7度の伊藤全記(左)と山口真由。

由来を教えて!劇団名50 その34 [バックナンバー]

7度

戯曲の中に埋もれた声を現代に響かせたい

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次々と新たな作り手が頭角を表す演劇界。数ある劇団の中から、ジャケ買いならぬ“劇団名買い”で観劇に行った経験はないだろうか。チラシやニュース、SNSなどで目にする劇団名は、シンプルなものから不思議な音の響きを持つもの、「どういう意味?」と目を引くものまでさまざまだが、それには名づけ主の希望や願い、さらには演劇的活動戦略が込められているはず。このコラムでは多彩な個性を放つ若手劇団たちの、劇団名の由来に迫る。劇団名が持つ秘密と共に、未来の演劇界を担う彼らの活動の軸を紐解いていく。

34番目に登場するのは、東京と千葉を拠点とする7度。演出家の伊藤全記と俳優の山口真由による7度は、「演劇人コンクール2021」にて、伊藤が優秀演出家賞、山口が優秀演劇人賞をW受賞し注目を集めた。12月6日から三好十郎の「胎内」の上演に挑む彼らが、シンプルが故にその意味が謎めいている劇団名の由来を教えてくれた。

7度(ナナド)

Q. 劇団名の由来、劇団名に込めた思いを教えてください。

「7度の『度』って、なんの『度』?」

劇団名について、よく聞かれる質問です。多くの人が、数字に“度”がつくと、温度や角度などを思い浮かべるのではないでしょうか。では、私たち7度の“度”は、何の“度”なのか? 実は、耳にする機会は少ないかもしれませんが、音程の単位の“度”なんです。例えば“ド”から数えて7つ目の音は“シ”です。難しい説明は省きますが、この場合の“ド”と“シ”の関係を、7度音程というそうです。その、7度なんです。

かつて、伝統的な西洋音楽の世界では、7度の音程を使った和音は不協和音になるとされ、嫌われていました。そのため、決められた場合を除き、使われていなかったそうです。しかし20世紀になると、作曲家エリック・サティが現れます。彼は「ジムノペディ」という、いわば実験的な曲で、7度の音程をたくさん使いました。その音は新しい響きとなって、音楽の可能性を拓きました。

といったようなことを、団体名に頭を抱えていた時に、当時NHK Eテレで放送されていた、「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」が教えてくれました(笑)。「私も、演劇で、そういうことがしたい!」と、このとき強く思ったことを、今でもはっきりと覚えています。

ずっと気づかれないでいた音を再発見し、世界に響かせたアーティストたち。そのように、私たちも戯曲の中に埋もれた声に耳を傾け、その声を現代に響かせたい。そんな思いから、7度という名前になりました。

Q. 劇団の一番の特徴は?

7度は、作家・演出家を兼任せず、既存の文学作品を“演出”することで、作品作りをしています。これまで、古典戯曲から現代戯曲・小説やエッセイを上演してきました。さらに、戯曲や小説に対して大胆なテキストレジを行います。文章、時には言葉を断片にまで分解することもあり、同じフレーズが何度もリフレインすることもあります。そうして、過去のある時代に書かれた文章を、現代に重なるものとして再構成する演出が大きな特徴です。

こうした演出をする動機として、2018年より“dim voices”という演劇・演技観を掲げています。“dim voices”とは、“dim”(ぼやけた、ぼんやりとした、薄暗くてはっきり見えない)といった言葉と“voices”(声)の複数形を合わせた造語で、「かすかな声たち」といったイメージで用いています。物語の中にあって、しかし気づかれにくく、埋もれているそれらの声にじっと耳を澄まし、どのように響かせるかを中心に、舞台空間を考えています。この声を届けるため、とても大事にしているのが“沈黙”と“暗闇”です。7度の上演では、とても静かな時間や、非常に深い闇が訪れます。“ことば”と“沈黙”が拮抗する、緊張度の高い舞台空間です。この空間を観客の皆さんと共有し、物語だけにとらわれず、言葉そのものと向き合う時間を作る演出を心がけています。ただ、“静かで、動きが遅く、暗い”という演出の特徴は、睡眠環境として最適であるという特徴をもはらんでいて、いつもドキドキしながら慎重に取り組んでいます(笑)。

Q. 今後の目標や観客に向けたメッセージをお願いします。

2023年12月6日から10日にかけて、こまばアゴラ劇場にて一人芝居「胎内」を上演します。2021年、豊岡演劇人コンクールにて優秀演出家賞・優秀演劇人賞を受賞した作品の再演となります。戦後の日本を舞台に、横穴の中で生き埋めになった3人の会話による芝居ですが、今回はこの穴をワンルームマンションの一室とし、現代の生き苦しさを戯曲に重ねた、女性の一人芝居としています。

劇場に来ることで、さまざまな世界への扉が開かれたら、とても素敵だと思います。それは、自分の外側にある世界への扉かもしれないし、もともと自分の中にあって、今まで気づくことのなかった扉なのかもしれない。そんな扉に出会う機会を、たくさん作っていきたいと思います。

また、何より、劇団の掲げる“dim voices”を大事にし、強くしなやかな作品を作り続けていきます。今後の“dim voices”の新しい展開として、“自分”から始めて“他者”を考える、新しい上演空間の創造を考えています。

スマホ1つでグローバルメディアに接続できる今日、“他者”について知ることは、簡単なようでいて、実は一層難しくなっているのではないでしょうか。そんな困難な世界の中で、私たちの作る演劇が、バタフライエフェクトのような、ささやかな始まりであっても、見えない形であっても、世界を変えていける力になると思っています。

劇場にて多くの方とお会いできるのを、心待ちにしております。

7度の過去の公演より。

7度の過去の公演より。

プロフィール

2014年に伊藤全記と山口真由により結成。古典から近現代の戯曲・小説を主に上演する。2018年より戯曲に埋もれたかすかな声に耳を澄ます“dim voices”シリーズをスタートした。「演劇人コンクール2021」にて、伊藤が優秀演出家賞、山口が優秀演劇人賞をW受賞した。

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tonia @tonia_ysmgo

劇団名「7度」の由来は「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」

由来を教えて!劇団名50 その34
https://t.co/YwUauqZRe7

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