第38回東京国際映画祭ガラ・セレクション部門に選出された「Sirat(原題)」が、本日10月29日に東京・丸の内ピカデリーで上映され、監督のオリヴァー・ラクセが上映後のQ&Aに登壇した。
第78回カンヌ国際映画祭でコンペティション部門審査員賞など4冠を獲得した本作。失踪した娘を探すため、父と息子が砂漠のレイブパーティに参加することから物語が加速する。主演は「ハリー、見知らぬ友人」「パンズ・ラビリンス」の
ラクセは1982年生まれ、スペイン・ガリシア出身の監督。観客から拍手で迎えられると、穏やかな笑みとともに「ありがとう」と日本語で感謝を伝えた。まず「レイブ会場で出会う仲間たちの欠損描写には、元軍人などの背景があるのか?」という質問に対して、ラクセは逆に観客へ「どう想像されましたか?」と問いかける。質問者の分析に、ラクセは「すごくいい答えです」と笑顔。そして体に欠損を持つ登場人物たちについて「人生でとてもつらい経験をしているはずですが、それでも彼らは前進している。受け入れ、切り離す力を持っているんです」と述べ、作品に込めたテーマをにじませた。
続いて、劇中でテクノ音楽を使った理由を問われると、ラクセは「好きだからです」と即答。「映画というのは自分自身の内面を見つめる作業。自分の好きなものを入れ込むことなんです」と続け、「電子音楽には“振動”がある。どんな楽器を使っているかわからないあいまいさがあり、それが刺激になる。異国情緒や謎めいた感覚をほうふつさせると思います」と説明した。ほかの質問者からも音楽に関して尋ねられ、「この映画を作るとき、まず自分で一生懸命踊りました。踊って、シーンを想像した」と明かし、脚本執筆時から音楽の力を借りていたことを振り返った。
ロケ地とストーリー、どちらを先に決めるかについては「そんなに意識してないんですが、ロケハンが好きなんです」と語る。過去作も含めて自然が印象的だという指摘に「自然は美しいから撮るのではなく、生きているから撮る。人生や生活を映し出し、私たちを揺さぶり、時に守ってくれる。あらゆるものに神が宿っていて、私たちに刺激を与えてくれるんだと思います」と答え、自身の哲学をうかがわせた。
観客の質問にじっと耳を傾け、時には理由や解釈を尋ねながら、丁寧に対話を紡いだラクセ。「私がどう意図したかは重要ではない。そう感じたなら、それが正しい解釈です。映画とは受け手が自由に解釈するもの」と断言し、「はっきりとした答えを与える映画も作れると思いますが、あえてクリアにしすぎない。そのバランスが大切です。光と影、芸術とはそういうものです」と強調する。“死”にまつわる話では、「死は誰にも訪れる。でも大切なのは“どう死ぬか”です。私は踊りながら死にたい」とユニークに答え、会場から小さな笑いと深いうなずきを引き出した。
「Sirat」は2026年に日本公開予定。詳しくは公式発表を待とう。
第38回東京国際映画祭は11月5日まで開催。
※「Sirat」の「a」はサーカムフレックス付きが正式表記
映画「Sirāt(原題)」予告編 | 第38回東京国際映画祭ガラ・セレクション部門
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nobuhide abe 阿部修英 @noanswerbutq
「映画というのは自分自身の内面を見つめる作業。自分の好きなものを入れ込むこと」
「自然は美しいから撮るのではなく、生きているから撮る」
外面の与件と
形を変えない決まり切ったものに
依存しがちな中で。
シラット、観たい。
https://t.co/X7fArCpqQh