731部隊の真実を追いながら現在の医療関係者を取材したドキュメンタリー映画「医の倫理と戦争」が、11月22日より東京・ユーロスペースほか全国で順次上映される。YouTubeでは予告編が公開された。
第2次世界大戦中、中国人をはじめとする捕虜や住民に人体実験を行っていた日本の研究機関・731部隊。本作では医療従事者による戦争犯罪への加担という負の歴史とともに、現在の医療現場が抱える問題をえぐり出す。
本作を企画した伊藤真美は「戦争に備えることは、国策に動員され戦争に加担していく過程であったことを歴史から学ばなければならない。とりわけ医療者は戦争に真っ先に動員される」「インタビューに応じてくれた各人からの共通のメッセージ、『戦争に備えるのではなく、医療者は戦争を起こさないことに全力をあげるべき』を届けたい」とコメント。監督の
ユーロスペースでは上映後に40分のトークショーも。ゲストやスケジュールなど詳細については記事下部に掲載した。
ドキュメンタリー映画「医の倫理と戦争」予告編
伊藤真美(安全保障関連法に反対する医療介護・福祉関係者の会)コメント
今もなお、残虐な形で多くの市民が殺されているのにもかかわらず、現代の世界はそれを止めることができないという事実。2013年に秘密保護法、2014年に防衛装備移転三原則、2015年に安全保障関連法、2017年に共謀罪の創設、そして沖縄で、日本の各地で、米軍だけでなく自衛隊のミサイル基地が、弾薬庫が、着々と新たに作られている。多くの人々が、戦争に備える必要性を受け入れ始めているようにもみえる。
戦争に備えることは、国策に動員され戦争に加担していく過程であったことを歴史から学ばなければならない。とりわけ医療者は戦争に真っ先に動員される。ナチスドイツに匹敵する日本の医療者による戦争犯罪の事実は、医療者さえも詳らかには知っていない。医療者が戦争に加担した歴史が、戦後アメリカとの密約のもと覆い隠されたまま戦後の医療界は形作られてきたからだ。
戦後80年の節目に、映画でインタビューに応じてくれた各人からの共通のメッセージ、「戦争に備えるのではなく、医療者は戦争を起こさないことに全力をあげるべき」を届けたい。
「倫理は法よりも高い基準の行為を要求し、ときには、医師に非倫理的行為を求める法には従わないことを要求します」。これは世界医師会の「倫理マニュアル」にある一文。「戦争を起こさないこと」はもちろん、「悪法には従わないこと」、それは容易なことではない。それでもなお、医の倫理にこそ従うべきであることが、真に医療者に問われている。
山本草介 コメント
「医」と「戦争」。これほどかけ離れたものはないだろう。命を救うのが「医」であり、命を奪うのが「戦争」だからだ。僕はこの映画を撮影するまで、当然「医」に携わるものは「戦争」に抗い、否定するものだと思っていた。だが、現実はそうではなかった。過去に医療者は実験と称した大量殺人さえし、現在も、反戦運動に関わるものは少数であり、職場では異端とされる。なぜなのだろう? 医療者がどれだけ努力を重ねて一人の命を繋いでも、一生かけて新しい治療法を開発しても、戦争が起こればすべてが無に帰すのに。僕は退院する元患者を見送る医療者の笑顔を知っている。それが心から生まれたものであると知っている。力及ばなかった時の苦悩も見ている。
しかし、だからこそ、この映画を世に出す必要があると思った。彼らに見てもらう必要があると思った。そして私たちの命への「倫理」そのものが脆く、いとも簡単に失われることを、僕はこの映画を作り、知った。
「医の倫理と戦争」ゲストトークスケジュール
2025年11月22日(土)伊藤真美(花の谷クリニック院長)
2025年11月23日(日)吉中丈志(京都大学医学部臨床教授)
2025年11月24日(月)佐藤直子(東京新聞論説委員)
2025年11月25日(火)徳田安春(群星沖縄臨床研修センター長・総合診療医)
2025年11月26日(水)青木美帆(憲法学者・学習院大学教授)
2025年11月27日(木)
2025年11月28日(金)宮子あずさ(精神科看護師・文筆家)
※監督の山本草介は連日登壇
映画ナタリー @eiga_natalie
731部隊の真実と現在の医療問題を追うドキュメンタリー「医の倫理と戦争」公開(予告編あり / コメントあり)
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