アニメ業界におけるAIの活用方法とは、手塚眞・荒牧伸志らが可能性や問題点を議論

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第3回新潟国際アニメーション映画祭にて、シンポジウム「AIによるアニメ表現の行方」が本日3月17日に新潟・日報ホールで開催。手塚プロダクションの手塚眞、映像作品の音楽・音響を手がける長嶌寛幸、「攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間」のラインプロデューサーなどを務めた飯塚直道、映画監督・中島良、アニメーション監督・荒牧伸志が参加した。

左から荒牧伸志、飯塚直道、中島良、手塚眞、長嶌寛幸

左から荒牧伸志、飯塚直道、中島良、手塚眞、長嶌寛幸

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手塚眞

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「芸術表現におけるAI・生成AIの役割」という切り口で、クリエイター陣が今後の創作について語り合う本企画。手塚は新潟入りをする前に、ピクサーのチーフテクニカルディレクターと話す機会があったと言い「雑談の中で『ピクサーではAIは使っているんですか?』と身もふたもない質問をすると、鼻で笑いながら『予算も、時間も、優秀な人材も豊富にそろっています。AIを使う必要があるでしょうか』と言われて、その通りだと思いました(笑)」と話す。「ですが、すべてのアニメ制作の環境がそうではありません。限られた環境の中でクオリティを保ちながら作品を作っていくために、AIが役に立つんじゃないかという期待があります。このシンポジウムでは、クリエイターとAIの関係性を深く追求していきたいと思います」と前置きした。

長嶌寛幸

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荒牧伸志がAIを使ってレンダリングしたテスト映像の一部

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本企画の発起人である長嶌は「2023年の『アニメ業界を対象とした生成AIに関する意識調査』では、約7割がなんらかの形で生成AIを規制すべきだと考えているという結果が出ました。著作権をどう考えるか、また雇用の問題も大きなテーマではありますが、それよりももっとクリエイティブな話として、AIを使ってどんな新しい表現が可能になるのかを考える必要もあるのではないか。それが、私がこの企画を最初に発想したときの思いです」と語る。続いて、AIをCGアニメーションにどう取り込むかというテーマでテストを重ねているという荒牧が、「ULTRAMAN」シリーズの素材をベースにAIで最終レンダリングを行ったテスト映像を披露。「ほぼ安定した映像ができている。100%意図通りとは言えないが、95%ぐらい。向いているシーンとそうでないシーンがあると思います」と報告した。

飯塚直道

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アニメの演出におけるAIの活用に話題が及ぶと、サポーティブAIを使ったテレビアニメ「ツインズひなひま」で演出を担った飯塚は「演出をAIに任せるという発想にはそもそもならなかったです。映像作りの面白い部分をAIにやらせてもしょうがないかなと」と述懐。同時に気付きもあったそうで「アニメ作りって模倣で成り立っているんです。アニメーターはキャラデザインをまねしなきゃいけないし、動画担当は原画をまねしなきゃいけない。それで成立しているのがアニメだけど、アニメーターは言われたことを守るほうが大事になり、演出について考えるきっかけがどんどん少なくなるんです。演出ができるアニメーターがなかなか育たない環境なので、AIに演出をさせるというよりは、AIで制作コストを下げることによって、アニメーターが演出をする機会が増えればいいなと思っています」と活用方法を力説した。

中島良

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画像生成AIとモーションキャプチャを使い、アニメーション映画「死が美しいなんて誰が言った」を制作した中島は、「俳優を介さずにいきなりAIに演技をさせる可能性はあったか?」という手塚の質問に対し、「演出家としてその方法は面白いとは思いません。それはAIが作ったものであり、僕が作ったものでなければ役者さんが生み出したお芝居でもないので」と答える。AIとの付き合い方については「僕はどうしてもAIを『対立する存在』『自分とは違う表現を利用するためのもの』と思っているのですが、もっと下の世代がAIを生まれた頃から使って手になじむものになった場合、AIと自分がある種同じアイデンティティを用いて表現している感覚に変化するのではないかと思います」と持論を展開した。

問題点として、手塚は「アニメで1人の人物の動きを表現するとき、例えば『歩いている』と『座る』の間の動きを作る“中割り”の勉強が重要です。でも、AIはそれを自動的に動かして(中割りを学ぶ機会を奪って)しまうので、AIでばかり勉強していたらアニメが作れない人になる。アニメーターを育てるという意味では難しいと思います」と指摘する。また荒牧は「今の大きな問題はAIの進化が速すぎること。テレビシリーズ13話分ぐらいのワークフローを作っても、半年も経たず新しいことができるようになるので、それをどこまで取り入れるか都度判断が必要なのは悩ましい」と課題を提示した。

一方で、飯塚は「AIでしかできない表現として、マンガ家の絵でアニメを作ることができると思う」と可能性を示し、「2022年末に公開された『THE FIRST SLAM DUNK』がヒットした要因の1つとして、井上(雄彦)先生の絵がそのまま動いているということもあったと思う。原作者の絵が再現されていることはアニメにおいてすごく重要な評価軸だと思いますし、原作マンガをAIに学習させて、その絵をアニメに出力させることで、細かいニュアンスまで再現して原作に近付けることができる。これは観客にとってもうれしい創作物になるのでは」と口にする。手塚は「まさに僕が5年前から研究していることで、手塚治虫のマンガの絵を学習させて“手塚治虫調”のアニメができないかと試している。明確に言えることは、『手塚治虫の描いた線でアニメは作れる』ということ。ただそこに演出を加えることはまだできない」と報告した。

荒牧伸志

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シンポジウムの参加者からは「アニメーション作家の独自の表現が失われてしまうことを危惧しているのですが、オリジナリティを保ちながらAIを活用するにはどうすればいいでしょうか?」という質問が飛んだ。中島は「まず使ってみて、何が失われるのか分析すべき。AIを使う表現が許容できるのか、作品ごとに実験していけばいいのでは」、荒牧は「一番大事なのは、表現者として何をやりたいのか・どういうルックにしたいのかということ。それが明確にあったうえで利用すれば有用だと思います」と回答。また飯塚は「制作してみて、AIの恐ろしさも痛感した。AIは作者が不在なので、それに対して“かわいい”と思ってしまうこと自体が怖いんですよね。技術としてこれから伸びていくのは間違いないけど、生理的な部分で感じるAIの怖さみたいなものは、使う側として忘れてはいけないと思います」と述べた。

第3回新潟国際アニメーション映画祭は、3月20日まで新潟市民プラザほかで開催中。

※手塚治虫の塚は旧字体が正式表記

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Wing Cheng @wing_Love_X

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