幻の映画「MISHIMA」日本初上映、ポール・シュレイダーが三島由紀夫に重ねた人物とは

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第38回東京国際映画祭が行われている本日10月30日、映画「MISHIMA」のジャパンプレミアが東京・ヒューリックホール東京で開催。監督・脚本のポール・シュレイダー、製作を担った山本又一朗、アソシエイトプロデューサーを務めたアラン・プールが上映前のトークショーに登壇した。

第38回東京国際映画祭「MISHIMA」ジャパンプレミアの様子。左からアラン・プール、ポール・シュレイダー、山本又一朗

第38回東京国際映画祭「MISHIMA」ジャパンプレミアの様子。左からアラン・プール、ポール・シュレイダー、山本又一朗

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幻の映画「MISHIMA」

1985年に製作された本作は、作家・劇作家として知られる三島由紀夫の生涯を描いた作品。三島が割腹自殺を遂げた最期の日を舞台に、彼の過去をたどる回想と、小説作品を映像化した劇中劇を織り交ぜて展開していく。主演の緒形拳が三島を演じたほか、坂東八十助(十代目坂東三津五郎)、沢田研二らが出演。フランシス・フォード・コッポラ、ジョージ・ルーカスというそうそうたる監督もエグゼクティブプロデューサーに名を連ねたが、日本での劇場公開はされていない。そのため、海外で高く評価されながらも日本では観ることが難しい“幻の映画”となっていた。

「MISHIMA」場面写真。緒形拳が三島由紀夫を演じた

「MISHIMA」場面写真。緒形拳が三島由紀夫を演じた [拡大]

三島の生誕100年、完成から40年を迎える今年、東京国際映画祭にて日本初上映が実現。「日本映画クラシックス 生誕100年 三島由紀夫特集」の1本である本作のチケットは、発売開始からわずか15分で完売した。最初の挨拶に立った山本は「すさまじい勢いでチケットが売れまして、今日ここにいらっしゃる人は本当にラッキーな方々」と観客に呼びかける。現在79歳のポールは「いつかはこうやって日本で上映できる日が来ると信じていました。でも生きていられるかどうかというのが問題でした」と吐露。「山本さんがこの船の航海をずっと続けてくれたおかげで実現できたと思います。ありがとうございます」と感謝した。

「MISHIMA」で監督・脚本を担ったポール・シュレイダー

「MISHIMA」で監督・脚本を担ったポール・シュレイダー [拡大]

「MISHIMA」で製作を担った山本又一朗

「MISHIMA」で製作を担った山本又一朗 [拡大]

沢田主演の「太陽を盗んだ男」を製作したことでも知られる山本。同作の脚本を長谷川和彦とともに手がけたのが、ポールの兄であるレナード・シュレイダーだった。この縁で山本がアメリカに渡った際、ポールとレナードから「MISHIMA」の企画を聞き、映画が動き出した。「それから幾多の荒波の中を航行してまいりました。本当に大変立派な仲間たちがそろってくれた」とスタッフやキャストの名前を挙げつつ、今日の上映に駆けつけた出演者の萬田久子永島敏行らを紹介。なお沢田や佐藤浩市にも声をかけたが、スケジュールの都合で参加は叶わなかったという。

日本での上映という夢

「MISHIMA」でアソシエイトプロデューサーを務めたアラン・プール

「MISHIMA」でアソシエイトプロデューサーを務めたアラン・プール [拡大]

近年はドラマ「TOKYO VICE」でエグゼクティブプロデューサーを務めるなど、製作者や監督として活動を続けるプール。「MISHIMA」に関わる前は米ニューヨークのジャパン・ソサエティで映画プログラムを担当し、日本の監督や俳優の特集を企画していたそう。それまで映画製作の経験はまったくなかったが、ポールから「今の仕事を辞めて、僕と一緒に日本に行ってこの映画を作ろう」と誘われ、本作に参加。「初めて映画の現場に足を踏み入れたのは、当時の東宝スタジオ。それから40年間、映画やテレビのプロデューサー、監督として活動できたのは100%、ポールのおかげです」と感謝した。

「MISHIMA」場面写真

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完成から40年が経過した本作はすでに亡くなっている関係者も多い。プールはプロデューサーのトム・ラディ、脚本のレナード・シュレイダーとチエコ・シュレイダー、美術の石岡瑛子、撮影監督のジョン・ベイリー、そして出演者の緒形、八十助、左幸子李麗仙池部良笠智衆と1人ひとりの名前を挙げて感謝を伝える。さらに今回の上映に尽力した東京国際映画祭のスタッフとチェアマン・安藤裕康の貢献にも感謝。最後には「この40年間の間、何よりも又さん(山本)の情熱と粘り強さのおかげで、日本での上映という夢が現実になりました」と話した。ポールが緒形の印象的なエピソードとして「三島の家の撮影のとき、外観を撮ろうとしたら、ゴミが散らかってたんです。スタッフが片付けだしたんですが、よく見ると緒形拳さんまでもゴミを拾っていた。ああ、これは日本の映画だと思いました」と語る一幕もあった。

「なんで三島なの? なんであなたが監督するの?」

ポールは「日本に戻って来られて、とてもうれしく思います。というのは撮影中にですね、私の娘がここ東京で生まれたから。1984年の元日でした」と個人的な思い出を述懐。山本は製作時の裏話として「まだ製作が正式に決まっていない段階で、奥さんが妊娠なさっていて、もう飛行機で日本に行かないと乗れなくなるというタイミングがありました。キャストもほぼあたりをつけていたのが、全部キャンセルになるんじゃないかとヒヤヒヤしてました。そのときコッポラさんが『GO!』と。結論はあとでもいいから行け、と。そのあと無事に来れて、無事に映画が決まって。だから娘さんが日本で生まれることになったんです」と内幕を明かした。

「MISHIMA」場面写真

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アメリカ人の監督である自分がなぜ三島を題材にした映画を撮ったのか、その理由を説明するポール。「なんで三島なの? なんであなたが監督するの?」とよく聞かれるそうで、「三島のことは兄のレナードから聞いていました。彼は京都の同志社大学に務めていて、市ヶ谷で三島の事件が起きたとき、日本にいたんです。私が三島に惹かれた理由は、彼の心理。私が育ったキリスト教では、どういうわけか苦しみの中から栄光をつかむことができるという考えが、ある種の定型としてあります。それを私は『タクシードライバー』で追求しました」と自身が脚本を手がけた代表作に触れる。

「タクシードライバー」の主人公は、ニューヨークでタクシー運転手として働くトラヴィス・ビックル。徐々に孤独を深めていく青年であり、やがて、よりよい社会という大義のために暴力的行為を犯す狂気をはらんだキャラクターだ。ポールは「彼のことを無知で教養のない人物と捉える人もいます。でも私は、こういう心理状態は、成功した、教養のある人でもなり得ると思っていました。そう言うと『例えば誰だ?』と聞かれます。そのとき私は即座に『三島だ』と答えていました」と、トラヴィスと三島を重ねる。そのうえで「トラヴィスと同じような考え方、心理を持った人物が、こんなに離れた東洋にいるということを知った。成功をつかんだ有名人であり、結婚もしていて、金持ちでもある。そしてホモセクシュアルでもある。苦悩を通して恍惚を得ている。その共通点に興奮して、ぜひともこの題材を取り上げたいと思いました」と語った。

第38回東京国際映画祭は11月5日まで開催。

左からポール・シュレイダー、山本又一朗

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©1985 The M Film Company

読者の反応

中公文庫(中央公論新社) @chuko_bunko

昨日の映画「MISHIMA」上映、伺いました。
美しい映像で、三島の苦悩と芸術が多面的に表現されていました。

猪瀬直樹著『ペルソナ 三島由紀夫伝』は11月25日刊にて復刊予定です。
三島の命日から55年目にあたります。 https://t.co/Hx5BpVTCiO

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