「赤鬼」が昨日7月24日に東京・東京芸術劇場 シアターイーストにて開幕した。
「赤鬼」は、移民、国境、社会の分断などに斬り込んだ
劇場に入りまず目に飛び込んでくるのは、四角に区切られた真っ白なアクティングエリアだ。そこへ、やはり真っ白な衣装を着た俳優たちが入れ替わり立ち替わり姿を現し、開場中はずっと、ざるやたらいを揺すったり、竹竿をしならせたりとそれぞれの作業に熱中している。客席は、舞台をぐるりと囲むように四方に設けられ、舞台と客席の間には透明なシートが吊るされた。薄くて透明なそのシートはほとんど存在を感じないが、俳優が動くと静かに波打ったり、照明の加減で急に鏡のように光ったりして、“向こう”と“こちら”に無言の境界線を引く。
やがて村人たちの作業音がリズムを刻み始め、それが重なり大きな演奏となった。熱狂はそのまま嵐へと変貌し、嵐の中から、あの女ととんび、そしてミズカネが救出される。衰弱したあの女は村人から差し出されたスープを飲み干し、恐ろしい事実を知る──。
夏子は、登場の瞬間からひときわ光を放ち、若さと熱さと怒りを全身にたぎらせたあの女を瑞々しく演じる。強い意志を持った言葉は端正な顔立ちによく似合うが、その凛とした表情は、赤鬼との出会いによって徐々に和らいでいく。そんな彼女を何とか自分のものにしようと、ミズカネはとんびを抱き込みながら機会を狙う。河内ははじめ、ミズカネを少年のような無邪気さと明るさで魅せるが、赤鬼の登場によって嫉妬や愛憎が芽生えると、大人の男へと言動を変えていった。
2人の傍らで、常に変わらないのはとんび。木山は、とんびの“空気の読めなさ”“足りなさ”を愛嬌に変え、観客の心を掴んでいく。そして劇中ではいわゆる“言葉”を発しないが、赤鬼の戸惑いや苦しみ、優しさを森田は身体全体を使ってダイナミックに表現。前半は素速い動きで赤鬼の獣的な側面を見せ、後半は仕草や表情に赤鬼の知性や聡明さをにじませて、鮮烈な印象を残す。さらに
ドラマティックなストーリーは、初演から24年を経た今も色あせず、まざまざと“今”を映し出す。さらに2020年版では、舞台と客席、赤鬼と村人、人間と人間の間に、透明シートさながら不可視の境界線が確固としてあること、それがコロナ禍によって浮き彫りになった多様な“分断”に重なることを、ビビッドに訴えかける。
公演は新型コロナウイルス感染症対策を十分に行ったうえで実施され、このあと7月30日から8月3日までBチーム、6日から10日までCチーム、12日から16日までDチームが出演。上演時間は休憩なしの約1時間30分。また27日14:00開演回とBチームが出演する8月1日19:00開演回の追加公演が決定。そのほか、当日券の取り扱いについては東京芸術劇場公式サイトにて確認を。
ステージナタリーでは「赤鬼」の特集を展開中。野田と、キャストの河内、森田、末冨真由、加治将樹、川原田樹、上村聡、北浦愛による座談会と4チームの稽古場レポートを掲載している。関連する特集・インタビュー
「赤鬼」
2020年7月24日(金・祝)~8月16日(日)
東京都 東京芸術劇場 シアターイースト
作・演出:キャスト
A team:
B team:
C team:石川朝日、石川詩織、
D team;石川朝日、石川詩織、上村聡、
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【公演レポート】“見えない境界線”がよりビビッドに、2020年版野田秀樹演出「赤鬼」開幕 https://t.co/jX97MUypmN