9月に上演される「
河竹黙阿弥の「三人吉三廓初買」をもとにした本作では、“吉三郎”の名を持つ3人の若者を中心とした物語が展開。監修・補綴を
続けて杉原があいさつ。杉原は「木ノ下くんから話があった通り、木ノ下歌舞伎は僕にとっても、新しい挑戦や経験をさせてくれる劇団です。今回もこうして素敵なキャストの皆さん、素敵な会場、素敵なスタッフの皆さんと共に作品が作れるので、新しい挑戦をたくさんできたらと思っていますし、新しい木ノ下歌舞伎の形を提示できたらなと思っています」と笑顔を見せる。さらにあまり上演されることのない「地獄の場」を木ノ下歌舞伎では復活させた意図を説明しつつ「上演時間が5時間もある作品ですが、これまで僕は6時間の作品も10時間の作品も演出しているので、長時間の演出は任せてください(笑)。お客様を飽きさせることなく、皆様を興奮の渦に巻き込みますので、どうかご期待いただけたら」と自信をのぞかせた。
その後、キャストが出演への思いを語った。田中は「僕が演じる和尚吉三は、運命や因果に翻弄され、葛藤し、とある大きな決断をする役どころです。まもなく稽古が始まりますが、(木ノ下歌舞伎恒例の、歌舞伎作品をそのままコピーして演じる)完コピ稽古も初めての挑戦で、不安がたくさんあったのですが、物作りにおいては苦しむことやストレスも大事なことだとは思っていますので、お互いに挑戦し、その勇気をたたえ合いながら温かい稽古場にしていきたいなと。みんなで助け合い、5時間の舞台をがんばりたいと思います」と真摯に述べた。
お坊吉三を演じるのは須賀。「お坊吉三は武家上がりの盗賊ということで、もとの環境が変わって盗賊にならざるを得なかった部分がある役だと思っています。なので、どことなく品が感じられるようなお坊吉三にしていきたいなと。また今年で30歳を迎えるのですが、日本の文化やカルチャーにももっと触れて自分自身成長していかなければと思っていたタイミングで今回のお話をいただき、挑ませていただくのにぴったりな作品だなと感じています。そういう点も意識しながら挑めたいと思っています」と言葉に力を込める。
丁子屋花魁 一重役を演じる藤野は「私はお坊吉三の妹の役です。花魁でありつつも武家の娘だというプライドがあって、その思いはどういうものなのか、本を読んだりしながら想像しているところです。また、俳優人生の中で歌舞伎作品を演じるということはなかなかないチャンスだと思うので、緊張はありつつ、いろいろなことにチャレンジしていけたらと思っています」と話した。
川平は和尚吉三の父親・土左衛門伝吉を演じる。「この伝吉がやらかしたことがすべてのことの発端で……途中で心を入れ替えて仏の道を目指すのですが、やっぱりどうあがいても過去は消せないという。僕にも皆さんにも“消したい過去”ってあるのではないかと思いますが、本当に人間は変われるのか、ということを考えています」と役柄の難しさを語る。さらに「5時間にわたって人間のドロドロとした負の部分が描かれるような作品になると思いますが、邦生さんのスタイリッシュで飽きさせない演出によって、『やっぱり生きててよかったな』と生に対して前向きなエネルギーを感じられるような作品を届けられたらなと思います」と語った。
文里女房 おしづを演じるのは緒川。「『三人吉三』は160年前の初演時、お正月公演だったそうなんですね。ということを感じながら台本を読みますと、さまざまな生い立ちを負った、ある意味不幸な人たちを描きつつ、観た人を楽しませるために書かれたものだ、と読むと、江戸の庶民は本当に粋な人たち、懐が広い人たちなんだなと感じられます。現代版のこの作品も、今を生きる方たちに楽しんでもらえるような作品になると良いなと思っています」と思いを語った。
おしづの夫・文里を演じるのは眞島。「歌舞伎の演目に挑戦するのは初めてで、どこから何に手をつけて準備したら良いかもまだわからないのですが……」と苦笑しつつ、眞島は「今日、木ノ下さん杉原さんとお話しさせていただいて自分の中でどう準備していけばいいかを感じたので、初日には堂々と舞台に立てるように稽古に励んでいきたいと思います」と話した。
後半は質疑応答の時間に。記者から公演に向けてどんな準備をしているかと問われると、田中は「今は完コピ稽古に向けて、完コピ稽古用の台本と映像資料を見ながら繰り返しモノマネするというか。そういうところから作品作りが始まるのはこれまで経験したことがないことで、それが難しいところでもあり家でとにかくモノマネをしている、という段階です」と話す。
須賀は「どことなく学校のテスト前の探り合いと言いますか(笑)、今日も楽屋で『準備してる?』とお互いに聞き合ったりしていました(笑)。僕もまだ全然なので、皆さん安心していただいて、みんなでがんばっていけたらなと思います」と共演者たちに笑顔を向け、場を和ませた。
また記者から、初演から10年経つことで作品に何か変化を加えるか、プレイハウスという空間や5時間上演についての意気込みは?と問われると、杉原は「時代が変わり価値観もかなり変わっているので、木ノ下くんと一緒に台本を見直し、言葉の1つひとつを全部見直しました。江戸時代の話なので今とはまったく文化が違うんですけれど、その違いも含めてすっとお客さんの価値観に入っていけるような言葉選びをしています。プレイハウスという空間については、むしろ『本領発揮できます!』というくらいの気持ちなので(笑)、空間をめいっぱい使ってダイナミックに見せていけたら」と答える。さらに「僕はいつも作品を1つの音楽と思って演出しているんですが、歌舞伎は特にセリフの抑揚が音楽的。演劇は元々観る芸術ではなく聴く芸術だったのではないかと思うので、音楽性を特に重視して、セリフはもちろん使う音楽なども意識していけば5時間、皆さんが飽きることなく作品をお届けできるんじゃないかと思っています」と展望を語った。
最後に木ノ下は「歌舞伎でも能狂言でも、日本には古典芸能が幸い残っていて比較的簡単に古典を読んだり観たりすることができます。古典を観る楽しさには色々あると思いますが、その1つは昔に書かれた話を読むこと、あるいはそれを現代的に解釈したものを観ることによって、昔はこういう感覚だったのだなとか、ここは変わっていないんだな、私たちが無くしてしまった感覚がここにはあるなということを再発見することだと思います。つまり古典を観ながら現在の私たちが立っている時代がこれまでどういうふうに変化してきたのか、過去と現在の距離を測ることができるのです。そういうところが日本の大きな強みだったと思いますが、昨今その強みが非常に軽視されているような気がしてなりません。木ノ下歌舞伎がやっていることを何か正当なものだと思っているわけではありませんが、しかしながらもう一度古典を観る、読むことの大切さを感じながら作品を作っていきたいと思っております」と、公演に向けた熱い思いを語った。
公演は9月15日から29日まで東京・東京芸術劇場 プレイハウスで行われ、チケットの一般販売は7月20日10:00にスタート。「三人吉三廓初買」は東京公演ののち、10月に長野・まつもと市民芸術館 主ホール、三重・三重県文化会館 中ホール、兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールで上演される。
東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクション 東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」
2024年9月15日(日)〜29日(日) ※公演終了
東京都 東京芸術劇場 プレイハウス
2024年10月5日(土)・6日(日) ※公演終了
長野県 まつもと市民芸術館 主ホール
2024年10月13日(日) ※公演終了
三重県 三重県文化会館 中ホール
2024年10月19日(土)・20日(日) ※公演終了
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
スタッフ
出演
スウィング:佐藤俊彦 /
※東京公演の9月26日はスウィング俳優出演回。
※東京公演では、65歳以上、29歳以下、高校生以下割引チケットあり。
※一部公演で聞こえない・聞こえづらい観客のためのポータブル字幕機提供、見えない・見えづらい観客のための音声ガイドあり。
※矢部昌暉は体調不良により降板しました。代わって坂口涼太郎が出演します。
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柏木ゆげひ(朝原広基) @kashiwagiyugehi
“たった5時間”の上演で申し訳ない…木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」に意気込み(ステージナタリー7/17) https://t.co/j9aI10K5Lv 「河竹黙阿弥の『三人吉三廓初買』をもとにした本作では、“吉三郎”の名を持つ3人の若者を中心とした物語が展開。監修・補綴を木ノ下裕一、演出を杉原邦生が手がける。」