭さんは稽古場に来て、笑いの部分がうまくいってないと、俳優さんに「あそこはね」って“悪魔のささやき”をされますよね。

 ギャグには厳しいです。「ここを笑かすために、こうしてほしい」と。

西川 マキノさんはほとんど言わないけど、1人で笑ってるね(笑)。

マキノノゾミ
西川信廣

マキノ 僕は自作を観て、笑って泣く男として有名です。

一同 あははは!

西川 「殿様~」のときの舞台稽古で、1幕終わって俺が心配になって「面白い?」って聞くと、「え? オモロいじゃん」って言うの。実際、初日が開いたらお客さんが沸いてくれたので、この人が頼り。

マキノ だって面白いように書いてるから(笑)。だいたい、稽古初日の本読みが終わるといつも言いますね、「ええ話やわあ」って(笑)。

 作者が笑ってるんじゃ、誰も文句言えないよ。

松本 あははは。

西川 昔、蜷川幸雄さんは、清水邦夫さんのどんなひどい脚本でもバーッと一読して「名作だ」って必ず言ったんだって。そこからどんどん変えていくらしいんだけど、作家に対するリスペクトですよね。何もないところから骨身削って書いていくわけだから、最初からああだこうだ言うと失礼だと思うのね。

松本 (目を見開いて)アッ!

 あははは。よく聞いていてくださいね。

松本 ……(消え入るような声で)大人になったほうが良いんですよね。

西川 いやいや、思ったことをぱっと言っちゃうところ、松本さんの特徴だから。俺なんかはすごいなと思うんだよ。

──鄭さんと松本さんのタッグは、そういった創作過程での激しい意見のぶつかり合いを含め、うまく作品が立ち上がり、続いている印象があります。

松本 やっぱり鄭さんの作品が好きなので。いろいろな作家さんの作品を演出していますけど鄭さんの作品が一番多くて、椿組での「なつのしま、はるのうた」(07年)、「20世紀少年少女唱歌集」(12年)とか、もともと鄭さんが書かれていたものも含めると、次でもう8作目なんです。

 え、そうなんだ! そんなになるなんて知らなかった。

松本 再演もしてるし。私とものすごい数やってくださっている。今度は何で笑わせてくれて、あっ痛い痛い!って思わせてくれるんだろうと、ワクワクする部分があります。